閑話――遊園地に行こう! ②
「さてっ、それじゃあ遊び倒そっか! 何にどれだけ乗ってもタダだから、遠慮しないでガンガン乗ってねっ」
一通りはしゃぎ回ったクリスが、皆に向かってそう呼びかけた。……さっきあれだけはしゃいでたくせに、まだまだテンションの衰える様子が一切ないのが実にクリスらしい。
「いやー、どのアトラクションに乗るにも一切待ち時間なしっていうのはいいですね。……アタシ、ああいう待ち時間って本当に苦手で」
「ワタクシ、こういった遊園地に来るのはほとんど初めてなのですが、普通はそんなに並ぶものなのですか?」
イネスさんからのお嬢様らしい質問。確かに、あの行列のすさまじさは、実際に行ったことがある人にしか分からないよなぁ……。
「そりゃもう凄いもんですよ。本当に人気のアトラクションとかだと、並ぶだけで3時間とか平気で掛かりますもん」
「そ、そこまで並ぶものなんですね……。なんというか、そんなに長時間並んでいたら、遊びに来たのか並びに来たのか分からなくなってしまいそうですわ」
「あはは、それは確かにそうかもね。実際、アトラクションで遊んでる時間より、 並んでる時間の方が圧倒的に長いし」
クリスが苦笑しながらイネスさんの意見に同意した。……そういえば、小学生の頃に一回だけ、クリスと遊園地に行ったことがあったっけ。その時も確かに、お目当てのアトラクションに乗る為にかなりの時間並んだりもした。あの頃のクリスは今以上に元気を持て余してて、じっと並んでいるのに耐えられなかったのか、最後の方には拗ねちゃってたっけ。
「……あっくん?」
「いや、その……。な、なんでもないよ。どこから行ってみる?」
昔のクリスのことを思い出してた、と正直に言うのはなんか恥ずかしかったので、なんとなくお茶を濁しておいた。まあ、クリスと二人きりだったら別に言っても良かったけど、イネスさんも八橋さんもいるしね。
*
という訳で、俺達はこの遊園地のアトラクションを散々遊び倒した。
「い、いやぁぁぁ!!」
「あはは、イネス凄い声出てるよーっ!」
「おー、これは中々ですねー」
ジェットコースターに乗ったり、
「ふぅ、これは普通に楽しいですわね」
「へー、イネスってこういうの好きなんだ。ちょっと意外かも」
「そうですかね? イネスセンパイらしいと思いますけどね。メルヘンな感じとか好きそうですし」
メリーゴーランドに乗ったり、
「あらあら? その程度ですかクリス? それではワタクシには勝てませんわよ?」
「むぅ。言うじゃんイネスってば。でも、確かにこれは厳しいかも……」
「ははっ。センパイがた、頑張ってくださいねーっ」
シューティングゲームをしたり、
「いや、その……。ここは流石に止めときませんこと?」
「えー、イネスってば怖いの?」
「まあ、これはちょっと本格的っぽいですし、アタシも怖いですけどね……」
お化け屋敷に……、は反対多数で行かなかったけど。とにかく色んなアトラクションを楽しんだ。
「ふぅ。いやー、遊んだねーっ」
「ですね。ま、これだけ遊んでもまだお昼過ぎですけどね」
「待ち時間がありませんでしたからね。……にしても、流石にそろそろお昼時ですわね」
「だね。……まあ、流石にレストランは空いてないんだけどさ」
クリス曰く、流石に自分たちだけの為にレストランを開ける訳にはいかなかったらしい。まあ、しょうがないと言えばしょうがない。この遊園地、レストランいっぱいあるから行かない店も出て来ちゃうだろうし。
「でも、その代わりはちゃんと用意してるから安心してっ」
「代わり……ですか?」
「うん。ちょっと待っててねーっ」
*
「……なるほど。間宮さんのお手製弁当ですか」
「うーん、相変わらずとんでもない美味しさですねー。このサンドイッチとかもう絶品ですし」
「ふふっ、少々多めに作って参りましたから、遠慮せずに食べてくださいね」
楽し気な笑顔を浮かべている間宮さんに見守られながら、間宮さんお手製のサンドイッチ弁当を夢中で頬張る皆。……それにしても間宮さん、最近は笑顔を浮かべることが増えた気がする。この前のパーティーがきっかけだったりするのかな?
「さて、午後はどうしますか?」
「まだ行ってないアトラクションもそれなりにありますけど、どうしましょうか。個人的には、この非日常な光景を写真に収めたりしてみたいんですけど」
八橋さんからの実に写真部らしい意見。まあ、全員ちゃんとカメラは持って来てるし、それもありかもしれない。
「確かに、この光景はそうそう撮れるものではありませんものね。ワタクシはホタルの意見に賛成ですわ。文化祭以降、あまり写真部らしいこともできてませんし」
「私もほたるちゃんの意見に賛成かな。せっかくカメラ持ってきたんだしね。あっくんはそれでいいかな?」
「うん、大丈夫だよ。じゃ、これからは皆でここの写真を撮って回る、ってことでいいのかな?」
ということで、午後からは皆で写真撮影会をすることになった。久しぶりの写真撮影だし、いいものが撮れたらいいな。
「そうだ、せっかくだし二人一組で別れて写真撮らない? その方が色んな写真撮れると思うしっ」
「クリスセンパイ、それもしかしなくても晃センパイと二人きりになりたいからでしょ」
「いっ、いやまさかそんなことないじゃんんん? そ、そんなこというなら、ペア決めはくじ引きにしてもいいしね?」
「……その言い方だと、何も言われなかったらアキラと組む気だった訳ですね」
「いやまあ、別にいいと思いますけどねー。でも、言ったからにはくじ引きで決めますよ?」
「はぁ……。もう、二人とも意地悪なんだからー。あっくんからも何か言ってよー」
「いや、その……。まあ、仲良さそうでよかったよ、うん」
実際そうとしか言えない。だって、皆なんだかんだでいい笑顔だしね。
「まあ、それはそうなんだけどさ。……まいっか。じゃ、適当にくじ引きしよっ、ほらあっくんもっ」
なんか若干やけくそ気味なクリスにせっつかれながら、急遽作ったくじを引いてみる。……さて、今回はいったい誰とペアを組むことになるのかな――




