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3.拾った子犬

女神歴1724年5月8日。


クリスはその日、本来は城内で勉強の予定を変更して昨日の薬剤師のおばあさんの家に来ていた。

理由は当然助けた子犬の状態を確認するためだ。


「おはようございます。おばあさん。クリスです」

「ワンワンっ」


玄関口で声を掛ければ犬の鳴き声で返事が返って来た。

良かった。無事に元気になったみたいだ。

そう思ったのもつかの間。声の主が飛び出してきてクリスに飛び掛かった。


「ワンっ」

「おっと。元気になったみたいだな。良かった」

「ハッハッハッ」


飛びついてきた子犬を抱きとめて頭を撫でてあげると、子犬は嬉しそうに尻尾を振っている。

どうやら昨日助けてくれたのがクリスであると本能的に理解できているようだ。

そうしてすぐに奥からおばあさんも出てきた。


「これこれ。まだ体が回復しきってないんだ。あんまりはしゃぐんじゃないよ」

「はーい、ごめんなさーい」

「ん?」


今謝ったのは誰?とクリスは思ったけど、声の元はどう考えても手元の子犬だ。

抱き着いている脇に手を差し込んで引き離すと、そこに居たのは子犬ではなく自分と同じか少し小さいくらいの女の子だった。


「あれ、さっきの子犬、だよね?」

「うん」

「その子は獣人の子だったんだよ。昨日は体力が消耗して獣の姿になってたみたいだねぇ」


どうやらただの子犬じゃなかったみたいだ。

ちなみについさっきもクリスの声を聞いて嬉しくなって全速力で駆けつける為に獣の姿になっていたらしい。


「そうだったのか。

私はクリス。君は何て名前かな?」

「ぼくはリンだよ~」

「リンは帰るところはある?」

「ない。というかねぐらにしてたところ、こわされちゃった」

「そっか」


壊された、か。

聞けば1月前まで廃屋で暮らしてたけど、取り壊されてしまったようだ。

それで行き場を失って昨日ついにあそこに倒れていた訳か。


「じゃあうちに来る?

子犬ならペットでも良いかなって思ったけど獣人じゃあそうはいかないから、私のメイド見習いっていう形になるけど、どう?」

「ごしゅじんさまといっしょにいられるなら何でもいい~」

「クリス様~。犬猫じゃないんですから。って似たような感じですけど。そんなほいほい拾わないでください」


メイドとして後ろに控えてたニーナから苦情が入る。


「え、だめ?ニーナの後輩だよ?」

「それはつまり私がその子の教育もするってことですよね?仕事が倍になる気がするんですけど」

「大丈夫、ニーナなら出来るよ」

「うっ。クリス様の信頼に応えるのが私の信念。ですが……。あぁもう、分かりましたよ。

リン、私はニーナ。共にクリス様に仕える身としてビシビシ鍛えるから覚悟しておきなさい」

「はーい」


リンは分かっているのかいないのか、楽しそうに返事を返した。

その姿に再びため息をつくニーナだったけど、決まってしまったものは仕方ないと今後の計画を頭の中に思い浮かべた。


「それじゃあおばあさん、お世話になりました」

「なりました~」

「はいよぉ。またいつでも来てくださいねぇ」


にっこりと笑うおばあさんに見送られてクリス達は城へと帰っていった。

ちなみにリンを見た家族の反応はと言えば。


「新しいメイド?ああ、良いだろう。ニーナ一人では大変だろうからな」

「あらあら、女の子を連れてくるなんてやるわねぇ」

「クリスに対する忠誠心は本物みたいだね。なら私から言う事はないかな」

「くぅ~、流石だぜクリス。俺も負けてられないな!」


いずれも良好なようだ。王妃だけ若干方向の違う解釈をしているようだが。

兎も角、その日からリンのメイド教育が始まった。


「ほらリン。城内では緊急時以外、獣の姿にならない」

「きんきゅうじってなに?」

「クリス様のピンチの時よ」

「なるほど!」


「クリス様のメイドとして他の人に見られても恥ずかしくないように服はきちんと着る事」

「ほかのひとってことはごしゅじさまの前ならぬいでいいの?」

「クリス様が望んだ時は良いわ。でもそれ以外はダメよ」

「はーい」


「私達はクリス様のいう事は絶対よ。何か指示を受けたら返事は『はい、分かりました』だけよ」

「はい、ごしゅじんさまはぜったいです!」


それを聞いていたクリスは一抹の不安を覚えたがリンの教育はニーナに一任すると決めたので特に口を挟むことはしなった。

実際に1月もすればメイド見習いとしては十分な作法を身に付けていたのでなおさらだ。

あとニーナとリンが並んで歩いている姿はまるで仲の良い姉妹みたいだ。

ニーナが確か12歳だという話だから少し年の離れた姉妹と言えなくもないか。


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[良い点] 『クリス様が望んだ時は良いわ』 英才教育!
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