表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/128

旅行三日前――ほたるの場合

「えーっと、アレもいれたし、ソレも用意したし……、よしっ、とりあえず準備オッケーかな?」


 フランス旅行まで後三日。……なんか、いまだに実感がわかない。今まで年末はお父さんと二人でのんびり過ごしてたし。イネスセンパイには感謝しないと。


「おーい、今大丈夫かー?」

「んー? いいよ、ちょっと待っててー」


 下の階のリビングから、お父さんに呼ばれた。時刻はそろそろ22時を回ろうかという頃。普段ならこんな時間に呼んだりしないのに、どうしたんだろう?


「どしたの、お父さん?」

「いや、その……な。準備とか進んでるかと思ってな」


 なんでもない様子を装ってはいるけど、口調と表情からは緊張しているのがありありと伝わってきた。……ははっ、旅行に行く本人よりよっぽど緊張してるなんて、変なお父さん。


「ははっ、大丈夫だって。それこそ、ついさっき終わらせたばっかりだし」

「そ、そうか……。まあ、ならいい。……しかし、ほたるがフランス旅行、か……。しかも友人たちと……。いや、楽しそうでなによりだよ」


 そう言ってるお父さんの目もとをよく見てみると、明らかに涙を拭った跡があった。……全く、お父さんらしいんだから。


「そうだね。……本当、楽しいよ。センパイたちと出会ってからは、ね」

「そうか。……よかったよ。2年生が始まるまでは、あんまり楽しくなさそうだったからね。いつか不登校にでもなるんじゃないかって心配したくらいさ」

「まあ、それは確かに……そうかも」


 確かに、一年生の頃のアタシは、毎日毎日退屈で仕方なかった。……色々ネタを見つけてきて、それを面白がって遊んではいたけれど、いつかは飽きてしまっていただろう。


「だからまあ、楽しそうで本当によかったよ。まさかいきなりフランスに行ってくるなんて言われるとは思ってなかったけど」

「あー、それは……。ごめんなさい」


 友達と旅行にいくだけならともかく、行先が外国、しかも目的地は日本から遠く離れたヨーロッパの地だということもあって、お父さんに中々そのことを言いだせなかったのだ。結局、旅行に行くことを告げたのは、つい先月の話だったりする。……そんな唐突に話をしたのにも関わらず、ほぼ二つ返事で行ってきなさいと言ってくれたお父さんには本当に感謝してもしきれない。


「まあ、言ってくれただけありがたいさ。……なにせ、昔は何も言わずにふらっと消えたりしてたし」

「あはは……、そんなこともあったね……」


 去年の夏休みだったっけ? 唐突にどこか遠くに行きたいと思ったアタシは、誰にも何も告げずに電車に飛び乗って、九州の方まで行ったりしたのだ。……当然、その日のうちに帰れる訳もなく、お父さんにはかなり心配させてしまった。


「でもその……、今年はごめんね。せっかくの年末――お母さんの命日なのに、一緒にいれなくて」


 アタシとお父さんが毎年年末だけは二人きりでゆっくり過ごしていた理由。……それは、お母さんの命日があるから。――12月30日。大晦日の前日のこの日が、アタシのお母さんの命日なのだ。……もっとも、アタシはお母さんのことをほとんど覚えてはいないんだけど。なにせ、アタシがまだ2歳の頃の話なのだから。


「なに、構わないさ。……お前が楽しそうにしてれば、アイツも喜ぶだろうからな」

「……そっか。……ありがとね、お父さん」


 お母さんは喜ぶだろうけど、お父さんはきっと寂しくなるだろうに。……そういうことを決してアタシには見せないのは、お父さんの良いところだと思う。まあ、家族としては、偶には見せて欲しいと思うけどね。


「あとは、彼氏の一人でも仏壇の前まで連れてきてくれれば、アイツも満足するんだろうけどなぁ……」

「それは……、ちょっと気が早いんじゃないかなぁ……。アハハハハ……」


 流石に今恋人を作るのは無理なので、適当にそんなことを言ってお茶を濁しておいた。……本当なら、晃センパイをそうやって紹介するつもりだったんだけどなぁ。まあ、今さらそんなこと言ってもしょうがないけど。アタシはアタシで、新しい恋を見つけるだけだ。……いつになるかは分かんないけど。


「それに、お母さんは満足するかもしれないけど、お父さんは絶対なにか言うでしょ。“お前に娘はやらん!”みたいな感じで」

「いや……、そんなことはないはずだぞ。ほたるがちゃんとした人を連れてくれば、な」

「その言い方、絶対何か言うやつじゃん、あははっ」


 まあ、今までほとんど男手一つでアタシを育ててきたわけだし、そうなっても仕方ない気はするけどね。


「フランスには、確か二週間くらい居る予定なんだったよな?」

「うんっ。ちょうどお正月真っただ中に日本に戻ってくる予定だよ」


 予定では、クリスマスと大晦日、元旦までをフランスで過ごす予定だ。そんなただでさえイベント満載なこの時期に、皆でフランス旅行……。うーん、考えただけでワクワクする。本当、写真部に入って大正解だった。失恋は経験しちゃったけど、それもいい経験だったと今では思えるし、なにより本当に大切な友人を3人も得ることができたんだから。


「じゃ、アタシはそろそろ寝るね。お休みっ、お父さんっ」

「ああ。お休み、ほたる」


 フランス旅行まで、あと三日。……さて、いったいどんなワクワクが待ってるのかな?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ