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ガールズ・トークⅨ

「イネスセンパイ、こっちです、こっちー」

「ふふっ、そんなに手を振らずとも、見えていますわよ。――ごめんなさいね、遅れてしまって。どのくらい待ちましたか?」

「たいして待ってないですよ。……ははっ、このやり取りじゃまるでカップルみたいですね」


 とある放課後のこと。アタシとイネスセンパイの二人で最近できた喫茶店に足を運んでいた。……本当はクリスセンパイと晃センパイも誘いたかったんだけれど、残念なことに用事があるとのことで一足早く帰ってしまった。まあ、また今度全員で来ればいっか。


「にしても、センパイも忙しいですねぇ。先生に呼び出されたりしなきゃ、最初から一緒に来れたのに。なんというか、タイミングが悪いですよねぇ」

「まあ、そういうこともありますわよ。タイミングが悪いのは確かですけれどもね」


 聞けば先生からの話というのも別に大した話ではなかったらしいし、本当にタイミングが悪い。まあ、先生からの呼び出しを安易に拒否出来るわけないし、仕方ないんだけど。


「さ、早速いろいろ頼んでみましょうよ、センパイっ。ウワサだと、このお店のケーキはかなり美味しいらしいですし、食べてみませんか?」

「いいですわね。せっかく新しい店にきたのですから、コーヒーだけでは勿体ありませんし。――そうですわ、二人で別々のものを頼んで、分け合ってみませんこと?」

「いいんですかっ。そういうの、楽しそうで憧れてたんですよっ」


 という訳で、二人で別々のケーキを一つずつ頼み、半分に分けることに。部室では割とよくやってたけど、こういう他のお客さんもいるところだとやっぱりちょっと恥ずかしい。……いや、女の子同士でやってる訳だし恥ずかしがる必要なんてどこにもないけど。


「なるほど、これは中々ですわね……。この値段でこれほど美味しいものを提供するとは、相当な努力をしているに違いありませんわ」

「なんか今の台詞、まるでお店を持っているみたいですね。……いや、ひょっとして持ってるんですか?」

「……まあ、フランスにはありますわよ。もちろん、私が経営者という訳ではありませんけれどね。実家の事業の一部ですわ」

「なるほど。……流石フランス貴族」


 あんまり気にして無かったし、なんなら最近は忘れかけてたくらいだけど、イネスセンパイってれっきとしたフランス貴族の一員なんだよね……。普通なら一生関わることすらないだろうというくらいには凄い人なのだ。


「たいしたことありませんわよ? 我が家は貴族の中では下から数えたほうが早いくらいの格下ですもの」

「いやいや、それでも一般人のアタシから見たら十分凄いですって」


 まあ、イネスセンパイとしては本当にそう思ってるんだろうけどねー。


 *


「そういえば、なんだかんだでもう11月ですね。最近寒くなってきましたし、もう冬ですねー」

「そうですわね。……ひょっとして、ホタルは冬は苦手なのですか?」

「まあ、寒いよりは暑い方が好きですかね。……寒いと、動きたくなくなるじゃないですか」

「確かに、それは一理ありますけども。ワタクシは夏より冬の方が好きですわね。イベントも多いですし、何よりワタクシの生まれた季節ですもの」


 ――それに何より、あの方(レオン様)と出会った季節ですもの。


「……センパイ? どうしたんです、ボーっとして。……まあ、表情でなに考えてるかは分かりましたけど」

「……本当ですの、それ?」

「ええ。普段は滅多に見せないような、緩み切った表情をしてましたよ? だからまあ、大体は分かっちゃいました。おおかた、恋人さんとの思い出の季節だとか、そんな感じじゃないです?」

「……完敗ですわ」


 ワタクシ、そんなに分かりやすい表情をしていたのでしょうか……。恋人がいることは別に隠している訳ではないけれど、それでもやはり恥ずかしいものは恥ずかしい。


「ふふっ、イネスセンパイは恋人さんの話になるとホント形無しになっちゃいますね。ま、アタシ的にはそういうセンパイも可愛くていいと思いますけどね?」

「なんとも、微妙に嬉しくない評価ですわね……」

「一応褒めてるんですけどねー、これでも」


 ……多分半分くらいはからかいでしょうけど。でもまあ、褒めてるというのも嘘ではなさそうですし、素直に褒められてると思っておくことにしておきましょうか。


「そういえば、もうすぐご本人に会えるんですよねー。写真はこの前見せてもらいましたけど、会うの楽しみです」

「確かに、何気に後ひと月少々ですものね。夏に計画した時はまだかなり先の話だとばかり思ってましたけれど」


 そう、今が10月末ということは、あの前々から計画していた写真部でのフランス旅行まで2カ月を切ったということになるのだ。……本当に、時間というものはあっという間に過ぎていくものだ。


「まだ全然準備とかしてないですけど、大丈夫なんですかね?」

「まあ、往復にはあの方の家のプライベート機を使わせていただきますし、大抵の物はパリの別荘に用意しておくつもりですから、最低限の準備だけすれば大丈夫ですわよ。……皆さんへのフランス語のお勉強は、そろそろ始めないといけませんけれど」


 まあ、たったひと月程度でフランス語をマスター出来るわけはないので、必要最低限しか教えるつもりはないけれど。


「いやー、楽しみですねー、フランス旅行っ!。アタシ、何気に海外に行ったことはないので本当に楽しみですっ」

「ふふっ、そのように楽しみにしてくださると、計画した甲斐があるというものですわね。さて、ワタクシもワタクシで、そろそろフランスの観光プランでも考え始めましょうか」

「いいですねっ。センパイセンパイ、どの辺りが人気のスポットなんですかっ? 色々知りたいので、教えてくださいっ」


 こうしてこの喫茶店でのひと時は、優雅なお茶会からフランスの名所紹介へと姿を変えながら、足早に過ぎていくのであった――

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