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6.強行査察

女神歴1726年6月10日。


10歳を迎えたクリス王子は、その日もいつものように城下町へと出ていた。


「?」

「どうかなさいましたか?」


突然立ち止まるクリス王子。

その姿に以前も同じようなことが何度かあったなと思いつつニーナが声を掛ける。

しかしクリスは何もない中空を眺めつつ返事をしなかった。

更にはだんだんと表情が怒りのそれに変化した。


『全員緊急招集!15分以内に完全武装の上でバミラン伯爵邸横に集まれ!!』


突然頭の中に届くクリス王子の声にニーナとリンの背筋が伸びた。

これはクリスが使う念話スキルだ。効果範囲は約10キロ。なので城で待機しているクリス直属の近衛第3騎士団にも届いているはず。

そして非常呼集を行うのは本当に緊急時のみだと言っていた。

ニーナには分からない何か相当大変な事態が進行しているということだろう。

程なくして40名ほどの兵士がクリスのもとに集まった。

全員何事かと緊張した顔をしてクリスの言葉を待っている。


「皆よく来てくれた。

急な話だが今からバミラン伯爵邸の強制査察を行う。

1班は表を、2班は裏口を固め、一切の人の出入りを止めろ。残りは私と共に邸内へと侵攻する。

なお抵抗するなら殲滅もやむなしとする。決して誰一人逃がすな」

「「ははっ!」」

「騒ぎを聞きつけて敵か味方か分からない援軍が来る前に終わらせたい。時間との勝負でもある。行くぞ!」

「「はっ!」」


突然の話に誰からも疑問の声などは上がらない。

指示された内容は余りに暴挙で、後で捕まれば重い刑罰が待っているにも関わらずだ。

よく訓練されている、というよりも王子に絶対の信頼を置いている証拠だ。


「ニーナは城に走って」

「分かりました。ご武運を」


城に走れというのはつまり、国王陛下たちにこのことを報告して欲しいということだ。

何をと言われるとよく分からないが、とにかくクリス王子がここまで強行する事件が起きているとだけ分かって居れば良い。

最悪王国兵との衝突さえ回避できれば良いだろう。

後ろにバミラン伯爵邸への襲撃を開始した騒ぎを聞きながらニーナは城へと走った。


「私は第3王子クリストファーである。

今よりバミラン伯爵邸の抜き打ち査察を行う。全員大人しく縛に付け!」

「な、なにを」


突然の王子の来訪。

更には全ての礼を無視した強行突撃と言える行動に邸内の人たちは驚きつつも抵抗する間もなく捕縛されていった。


「何事だ!ここがバミラン伯爵邸だと知っての狼藉か!!」


2階から騒ぎを聞きつけたバミラン伯爵が怒鳴りながらやってきた。

バミラン伯爵はすぐに騒動の首謀者たるクリス王子を見つける。一人だけ小さいので目立つのだ。


「そこに居るのはクリス王子とお見受けする。

例え王族といえど、このような狼藉許されませんぞ!!」

「バミラン伯爵。あなたには重罪を犯した嫌疑が掛けられている。大人しくしていてもらおう」


それを聞いた伯爵は鼻で笑った。

所詮王子とはいえ子供。しかも半端者王子だ。

何をもってこんなことを仕出かしたかは知らないが、子供に足元をすくわれるようなへまはしていない。

それに良く見れば従っている兵は近衛兵のみ。つまり王子の独断と見て間違いない。


「ふっ。嫌疑?それはおかしな話だ。私が何かをしたという証拠があるなら見せて頂こう」

「証拠か。残念だが今は見せられるものがまだないな」

「はっはっは。話になりませんぞ」


それ見たことかと笑う伯爵。

だけど彼は一つ見落としていた。それならなぜ王子が突然こんな凶行に走ったかということに。


「しかし、それもこれからお見せしましょう。

その為にもまずは……地下だな。地下室への入口に案内して頂きたい」

「な、ち、地下ですと?こ、この邸宅に地下室は存在しませんが」


挙動不審になる伯爵。どうやらアドリブは苦手なようだ。

クリスは伯爵の下手な演技などどうでもいいと周囲に視線を向ける。


「……階段下か。

3班は私に付いてこい。残りは引き続き邸内の者を捕縛し、機密書類や金庫の類を差し押さえろ」

「「はっ」」

「おお、お待ちください王子!」

「邪魔だ。誰かこの者を縛っておけ」


クリスは立ち塞がろうとする伯爵を押しのけて階段下へと移動する。

そして何かを操作したかと思うとあっさりと隠し扉を見つけてしまうのだった。


(影の人たちにこっちのスキルも教わっていて良かったな)


そう思いつつクリスは地下へと続く階段を下りて行った。

証拠が見たいと言っていた伯爵も後から連れて来るように指示しておく

薄暗い地下にあったのは牢屋と鎖に繋がれた少女が4人。

どの子も服とも言えないぼろ布を着せられていた。


「伯爵。彼女らはなんですか?」

「わ、我が家のメイドです。しつけの為にこうしております」


その言葉に首を横に振る少女たち。

そんなことをしなくてもこの光景が異常であることは誰の目にも明らかだ。

これはメイドに対するしつけではなく奴隷に対する扱いだ。


「ほう、そうですか。リン、牢を壊して彼女達を保護してあげて」

「はいです」


それまでクリスの後ろに静かに控えていたリンが、ようやく出番だと嬉々として背負っていたウォーハンマーを振り回して牢屋を破壊していく。

クリスはその場をリン達に任せると更に奥にある扉へと向かった。




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