閑話――遊園地に行こう! ①
「ん、うーんっ……。あれ、もう朝ぁ……?」
「まあ、朝といえば朝かな」
間宮さんに向けてのパーティーから一週間。俺は朝早くからクリスの部屋に赴いてモーニングコールをしていた。正直もっと起きるまでに時間がかかるかと思ったけど、意外とすんなり起きてくれて助かった。何せクリスは壊滅的に朝が弱い。まあ、小学生の頃からだから、俺とか奥様はもう慣れっこだけども。
「へ? ……って、まだ6時にもなってないじゃん……。流石にちょっと早くないかな、あっくん……」
「いや、昨日の夜に約束したじゃん……」
この通り、いつもより明らかに不機嫌な様子のクリスだけど、そもそも今日こんな時間にモーニングコールをしてくれと言ってきたのはクリスの方だったりする。まあ、起きてすぐは頭が回らないから思い出せないだけだろうけど。約束してからまだ半日と経っていないのに忘れられても流石に困る。
「あ、そうだっけ? ……そうだった」
「お目覚め?」
「うん。――おはよう、あっくん」
「おはよう、クリス」
約束の内容が内容だったからか、普段よりもかなり早いタイミングで覚醒してくれた。普段だったら、この後に例の甘々カフェオレを一杯飲んでからじゃないと起きないからね……。今日の約束はクリスも相当楽しみにしてたから、すぐ思い出せたのだろう。
……で、その“約束”っていうのがなにかと言うと――
*
遡ること約半日。つまりは昨日の夕方6時頃。
「あっくーんっ! あっくんあっくんあっくんっ!」
「そんなに呼ばなくても、すぐ隣にいるんだけど……」
「いいじゃん。なんとなく名前を呼びたくなっただけだってば」
間宮さんから任されていた廊下の掃除を一旦中断し、クリスと並んで一緒に壁にもたれかかる。まあ、仕事をさぼっている訳なので、本当はあまり褒められた行動じゃない。……しかし、従者としてお嬢様であるクリスとこうして会話をすることも立派な仕事だから、これは仕方ない。
……というのは建前で、本音を言うと大好きな彼女と一緒に少しでも一緒にいたいだけだったりする。まあ、ちょっとくらいなら間宮さんもゆるしてくれるであろう、多分。
「いやまあ、いいけど……。えっと、なにか用事だったり?」
「まあ、用事と言えば用事、かな? たいしたことじゃないけど」
「へぇ、珍しいな……。いやまあ、全然いいんだけどさ」
クリスは恋人として甘えてきたりはよくするけれど、明確になにか用事を俺に持ちかけて来たりはあまりしない。だから、今のこの発言は俺的には結構予想外な発言だったりする。
「いいの? 忙しかったりしない?」
「もちろんヒマって訳じゃないけど。でもまあ、今日は来客がある訳じゃないし、ちょっとくらい時間かかっても大丈夫だよ」
もちろんあんまり遅くなると間宮さんに色々と弁明しないといけない事態になるだろうけど。まあ、クリスもその辺は分かってるだろうから、その心配はしてないけど。
「えっとね、明日って用事あったりするかな?」
「明日? いや、明日は特になんにもないよ」
「ホント? よかったぁ……。いやまあ、無理って言われたらお嬢様権限使うつもりだったけど」
ラスト一言の冗談とは裏腹に、ホッと胸を撫でおろすクリス。……ついさっき“たいしたことじゃない”なんて言ってたけれど、今の様子からはとてもそんな風には見えなかった。
「えっとさ。明日はあっくんと行きたい所があるんだけど、いいかな?」
「行きたいところ? 俺はもちろんいいけど……、大丈夫なの?」
全くそういう話が出てくる様子がなかっただけに、一応の確認の質問をしておく。なにせ、俺とクリスは本来恋人同士になど絶対になってはいけない間柄なのだ。従者とお嬢様、決して交わることの許されない、絶対的な身分の差がある関係なのだから。
……もちろん、俺とクリスの場合は周囲の人間全員に歓迎されているので星之宮家の内側での問題はない。だが、外部にいるその事実を知らない人達に恋愛関係にあることを知られる訳にはいかない。その事実が星之宮家と経済的な繋がりのある家に伝わってしまえば、星之宮家の存続に関わる問題になりかねないからだ。
だからこそ、この前のデートですらそういった人達にバレないように準備に準備を重ねてから決行している訳で。それを思うと、今回の唐突なクリスの提案に不安を覚えてしまうのは仕方のない話だろう。
「うん、大丈夫大丈夫っ! お母さんにもお父さんにもオッケーは貰ってるからっ」
「それなら大丈夫だけど。……で、どこに行くの?」
この前のデートの行先は軽井沢だった。もちろんまたあそこでも俺は全然いいけれど、クリスの反応からするとどうやら違うみたいだ。……なにせ、絶対に俺をびっくりさせてやるっ! って意思が表情から見え見えだもん。
「えっと、それはね……。――遊園地、だよっ!」
「……遊園地?」
*
「まさか、星之宮グループが新しく遊園地を作るとはね……」
「だよねー。私もついこの前お父さんから聞いたとき、滅茶苦茶びっくりしたもん。で、せっかくだから――」
「公式な開園の前に、貸し切りで遊ばせてもらえることになった、って訳か」
「そういうことっ」
……なんというか、流石は日本トップの売り上げを誇るグループと言うべきか。リゾートホテルとかを作っているとは聞いたことあったけれど、まさか遊園地まで手掛けていたとは思わなかった。
「せっかくのデートなんだし、目一杯遊ぼうねっ、あっくん!」
「……うん。遊園地なんて普通に行くのは多分しばらくは無理だろうし、思いっきり楽しもう」
なにはともあれせっかくのデートなのだから、目一杯楽しもう。……今度こそ、こういう機会はしばらく来ないかもしれないし。
……いや、まあ。
「あの、ワタクシたちもいるのですが……」
「イネスセンパイ、聞こえてないっすよ。……いやー、あれはもう完全に二人の世界に入っちゃってますねぇ」
……この通り、みんな一緒だけどね。




