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1.1.鍛錬風景

頭の中で内容が構築されたので突発的に投稿です。

時間軸的には1話と2話の間、クリスが6歳の頃です。


閑話みたいな感じで読んでください。

城の練兵場。

普段は王都に居る兵士たちが訓練の為に使用する場所であり、事実現在も100名近くの兵士が鍛錬に勤しんでいる。

その一角を借りてクリス王子の剣術の鍛錬が行われていた。

いつもの基礎体力作りに始まり剣の素振り、型稽古と続いた後でその日は重要な話があると剣術師範は言った。


「クリストファー王子。あなたに伝えておかなければならないことがあります」

「はい」

「王子は確かギフトによってスキルレベルが2に上がらないのでしたな?」

「はい、そうです」

「であるならば、私から教えられることの9割以上が無くなったことになります」

「は?」


いつもの憮然とした顔をしたを顰めて言ったその言葉は冗談の類ではなさそうだ。

まだ6歳のクリスに対してもう教えることがほとんどないという。


「あの、それはなぜでしょうか」

「分かりやすく例を出しましょう。

剣術スキルの技のひとつ『飛燕剣』。これは剣術スキルレベルが2にならなければ覚えられないスキルです。

他にも剣術スキルレベルが2を超えなければ覚えられないスキル、剣術スキルレベルは1でも身体強化スキルが2を超えなければ覚えられないスキルなどがあります。

いずれの技スキルも基本技を除けばそのほとんどが剣術などの基礎スキルのレベルが2以上でなければ覚えられません。

よって王子に教えられるのは基礎のみとなります」


そして基礎はもうほとんど伝えたから新しく教えることが無いということらしい。

もちろんレベルが上がらなくても基礎鍛錬を続けていくことに意味はある。

ただそれは自主練でも十分で、わざわざ剣術スキルレベル4の師範について学ぶ必要はない。


「それでは今後はどのような鍛錬をすればよいのでしょうか」

「ふむ。鍛錬を止めるという選択肢はないのですね?」

「はい」

「よろしい。であれば今後はありとあらゆる武術を学ぶと共に多人数戦や特殊な状況下での鍛錬を行なっていきましょう。

いずれもレベルは1にしかならないとしても上がらないよりはマシですからね」

「分かりました。よろしくお願いします。

あ、でもその前に先ほどの『飛燕剣』などのスキルを試してみても良いですか?

お父様からは『何事もやる前から諦めるな』と教えてもらっているので」


クリスの言葉に師範は無謀なものを見る目を向けたが、口で言うよりも実際にやらせた方が早いと判断した。


「はぁ。無理でしょうが、確かにそうですね。

では私が一度手本を見せますのでその通りにやってみてください。

行きますよ『飛燕剣』!」


ビュンッ、ザンッ!


師範がその場で剣を振るう。すると5メートル近く離れていた的が切り裂かれた。

その様子をクリスはじっと見つめていた。


「さあ、王子。やってみてください」

「はい。『飛燕剣』」


ひゅっ


クリスの剣が空を切る。しかしそれだけだ。

スキルは発動せず、当然的は無傷だ。


「ふぅ。やはり……」

「もうちょっとだけやらせてください」

「はぁ、分かりました」


無理ですねと言おうとした師範の言葉を遮ったクリスは繰り返しその場で剣を振り続けた。


「『飛燕剣』『飛燕剣』『飛燕剣』」


いずれも虚しく空を切るのみだ。

それでもクリスは諦めずに剣を振り続ける。


(師範と自分の違いは何だろう。もちろん剣を振る速さは違う。他には?

踏み込みの強さだろうか。手首の振りや体重移動も影響しているかもしれない。

あと確かスキル発動時に剣に魔力が流れていたような……そうか、魔力か!)


「(『魔力制御』『魔力付与』)『飛燕剣』!」

ビュンッ、ザッ


その1撃は師範に比べれば児戯に等しい威力だっただろう。

だがしかし、確かにスキルは発動していた。

それを見た王子は飛び跳ねて喜ぶ。


「出来た。出来ました師範!」

「し、信じられん。クリストファー王子の才能はレベルの壁を超えるというのか。

お、王子。先ほどの無礼な発言をお許しください」

「なんのこと?」

「王子に教えることが無いと言った事です。王子ならもしかしたら不可能も可能にしてしまうのかもしれない。そう考えを改めました。

これから私の使える全てのスキルをお見せします」

「あ、はい。よろしくお願いします」


師範はその言葉通り、次々と剣術スキルを披露していった。

しかしクリスが使えるようになったスキルは『飛燕剣』の他は無かった。


「出来なくても気落ちする必要はありません。お見せしたのはどれも上級スキルと呼ばれるもの。

後半は特に剣術スキルレベル4になってようやく使えるものもありました」

「分かりました。では今後は今のを思い出しながら練習を繰り返してみます」

「そうしてください。それで本当に全てのスキルが使えるようになったら、今度こそ私の教えることが無くなりますがな。はっはっは。

さて、この時間は今後、別の事に使いましょう」

「別の事?」

「王子ひとりでは出来ない訓練をします。

デール!元気なのを3、4人連れてこっちに来てくれ!」

「は、はい!」


師範は突然、すこし離れたところで訓練を行っていた兵士に声を掛けた。

デールと呼ばれた青年は一緒に訓練を行っていた仲間3人を連れてクリス達の元へとやってきた。


「先生、お呼びでしょうか」

「ああ。訓練に割り込んで悪いが、今からに多人数戦の訓練を行うのを手伝ってほしい」

「は、はぁ」


デールたちの視線が師範の隣にいた子供を捉える。

師範が直々に指導している事からどこぞの王侯貴族の子供だとは分かっていたが、それがこの国の第3王子であることまでは知らなかった。


「彼って、まだ子供じゃないですか」

「今年で6歳だそうだ。だが1対1ではお前達といい勝負が出来るぞ」

「マジですか」

「ああ。だが俺一人では多人数戦の経験を積ませるには無理があるからな。

それでお前達を呼んだんだ。

最初は1対1から始めて2分ごとに1人ずつ増やし、彼がダウンしたところで終了だ。

なおスキルによる攻撃は無しとする。

ちなみに1対4になってもお前達が勝てなかった場合は分かっているな?」

「「は、はい!」」


師範の言葉に気を引き締めるデールたち。

最初は1対1ということでデールが相手をすることになった。


「よし、では始め!」

「はっ」

「ふっ」


カンカンとクリスとデールの木剣がぶつかり合う。

2撃3撃と打ち合う中で、最初こそ侮っていたデールの額に冷や汗が浮かぶ。


(おいおい、マジかよ。俺今年で17だぞ?それなのに互角に打ち合うとかどんな子供だよ)


1分が経つ頃にはデールは本気で勝ちに行っていた。

そうなると流石に体格的に優位なデールがクリスを押し始めた。

するとクリスもただ受けるのではなく流すことをメインにし立ち回る。


「2分経過。次だ。行け」

「は、はい!」


師範の言葉に待機していた1人がクリス達の戦いに参加した。

そうすると一気にクリスは窮地に立たされた。

クリスの木剣は1本しかない。

1人の攻撃を捌いたかと思えばすぐに次が飛んでくる。

間違って受ければ足を止められ、そこにもう一人の攻撃が襲い掛かる。


「くっ」


咄嗟に地面を転がり致命打は回避できた。

だがこれが実戦だったらその隙に一気に攻め立てられただろう。

今は訓練だから思わずデールたちは足を止めてしまったが。


「馬鹿者!なぜ追撃をしない」

「「は、はい!」」


師範の言葉で弾かれるようにデールたちは攻撃を再開した。

そうして何度も危ない場面がありつつも2分をしのぎ切るクリス。しかし。


「2分経過。次だ。行け」

「し、しかし」


兵士たちの目から見てもこれ以上は無謀だと思われる状況。

それでも師範は無情にも次を指示した。


「さっさと行け」

「は、はい」


1対3。こうなると真面に戦ってクリスに勝ち目は無かった。

だからクリスは、その場から逃げる選択をした。


「に、逃げた!?」

「いや、距離を取っただけか」

「とにかく追うぞ」

「お、おう」


逃げるクリスを追うデール達。

ここでも体格差というか足の長さの差ですぐにクリスは追いつかれた。

追いつかれたクリスは数撃打ち合うと隙を見て再び逃げるを繰り返した。


「はぁ、はぁ」

「くそっ、ちょこまかと」

「おりゃっ」

「ぐふっ」


兵士の横をすり抜けようとしたクリスを回し蹴りが突き刺さった。

小柄なクリスはいとも容易く吹き飛ばされ地面を転がっていった。

剣術の訓練とはいえ剣でしか攻撃しちゃいけないなんてルールはない。相手を倒した方が勝ちなのだ。

だから咄嗟に蹴りを放った兵士を称賛こそすれ怒るものはいない。


「はぁ、はぁ、はぁ。手こずらせやがって。だけどこれで終わりか」

「ふぅ、ふぅ。……いや、まて。立ち上がるぞ」


デール達の視線の先で木剣を杖代わりにして立ち上がるクリスの姿があった。


「おいおい、あんな小さいガキがあの状態で立ち上がるとかどんな根性してやがるんだ」

「しかしあの状態じゃ続行は不可能だろう」


そう思って師範の方を見たデール達だったが返って来た言葉は無情な一言だった。


「2分経過。次だ。行け」

「!!」


この状況で更に最後の一人を追加。

師範あのひとは冗談を言う人ではないし、この状況で少年を援護するように立ち回ればすぐさま『飛燕剣』が飛んでくることだろう。


「どうする?」

「仕方ない。こうなったら一気に決めるぞ」

「「おうっ」」


クリスを取り囲むデール達。

クリスも先ほどの1撃が足に来ているのか今度は逃げる事は無かった。

しかし、ここに来てクリスの動きに磨きがかかる。


「くっ、なんでだ」

「邪魔だ」

「そっちこそ」

「ちがう、このガキに誘導されてるんだ」

「んな馬鹿な!」


動き自体は極々小さい。それは1対1で戦っていた時よりも更にだ。

しかしその小さな動きで相手の動きの起点をずらし、インパクトの瞬間をそらし、相手の連携を崩していく。


「はぁ、はぁ、はぁ」

「くそ、これでどうだ『破岩剣』」

「あ、馬鹿」

「っ」


デールの木剣がクリスの木剣に触れた瞬間、爆発のような衝撃が発生し木剣を粉々に砕くと共にクリスを吹き飛ばした。

そうして今度こそクリスの意識は途切れたのだった。


……

…………

………………


城の医務室で目を覚ましたクリスの目に飛び込んできたのは泣きそうな顔で怒っているニーナだった。


「……えっと、ニーナ。怒ってる?」

「当たり前です。いくら何でも無茶が過ぎますよ」

「ごめんなさい」

「反省しているようですし悪い事をした訳ではないのでお説教はしないでおきます」

「ありがとう。でも今回のお陰で気絶耐性スキルを始め幾つかスキルレベルが1になったみたいだ」


良かった良かったと笑うクリス。しかしすぐにニーナの眉間に皺が寄ったのを見て失言だったと気付いた。


「ぜんっぜん反省してませんね!

こうなったら今日一日は予定をキャンセルして私に看病される刑にしますからね!」

「それ、ニーナがお世話したいだけじゃないの?」

「何か言いました?」

「う、ううん。何でもない」

「ならよろしい」

「あ、でもその前に一つお願いしていいかな」

「はい、なんですか?」

「今日の訓練に付き合ってくれた人たちの事は怒らないであげて。

あの人たちは訓練として正しい行動をしたのだから。

もし次回があった場合も今回と同様に手加減抜きで相手して欲しいって伝えて」


その言葉に今度はニーナはにっこりと笑って返した。


「無理ですね」

「え……」


その笑顔をクリスは知っていた。間違いなく本気で怒っている時の笑顔だ。


「デールと言ってましたか、あの雑兵。

あの馬鹿はスキル不使用の約束を違えてましたから。

今頃は死なない程度にしごかれているハズです」

「あ、そういえば」


意識を刈り取られる寸前、確かにスキル特有の魔力の動きがあった。

それを思い出したクリスはベッドに体重を預けながら次はしっかりと魔力を見極めて捌けるようにしようと心の中で誓うのだった。






既に読んでくださっている方がいるので末尾に投稿しましたが、後日1話目と2話目の間に移動させると思います。

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