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意外? な同行者

「お嬢様、もう準備は整いましたか? なにか必要なものなどあったら言ってくださいね、すぐに準備しますから」

「大丈夫ってば。ははっ、まだ出発まで三日もあるのに、間宮ってば私より気が早すぎじゃない?」


 お嬢様方がフランス旅行に行かれるまで後三日。もうほとんど時間は残っていないというのに、当のお嬢様はこんな様子で至っていつも通りといった感じだ。果たしてちゃんと準備はできているのだろうかとか、間に合うのだろうかとか考えてしまうのは、私が過保護なだけなのでしょうか……。


「――まあ、過保護と言われてもしょうがないとは思うわね。私から見ても」

「先輩から見てもそうなのですか……。それは、なんというか……、少しショックですね……」


 その日の夜。偶然にも先輩――奥様に晩酌のお誘いをした頂けたので、思い切って奥様に最近の自分の行動と言動をどう思うか聞いてみることにした。……結果はこの通り、思っていた通りかつショッキングな返事だった。


「まあ、別にいいんじゃないかしら? 母親の私が言うのもアレだけど、クリスは厳しくしなくてもちゃんとデキる子だからね。ちょっとくらい過保護でも、悪影響にはならないでしょ。……それに、私があんまり構ってやれないからね。最近はたまたま家にいるけど、またすぐ出張三昧になる予定だし」

「そう言ってくださるのは嬉しいのですが……。しかし、あまりやりすぎるとその……、なんというか……」


 そこから先の言葉が、あまりにも子供っぽく情けない言葉だったので、思わず口を閉じてしまった。……のだけど、


「クリスに嫌われそうで怖い、とか?」

「うぐっ……」


 先輩に一瞬で図星を突かれてしまった。


「ふふっ、大丈夫よ、あのクリスに限ってそんなことありえないもの。あの子ったら、間宮のこと本当の本当に大好きなんだもの。それこそ、晃君に対する想いの強さと大して変わらないんじゃないかしら? まあ、“好き”の種類は違うけど、ね」


 ……正直、お嬢様にそこまで慕われているという実感は、私自身にもある。私自身はメイドとしての仕事以上のことなんて何もできていないし、むしろ助けて貰ったのは私の方なくらいなのに。


「うーん、せっかくアレ以来間宮にも笑顔が増えていい感じだったんだから、変に自重なんてしなくていいのに。メイドの立場がどうとかはさ、ちゃんと仕事やってるならそこまで気にしなくてもいいんじゃない? 私もあの人もなにも言わないわよ?」


 奥様が言う“アレ”と言うのはおそらくあの少し前に開いて頂いた私の為のパーティーのことだろう。確かにあのパーティー以降、今まで意図的にセーブしていた笑顔をセーブしないようにはした。その方がお嬢様の為にもなるし、私も楽しく仕事ができると気づいたから。でも、流石にメイドの立場を忘れてしまうような行動をする訳には……、とか考えてしまうのは、考えすぎなのでしょうか……?


「間宮もさ、昔みたいに思いっきりはしゃいだりしてみたらいいんじゃないかしら? クリスたちと一緒に、ね。そしたら、今以上に仲良くなれるでしょうし、あの子の思い出にもなると思うのよ」

「お嬢様の、思い出に……、ですか」

「そ。……まだあんまり考えたくないけどさ、いつかはあの子もこの家を出ていく日が来るだろうからね。そしたら、間宮とだって中々会えなくなっちゃうでしょ? だからさ、あの子との思い出を作ってあげて欲しいのよ。さっきも言ったけど、あの子は間宮のこと大好きなんだもの」


 そうか。……私もあまり考えてなかったけれど、お嬢様だっていつかはこの家を去り一人で、あるいは南雲さんと二人で生活していくときがくるのだ。当たり前のことだけれど、やはり私でも寂しさは感じてしまう。――だから、私だってお嬢様との思い出は、欲しい。


「そう、ですね。……私も、思い出になるようなことはしてあげたいです。といっても、すぐには思いつかないのですけどね」


 私はあくまでこの星之宮邸で働くメイドであって、南雲さんのような従者という訳ではない。つまりは、お嬢様と行動を共にすることよりもこの家での家事を優先しなければならないのだ。だから、家以外の場所でお嬢様と一緒に行動する機会も中々ない。


「あら、そうかしら? ねぇ間宮、私の代わりにクリスたちとフランスに行ってみない?」

「……え? いやその、そういう訳には……」


 さっきも言った通り、私はあくまで星之宮邸のメイドだ。長期間家を離れる、しかも国外だなんて、普通なら到底許されることではない。


「いいの。今年の年末はウチでパーティーを開いたりお客様を招く予定もないからね。偶には私が家事くらいやるわ。メイドとかそういうのは気にせず、休暇だと思って思いっきり楽しんできなさいなっ。大丈夫、イネスちゃんにはもう言ってあるから!」


 流石は先輩、根回しは完璧だった。……これじゃ、行かない訳にはいきませんね。


「……分かりましたよ。まったく、昔っから強引なんですから」

「いいじゃないの。間宮は色々奥手だもの。ちょっと強引なことしないと、楽しめるものも楽しめないでしょ?」


 実際、学生時代も先輩のこの強引さに助けられたことは多々あるし、先輩の言い分も良く分かる。――ここは、先輩の言う通りに楽しむことにしよう。


「じゃあ。……私も、フランスに行ってまいります」

「ええ。――お土産、期待してるわね?」

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