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7.扉の奥にあるもの

バミラン伯爵邸の地下。

その奥にあった扉へとクリスは向かった。

どうやらそここそが目的の場所だったようだ。

クリスがおもむろに扉へと手を触れると、まるで電撃でも走ったかのようにバチッと弾かれた。


「魔術結界ですか。随分厳重ですね。

この奥にはなにがあるのですか?」


後ろに居るバミラン伯爵に問いかける。

しかしバミラン伯爵は青褪めた顔でうわ言のように「私は知らん何も知らん」というだけで真面な答えを返す気は無さそうだ。

捕えている兵士が「シバきあげますか?」と目で問うてくるがそれは止めておいた。

そんなことよりもこの扉を自分が開けられるかの方が問題だ。


「さて【解錠】【解呪】【魔力破壊】……まだダメか。

なら【空間遮断】【術式書換】【強制支配】」


皆が見守る中、クリスは次々とスキルを発動していく。

そして遂にビシッという音と共に結果が破壊された。


「結界レベル3か。それも複合結界と言ったところかな」


そんなつぶやきを残してクリスは扉に手を掛けると、扉は抵抗なく開いていった。

部屋の中は手前の牢屋とほとんど同じ造りだが、その中央には緑色の髪をした少女が佇んでいた。

クリスはその少女に怪我などがないことに安心すると優しく微笑んだ。


「助けに来ました。さぁ、ここから一緒に出ましょう」

「ミーヤルビービア?」


どうやら言葉が通じないようだ。

それはクリスをもってしても初めて聞く言語だった。

だけど言葉が通じなくても意思を伝える方法は幾つかあることをクリスは知っている。


「お手を」


そう言ってそっと手を差し出した。


「ん?あ……」


少女も言葉の意味は分からなくても何となく、そのジェスチャーの意味は理解できたようだ。

恐る恐る右手を上げてそっとクリスの差し出した手に重ねた。


『こんにちは。こっちなら伝わるかな』

『あ、はい。大丈夫です。でもテレパスを使える人間を初めてみました』

『テレパス? 私は接触感応ってスキルだと思ってたんだけど』

『住む世界が違えば呼び方も変わります』

『なるほど』


その様子を見ていた他の人たちは首を傾げた。

なにせクリスと謎の少女は手を繋いだきり無言なのだから。

ただ一人、他の少女を救助し終えたリンだけはにこにこと見守っていた。

リンとしてはご主人様なら絶対大丈夫だという全幅の信頼を寄せているから今のこの状態もご主人様の期待通りの状況なんだろうと思っている。

とは言っても何が起きているかを分かっている訳ではないが。


『改めまして、私はクリス。あなたを助けに来ました』

『風の妖精フーリンです。ここに閉じ込められて、もうダメかと思ってました』

『そこの子があなたの危機を伝えてくれたんですよ』


そう言ってクリスは何もない中空を指さす。


『そうだったの。フォン、どうもありがとう』

(どういたしまして)


フーリンがお礼を言うと、なにもない中空から返事が返って来た。

だけどそれもやはり、人の言葉ではなく何らかの意思のみで伝えられた。


『それにしてもクリス。あなたはどうしてフォンの事が視えるのですか?

霊獣が見えるのは私達妖精やそれに近い種族だけのはずなのですが』

『フォンというのですね。

実は完全に見えている訳じゃなくて、何となくそこに居て何となく意思が伝わってくるだけです』


事の起こりはつまり、クリスがこの付近で立ち往生していた霊獣フォンを見つけた事だった。

フォンを見つけたクリスはそれがすぐに高位存在である精霊か同等の何かだと察した。

そんな存在から『友達が大変な目に遭っている。助けて欲しい』と訴えられたのだ。

それを聞いたクリスは一瞬で頭を回転させる。

これが何をもたらすのかを。

そしてこの強制査察に至ったのだ。なぜなら。


「バミラン伯爵。あなたを国家転覆を狙った犯罪者として拘束させてもらいます。

妖精や精霊に手を出せばどうなるか、旧グルダ帝国の事を知らないとは言わせません」


旧グルダ帝国。

100年近く昔、精霊の力を利用して凶悪な兵器を生み出した国家があった。

帝国は瞬く間に周囲の国家を征服していったが、その快進撃は1年で幕を閉じた。

原因は力の暴走による自爆。

更にその1年後にはグルダ帝国領は草木の1本も生えない不毛の大地となった。

精霊とは自然の力そのもの。

彼らに愛想を尽かされたら土地そのものが死滅するのだと残された人々に示す結果となった。

よって今回の件も一歩間違えればこの国を死に追いやる行動だったと言える。


「連れていけ。この件は伯爵だけの問題じゃないはずだ。共犯者についても洗いざらい吐いてもらう」

「はっ」

「わ、わたしは違う、騙されただけなんだ!」

「うるさい。ほら、キビキビ歩け!」


連行されていく伯爵を見送り、改めてクリスはフーリンへと向き直った。


『もし良かったら、ですが、一度我が家へ来て頂けませんか?

きっとあなたの家にお送りするにしてもその方が早いと思いますので』

『ええ、分かりました』


そうしてクリスは伯爵邸に数人の見張りを残し、王城へと帰還したのだった。




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