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冬休みスタート!

「……寒いわね」

「そうですね、お嬢様。……ですが、もうしばらくの辛抱ですので」

「そうね。……寒い」


 時間が経つのは早いもので、今日で長かった2学期も終了だ。という訳で、今は講堂で終業式の最中なんだけど……、何だろう、とても既視感のあるやり取りをクリスとしてしまった。


「……はぁ」

「本人たちに言う気はないですけど……。はっきり言って割とバレバレですよね……」

「まあ、分かる人には分かりますわね……。幸いにも、周りに鈍い方ばかりなので気づかれてはいないようですが」


 後ろの方から八橋さんとイネスさんのひそひそ話が聞こえてきた。……内容までは聞こえてこなかったけど、どうにも俺達のことを話しているらしいということは分かった。なにせ、明らかに視線を感じてしまったからね。


「……寒いわ」

「……そうですね、お嬢様」


 *


「ふぅ、終わったー!」

「朝に暖房付けといて正解でしたね。はぁ、暖かい……」


 終業式も終わったので、皆で部室に戻ってきた。とんでもなく寒かった講堂と打って変わって暖かい。……というか、講堂が寒すぎた。


「さて、せっかくですし皆で昼食にいたしましょうか」

「そうだねっ。皆でお昼を食べることって中々ないし」

「じゃあ、購買でなにか買ってくるね。クリス、なにがいい?」


 普段なら間宮さんお手製のお弁当を持ってきてるんだけど、今日は終業式ということもあって持ってきていない。こうなると、購買でなにか買ってくるしかないんだけど……、あそこ高いんだよなぁ……。


「ああ、その必要はないですわよ、アキラ。……実は、今日はワタクシが皆様の分まで昼食を持ってきているのです」

「え、マジですかイネスセンパイ」

「ええ。なんとなく、今朝起きたら料理をしたい気分でしたので、思い切って作ってきましたわ。……なんです、その意外そうな目は。ワタクシだって、料理をしたくなるときくらいありますわよ?」


 いやまあ、イネスさんが割と料理上手なのは知ってるし、料理を作ってきたこと自体にはあんまり驚いてない。……俺としては、朝起きてから学校に来るまでの僅かな時間でじつに4人分の料理を用意してのけたことがびっくりだ。俺みたいに早朝から起きてるわけじゃないだろうし、実はイネスさんって、俺よりよっぽど料理の手際はいいのかもしれない……。


 *


「んー、美味しいっ! イネス、凄いじゃんっ!」

「ふふっ、ありがとうクリス。急いで作ったので、少々出来が悪いかもしれないと思っていましたが……。好評なようでなによりですわ」


 イネスさんが作ってきたのは、この前遊園地に行ったときに間宮さんが作ってきたものと同じ、サンドイッチ弁当だった。当の本人は急いで作ったと言ってるけど、とてもそうは思えない見た目と味をしている。やっぱり、俺より料理上手いんじゃないかな……。


「さて、落ち着いてきたことですし、来週のお話でもしましょうか」

「……そっか、もう来週ですもんね」


 そう、ついに来週から俺達はフランス旅行に行くのだ。準備はもちろん進めてるし、イネスさんからのフランス語講座もしっかり受けたので不安はないけど、やっぱりちょっと緊張はする。なにせ初めての外国だし。


「まあ、といってもこれ以上なにかする必要はないですけれどね。飛行機も用意できていますから、あとは忘れものをしなければいいだけですわ」


 フランスまではイネスさんの許嫁の方が所有しているプライベートジェットで向かうらしい。世界規模で見てもかなり大きいグループである星之宮家でもプライベートジェットは持ってないというのだから、イネスさんの許嫁の家はとんでもない規模の貴族なんだろうな……。未だに写真でしか見たことはないけれど、実際に会うのが少し怖い。失礼のないようにしないとな……。

「にしても、プライベートジェットって凄いですよね……。はっきり言って一生関係のない世界だと思ってましたよ、アタシ」

「あはは、それは私もかな。うちも流石に持ってないしね。……持てないわけじゃないらしいけど」


 あ、持てないわけじゃなかったのね……。やはり恐るべし星之宮家。


「まあ、ワタクシの家も持ってないですし……。フランス貴族でも、持っているのはほんの一握りの名家だけですわ」

「つまりその……。イネスセンパイの恋人さんって、とんでもない名家の人ってことなんですね……。ゴクリ……」


 俺もはっきりとは聞いたことないけど、確かにイネスさんの家より何倍も大きいとは言ってたっけ。そんな家で若くして事業の一部を任されているというし、本当にどんな人なんだろう……。


「まあ、来週になれば会えますから。……きっと、いい意味で期待を裏切ってくれると思いますわよ」

「……ほんと、イネスさんは恋人さんにベタ惚れですよねー。今もさらっと惚気られましたし」

「べ、べつにそういうつもりで言った訳ではありませんわっ」


 必死になって反論するあたり、ベタ惚れなのは間違いなさそうだ。知り合ったばかりの頃は、自分は許嫁としてはふさわしくないのではないか、という悩みを抱えていたけれど、上手く吹っ切れたみたいで本当によかった。


「ふふっ、来週が楽しみだね、あっくんっ!」

「うん。楽しい旅行になればいいね」


 クリスも旅行が待ち遠しくて仕方ないのか、楽しそうな声色でそう言った。


「あはは……。こっちもこっちでベタ惚れですね本当に……。イネスセンパイと違って隠そうともしないのがいっそ清々しいですね……。妬けちゃいますよ、もうっ」

「まったくですわ。羨ましいったらありませんわよ、もう」


 八橋さんとイネスさんの言葉ではっとなり、クリスと二人で顔を真っ赤にさせてしまった。そしてそんな俺達を見てあははと笑うイネスさんたち。……まあ、いつもの写真部らしい、にぎやかなひと時だった。――フランスでも、こんな感じで楽しく過ごせたらいいな。

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