友&愛~『俺とお前』~第2話
“最愛のガールフレンド”の安否を気遣う一方で一瞬にして穏やかな日常が破壊された天災地変の恐ろしさを目の当たりにし、今回仕方なく帰郷、帰省する運びとなった俺!地元なら何か良いことあるかも?と思ったのが間違いの元!世の中そんなに甘くない現実に悉く心身もろとも情けないくらいボコボコと打ちのめされた過去の武勇伝(?)
「いやぁあの頃は若気の至りでつい調子に乗って…!」
♪ナイフみたいに尖っては、触るもの皆傷つけた♪(チェッカーズの『ギザギザハートの子守歌』)を地で行く主人公の切な過ぎる過去をどうぞ笑ってやって下さい!
第2話 帰郷そして怒りの工場半日勤務
阪神.淡路大震災から約1週間経った1月下旬、俺は速やかにアパートを引き払い、我が故郷『北山手市』へ再び戻ってきた。これは、別段地元が恋しくなって帰ってきたわけではなく、本当を言うと日本一の繁華街“東京”に引っ越すつもりだったのが無職失業者であるが故にアパートが定まらず一時地元で様子を見る羽目になったからだ。そうなると両親は疎か兄弟及び友人までもが、この俺の帰省を大歓迎し、何とかしてこの俺を思いとどまらせようとあの手この手を使って口説こうとしている。ま、俺自身、広島から持ち帰った大量の荷物と都内で未だ見つからぬ就職先に半ばうんざりしてか、あっさり彼らの言うがまま地元に残ることにした。う~ん!今になって考え直してみるとこの決断は、俺個人の優柔不断さが招いた“今世紀最大かつ最低なる悲劇の始まり”だったと言える。
2月に入り、まずはともあれ職探しに奔走する俺は、手っ取り早く実家近くにあるドデカイ工場にうまい具合に就職、さっそく勤務することになった。その名も『宝命真空』という、地元ではちょいとばかし名の知れた会社なのだがそんな事に殊更無頓着なこの俺は、ここが一体何を造っている工場なのかもよく分からないまま就職したもんだから結局長続きしなかった。長続きどころか勤務初日の半日で「ハイ、サヨウナラ!」って感じ。これも俺としてはちゃんとした、ま、それなりの理由があっての決断だったわけで“突然訳も無く”ってわけじゃない。う~ん、早い話が今風に言う“キレた!”って感じだろうか?“処置なし”なんだけど…。
「それでは、その模様をさっそくプレイバックして見てみよう!」
って一体誰に言ってるんだ?この俺は…?
あれは、勤務初日に当たる月曜日午後の個人面接での話。その後の案内で何が一番気に食わなかったってこの俺が配属された部品製造課程のグループリーダーである一人の中年男性が俺の履歴書を見るなり開口一番こう言い放ったことだった。
「アンタは、随分職を転々としているようだけど、それが一番気になるッ!」
『そりゃまあ、お宅のおしゃる通り、全くその通りなんだけどさあ!初対面でこれからこの工場で一生懸命頑張ろうと言う気構えでやって来たのに、それはないんじゃないの?『どうせまたこの野郎2~3日したら辞めてしまうんだろう』と思っての一言かも知れないんだけどさ。面と向かって直接言うなよな、このオッサン!』…とまあ、俺自身は、一言たりとも口外できぬまま、ただただ、うしろ姿の時だけ後頭部を殴るフリして振り向き様ささっと振り上げた拳をもの凄い勢いで引っ込める始末。とにかくこの一言にカチンと来た俺なんだけど、ま、我慢すべきところは我慢して仕事の様子をひとりぽつんと突っ立ったまま眺めていた。するとなんと作業場では、従業員の誰一人としてこの俺に気付かないというか、気にかけようとしない。
『オイオイ、これでも今日入社したばかりの新人だよ!“おぉニューフェースの登場かぁ!”って歓迎してくんねえのかよぉ?(…って威張ってどうすんだ?)ま、それくらい工場って所は忙しいんだろうなぁ?“本当にご苦労様です。何か御手伝いしましょうか?何なりとお申し付け下さい!”…ってこの俺様が素直にこの下らねえ現状を受け入れると思ったら大間違いだぞ!こちとら、お客や見学者気分できているわけじゃないんだ。仕事しに来てんだぜ!黙ってないで何か作業指示ぐらい出せよ、この野郎!』
心の声が更に大きく胸いっぱいに広がり頭ん中でこだまし続ける。
『このままこうやって1日中こうやってベテラン作業員の横に直立不動状態のまま横に立たされて黙って見続けるだけ?冗談言うなよ!』
そんな風に苦虫噛み潰しながらぼーっとして工場内を見渡してると、いきなりさっきの中年男性がやって来てこの俺にこう、のたまいになられた。
「あのなぁ、アンタ!ただそこでぼけ-っとつっ立ったって困るんだよッ!仕事になんねぇだろが!邪魔になるんだったらさっさと、そこどいてどっかへ行ってくれよ!」
『ハァ?“どっかへ…行けよ!”…だって?』
『移動しろ!…たって一体どこへ移動すんだよ!どこ行きゃいいの?』
ちょっと…イヤかなり怒りがこみ上げて来るのが分かる!…がしかし我慢、我慢。するとさっきまで俺が横について作業手順を眺めていたベテラン従業員がトイレで用を足すということで代わりにこの俺がそいつの仕事をやらされる羽目に…。これがまた実に細かい作業で精密機械の一部を作るというものでピンセットを使って一本一本丁寧に穴に差し込むのだが、思った以上に難しい。しかも見よう見真似で視力0.3の俺が今日初めて工場に来てやるわけだから当然うまくできる筈がない。不器用な手つきで一枚の長方形の板につき二十本程度、穴に部品を差し込んでいると隣で俺の作業を見ていた、これまた中年のベテラン女性従業員のオバタリアンが物凄い形相でいきなり俺の作業中の部品板を取り上げ、こう、のたまいになられた。
「ア~ァ!これも駄目、あれも駄目!あのねぇ、アンタ!分かんないことがあったらちゃーんとこっちに訊いてよね。…ったく全部やり直しじゃないの!」
『ォィ、オイ、オーイ!!なんやねなぁ。あんたら!ほいじゃったらのォ、作業前にきちんと指示出せや、バカタレ!めっちゃめっちゃ腹立つわ、ほんま!』(以上、空しき心の叫びでした。)
多分この時の俺は、怒り心頭して思いっきり拳を握り締めてたと思う。ましてや近くにバケツでもあろうものなら思う存分力の限り蹴飛ばしていたかも知れない。それくらい正に屈辱的な瞬間だったことは間違いない。
「もう…限界かな…?」
と思いながら同時に俺は、その瞬間とてつもなく悲しい気持ちに苛まれてしまった。
『幾ら時代が時代だからといってここは人間味の薄い大都会や県外じゃないんだ。この俺の生まれ育ったふるさと、北山手市だぜ!人口1万ちょいの専業農家が多い田舎も田舎。正に“超”が付くくらい、ド田舎のど真ん中!ここに勤めている従業員だって8割方は地元住民だろ?それにも増してこの冷たさ、横柄さは一体何?何なのよ!って感じ!自慢じゃないがこんな俺だって二十歳の時、広島最大手の大企業『サワダ自動車工場』で約1年近くも働いていたんだぜ!そんじゅそこらのド素人と一緒にするなよ、この野郎!向こうはなぁ、ほとんど従業員が県外と地元、半々だったけど…どの人達も優しく丁寧に作業手順も教えてくれたし、ましてやいくらなんでも初日から難しい作業させたり作業自体の出来、不出来に口出しすることさえなかった。だからと言って新参者に対して優しくしろだの、チヤホヤして欲しいだなんてこれぽっちも思っちゃいなかったよ!要はなんでアンタら、そんなにカッカしてんの?今日はじめて来てるんだぐらい分かりそうなものを(…って分かんねーか?)半ば喧嘩売ってるみたいに文句を言う、その神経が全く分からねぇつ-の!“新人イジメ”これが世の常だってことをこの俺様が知らねぇとでも思ってんのかよ!』
正午と同時に作業停止のブザーが鳴り、社食へ従業員一同一斉に移動して昼食を摂る。ここで全く関係のない話だが、俺は、実のところ制服・制帽は、あるものの作業靴だけは唯一支給されておらず、その日同期入社した4人は、既に真新しい作業靴で仕事しているのにこの俺だけは、動きにくい外来用スリッパ履いて工場内を右往左往していた。食堂に通じる長い廊下で自分達とは、明らかに違う部署の奴らの足元眺めてみたけど誰一人としてスリッパで作業している者無し。どう贔屓目に見たって結果は同じ。ばかみたいに惨めなオレ。そう思うと怒りが込み上げて来て今にも爆発しそうな雰囲気のまま、もうこれ以上耐え切れないと悟った俺は、即座に玄関越しにある事務室のドアを思いっきり蹴り上げている自分を想像しながら左手でドアノブ回し乱入!それでも事態を重く見るどころか全く動じていない工場受付窓口の女性に怒り心頭顔で詰問モードの俺!
「作業靴は、いつ支給されるんですかッ―!!」
するとその受付嬢は、伝票を整理しながらこっちを見上げることなく、俯き加減で冷たく一言。
「さあ?いつになるのか私にもよく分かりません!」
それだったら誰か他の人の使い古しと余りものでも…とあたりを見回したが、全くそれらさえ存在しない状況にキレた俺は、昼飯も食わず自分勝手にそばにあったタイムカードを打刻し、人事部の部屋へと直行。採用担当者のオヤジに向かってこう一言、言い放った。
「今日限りで辞めさせてもらいます!」
顔半分ひきつらせ、ブルブルと震えているこの俺とは対照的にジジイは、顔色一つ変えることなく冷静かつ、お役所的にただ一言。
「あ、そう!辞めるのは構わないけど…靴代だけは貰うからね!」
だって…。やれやれ。呆れてものも言えない。開いた口が塞がらねぇでやんの!敵も然る者、強者揃い。こういったケースには、相当慣れてんだろうね。アーヤダヤダ…もう勘弁ならねぇ!
「靴なんか貰ってねぇよ、この野郎!」(大激怒)
…とまあ、一言怒鳴り散らす勇気があったら最初からこんなとこ来てないわけで馬鹿丁寧に標準語使って「靴なんか貰ってません!」とだけ言い放ち、小心者が災いしてか変なところに気を使い過ぎる俺は、“脱いだスリッパをこれまた馬鹿丁寧に元あった所へ綺麗に並べて返す”という妙技をやってのけるところが何とも情けなかった。
「う…ん!どうしたもんかなぁ?」…とまぁ反省しきりの俺!
(つづく)
今思うにあれから約30年くらい前の、20代最後の自分自身をこうやって過去の小説を通じて懐かしく振り返ってみると「あんまし今と大して変わってないなぁ!」って感じました!要は“学習能力が無く相変わらず猪突猛進、身の程知らずのバカばっかりやってる、正に変なオジサン!”それがのがみつかさです!“人間大体年を取ると丸くなる!”って言いますが、私の場合は丸くなるどころか、それ以上に“刺々しさを増して一層気難しくなった自分が居る”ような気がする今日この頃です!(笑)