8.絡まる運命線
王城へと戻って来たクリスをニーナが出迎えた。
「おかえりなさいませ。陛下への連絡は既に済んでおります。今すぐお会いになられますか?」
「ただいま。流石ニーナは仕事が早いね。
ならこのままお父様に会いに行くよ。
ニーナは悪いけどあっちの子たちの面倒を見ておいてもらえる?」
「はい?あぁ、畏まりました」
クリスの視線の先にはリンに連れられて地下牢に捕らわれていた4人の少女の姿があった。
戻ってくる間に傷の治療などは済ませたが疲労が色濃く顔に出ている。
その姿を見たニーナは頭の中でまずはお風呂に入れて休息するのが良いだろうかと考える。
同時にこうも考えるのだった。
(クリス様はこういうのに関わる運命にあるのでしょうか)
なぜなら4人の少女はどうも普通の人間ではない。
耳が長かったり猫耳が付いてたり羽根が生えていたり。
リンも獣人の少女だしクリス様は異種族に縁があるのかもしれない。
兎にも角にもニーナはリンと共に少女たちを城内へと案内していった。
『じゃあ私達も行きましょう』
『はい』
クリスはフーリンを連れて謁見の間へと向かった。
その場には国王の他、騒ぎを聞きつけた貴族も数名やってきていた。
「急にお時間を頂きありがとうございます」
「うむ」
他の貴族の視線がある手前、親子ではなく国王と王子として挨拶を交わす二人。
「バミラン伯爵の件は既に報告を受けている。
その隣に居るのが問題の妖精の少女ということか」
「はい。名をフーリンと言います」
「そうか。フーリン殿。此度の件、誠に申し訳なかった。
パルミシア王国国王として謝罪させて頂きたい」
そう言って頭を下げる国王。
それを見た他の貴族たちがざわめき慌てて平伏する。
王が頭を下げるのは他国との戦争に敗れ降伏する時か、神の前でと相場が決まっている。
つまり妖精とは神に準ずる存在だという事だ。それを国王自らが態度で示したことになる。
「パルミナーレ」
「陛下。頭を上げてください、だそうです」
「う、うむ?」
顔を上げた国王の頭に疑問符が浮かぶ。
「クリスよ。もしかしてその少女の言葉が分かるのか?」
「はい、ある程度ですが」
ここに来るまでにフーリンと接触感応で思いを交わしながら同時に言葉を交わした。
そのお陰でクリスは妖精語スキルのレベルは1だ。
今は手を繋いでいないし念話も使っていないが日常会話くらいは分かるようになった。
国王は改めて自分の息子の適応力の高さに内心舌を巻いた。
「それでフーリン殿はこれからどうされるのでしょうか」
「んー、ミーラプルトル。レ、ビラントベルグルディチル」
「一度家に帰ります。皆が心配しているから。だって」
実際には後ろの言葉は『そうしないと仲間の妖精たちがここに攻めてくるかもしれないから』だったけど、そこまでは言わなくて良いだろう。
「そうでしたか。もし宜しければ近くまで馬車でお送りしますが」
その言葉にフーリンは首を横に振った。
どうやら自力で帰れるようだ。
『また来ます』
「!」
フーリンはおもむろにクリスに近づくと頬にキスをすると接触感応でそう伝えてきた。
そしてクリスが返事をする前にフワッと宙に浮いた。
「【テレポート】」
最後に一言古代語でスキル名を唱えて消えていった。
呆然としていた国王と貴族たちだったが、気を取り直した国王はその場を解散させた。
バミラン伯爵については一番の証人であるフーリンが居なくなってしまったが、その場にいた全員が証人である為、有罪が確定した。
またバミラン伯爵が集めていた少女たちだがバミラン伯爵は闇奴隷商仲間から預かっていただけで出自は分からなかった。
その奴隷商仲間については足取りは掴めなかった。
ただフーリンについてはいつもと違う奴隷商が連れてきてあの封印を施していったという話だったがその奴隷商がどんな顔で、どんな声をしていたかなど全く思い出せないという話だ。
恐らく意図的に認識阻害系のスキルを使われていたと思われる。
あと今回の件でクリスの独断専行っぷりは結果を無視すれば咎めるべき内容であったためクリスには1週間の謹慎処分が言い渡された。
そして今はというと。
「ご主人様~」
「「さま~」」
「よしよし。みんな元気そうだな」
結局保護した4人の少女はクリスの元に残ることを選択した。
なので謹慎中の1週間を使って交流を深めているところだ。
ま、つまりは彼女たちはリンの同僚でありニーナが面倒を見る対象が5倍になったことになる。
「1人も5人も一緒……な訳ないですよ~~!
はぁ。まぁノウハウはリンで身に付いたから何とかしますけど」
「よろしく。これから賑やかになりそうだね。
私はこれからやりたいことが増えたから多分半年か1年はそれに没頭することになりそうだ」
「やりたいこと、ですか?」
「ああ。フーリンのお陰でスキルの可能性について見直さないといけないから」
「はぁ。そうなんですか。
ま、私達はクリス様の為に全力でサポートするのみです」
そうして1年後。
クリスには新たな二つ名【ピエロの王子様】が付くことになる。
ひとまず第1章はここまでです。
いかがだったでしょう?
ちゃんと読める作品になっていたでしょうか。
第2章については最初にも書いた通り、元々連載中の作品が終わるまでお待ちください。
もしくは私の妄想が天元突破したらまた1日で1章分書いてしまうかもしれませんが。