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2.クリス王子の行動半径

最初の構想では器用貧乏でレベル1の主人公が虐げられる期間があったのですが、そんなのすっ飛ばして自由奔放に駆け回ってしまいました。


女神歴1724年5月7日。


8歳になったクリス王子は、専属メイドのニーナを引き連れて王都の城下町を走り回っていた。


「クリス様~。お待ちくださ~い」

「頑張れニーナ。今日は東地区を回るよ」

「ひえぇぇ~~」


ただその走る速さは大人顔負けである。

しかもその走るコースは商店街などの人の多い場所も含んでいる為、なおさらニーナは追いかけるのに苦労していた。

クリス王子がなぜそんなことをしているかというと、理由は1か月前にさかのぼる。

4月2日の誕生日の日にクリスは一つ両親におねだりをすることにした。


「お父様、お母さま。一つお願いがあります」

「ほう、普段わがまま一つ言わないクリスにしては珍しい。言ってみなさい」

「ありがとうございます。

では、今後私の活動範囲を城の外に広げさせてください」

「む、どういうことだ?」

「お城の中は窮屈になってしまったのかしら」

「窮屈、という訳ではないのですが、机に座って学べることには限界がありますから」


その言葉を聞いてその場に居た全員が顔を見合わせる。

つまりは学べる事はもう全部学んだと言ったのだ。

8歳にしてこの発言。

例え3歳から英才教育を始めたとは言え傲慢としか思えないだろう。

だがしかし、この場に居るのはクリスとその家族。

忙しい政務の中、週に1回は全員で食事をすると約束し、そして実行している彼らはお互いの事をきちんと理解していた。

クリスのこの発言が決して嘘や見栄ではなく、事実と大きく差がない事に。


「聞いたかい、ノルド兄さん。やっぱり俺達の弟は天才だ」

「ふっ。そんなこと分かりきっているさ。

しかし、クリスはまだ8歳だ。城の外には危険も多い。

平和な我が国でも窃盗や傷害、更には誘拐なんて事件も時々起こっている」

「そうね。それにレベルが上がらないとは言っても学び続ける事に意味はあるわ。

だからこうしましょう。

1週間の内、2日は今まで通りに城内で学ぶ日とし、2日は私達の目の届く範囲、そうね。例えば練兵場や内閣府で実地研修を行う日としましょう。残りの2日はメイドのニーナを始め数人の護衛を付けた上で城下町を自由にする日としましょう」

「ありがとうございます。ですが週は7日です。あと1日は?」

「もちろん。家族で過ごす日よ。まだまだ親離れされては寂しいじゃない」


そう言ってウィンクする王妃。

どちらかというと子離れ出来ていないのは彼女の方なのだろう。

だけどそれを否定する人はここには居ない。

結局似たもの家族なのだ。


そうしてクリスは週に2日こうしてニーナを引っ張りまわしている。

影ながら護衛に付いている他のメンバーもその姿を見せることはないがクリスの背を追って今も全力疾走していることだろう。

そのクリスが急に立ち止まった。

疲れた訳じゃない。最初の1週間を終えた後のクリスが走りつかれたところをニーナは見たことがない。

無尽蔵の体力。まるで体力強化スキルのレベルが2か3にでもなっているのかと疑われ一度確認もしてみたが体力強化スキルは確かにレベル1だった。

その代わりと言っては疲労回復スキルのレベル1だったのでそのお陰だろうという結論に至っている。

それでもかなり元気過ぎなのだが、そこは子供だからで済まされた。

それはともかく、立ち止まったクリスにニーナが声を掛けた。


「クリス様。どうかなさいましたか?」

「ニーナ、子犬だ」

「はい?あ、ほんとですね」


クリスの指さす先を見れば確かに薄汚れた子犬が居る。

いや、もしかしたら居たと言った方が良いのかもしれない。

その子犬は生きているのかが疑わしい程に生気を失い地面に倒れ伏していた。


「予定変更。助けるよ」

「は、はい!」


言うや否やクリスは服が汚れるのも気にせず子犬を抱きかかえ、まだ生きていることを確認すると、すぐ横の家の壁を蹴り上げて建物の上へと飛び上がり、そのままさっきの比ではない速度で走り出すではないか。


「ちょっ。クリス様。いつの間にそんな事が出来るようになったんですか!?」


そんな文句を言いながら同様に付いていくニーナも既にただのメイドの域を超えている。

そうして向かう先はそこからほど近い市民街の薬剤師の家だ。


「おばあさん、居ますか?」

「おやおや、誰かと思えばクリストファー様じゃぁありませんか」

「突然ごめんなさい。この子を見てもらえますか?

僕の力じゃ助けられないみたいなんです」


そう言ってクリスは抱えていた子犬を薬剤師のおばあさんに差し出す。


「……ふぅむ。ああ。大丈夫よ。これはただの空腹。

目が覚めた後にミルクでも飲ませてあげればすぐに元気になるわぁ」


のんびりとした口調とは裏腹に、子犬を受け取ったおばあさんは子犬の症状を一瞬で看破してみせた。

年の功とは良く言ったもので、おばあさんは調剤と診察スキルのレベルが4なのだ。


「良かった。治癒も解毒も大した効果が無かったからどうしようかと思ってたんです」

「ふふっ。そうねぇ。ちょっと経験不足だったわねぇ。

なら折角来てくださったのですから体力譲渡スキルの実践でもしましょうか」

「あ、はい。よろしくお願いします!」


家の奥へと向かうおばあさんに続いていく。

今の会話を聞いてニーナだけが苦笑いを浮かべていた。


(治癒も解毒も体力譲渡も難易度の高いスキルなんですよ。

しかもクリス様はあの速さで走りながら行っていたとか、普通は耳を疑うレベルなんですけど気付いてないんでしょうね)


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