ただいまパーティー準備中①
間宮さんと奥様が出かけているその頃、星之宮邸では――
「さて、では始めましょうか。……それにしても、ワタクシが手伝いで良かったのですの?」
「もちろんですよ、イネスさん。クリスと八橋さんには他の準備をやってもらってますし」
俺とイネスさんはキッチンにて、今日のパーティーで使う予定の食材を前にしてそんなことを話していた。なぜイネスさんまでキッチンにいるのかというと、自分一人で料理を作るつもりでいたけれど、振舞う相手が間宮さんであることを思うと流石に一人くらい助っ人が欲しかったからだ。クリスと八橋さんはまだ料理のスキルにちょっと不安があるので、今回は料理上手な一面も持つイネスさんにお願いした、という訳なのだ。
「では、事前の打ち合わせ通り、テキパキと作ってまいりましょうか。あまり長々と時間は取れませんし」
「ですね。じゃ、始めましょうか、イネスさん」
事前に作る料理とその役割分担は決めているので、後はそれに従って料理していくだけだ。
……といっても、普段こういったパーティーで出すような料理は間宮さんに任せっきりだったこともあって、あまり慣れた作業という訳ではなかったりする。まあ、今回振舞う相手である間宮さんは、いくら普段の料理の出来に手厳しいといっても身内であることには変わりないので、あまり気を張りすぎずにやっていくつもりだ。緊張して手元が狂ったら元も子もない訳だし。
「やはり、アキラの料理の腕前は素晴らしいですね。……包丁の使い方だけを見ても、ワタクシより数倍は綺麗ですもの」
「……そう、かな? 俺から見たら、イネスさんも十分綺麗だと思うけれど」
実際、イネスさんの包丁さばきは文句の付け所がない位に綺麗だ。……それこそ間宮さんが見たらまた違うのかもしれないけれど、少なくとも普通に料理をする分にはなんら問題ないレベルの実力であることは明らかだった。
「……これなら、割と余裕を持って準備できそうかな」
「ですわね。もう少し難航するかもと思ってかなり急いで買い出しを済ませましたが、その必要はなかったかもしれませんわね」
自分もイネスさんの両者ともある程度以上の力量なこともあって、もともと予定していたよりも幾分か早めに準備が終わりそうだ。
「……そう言えば、クリスとはどうですか? いえ、愚問なのは分かり切っていますけれども」
「まあ……、そうですね。相変わらず仲良くやれてますよ、おかげ様で」
余裕が出てきたこともあって、準備の片手間に雑談が始まった。にしても、一番最初に聞いてくる話題がソレなのか……。いやまあ、気になるのは分かるけども。
「でしょうね。あなたたちが喧嘩をしたり仲違いをするなんて到底あり得ませんもの」
「……そこまで言い切ります?」
そりゃ俺もクリスも喧嘩や仲違いをする気なんて毛頭ないけど、それを第三者であるイネスさんにキッパリ断定されるとは。
「ええ。それこそ、今の内に結婚式で読み上げる友人の手紙の内容を考えてもいいくらいですわね」
「……流石にそれは気が早すぎますって」
……そりゃ、最終的にそうなるのが一番だとは思ってるけど。
「……そうですかねぇ。ふふっ」
「イネスさん、楽しそうですね……」
「それはもちろん。人の惚気話を聞くこと程楽しいことなんて、そうそうありませんもの」
まあ、それは確かにそうかもしれない。……聞かれる側としてはちょっと容赦して欲しいけど。
「アキラと再会してからのクリスは、毎日本当に楽しそうにしていますもの。それこそ、ワタクシが少々嫉妬してしまうくらいには。……ふふっ」
冗談めかして笑ってはいるけど、どうにも本当に嫉妬を覚えたことがありそうな口調でもあった。
「そうは言っても、イネスさんとも十分すぎるくらいに仲良いじゃないですか。お互いに親友って呼び合ってるわけですし」
それこそ、クリスとイネスさんの仲睦まじさには偶にうらやましさを覚えるくらいだ。
「……それはまあ、そうですけれども。昔のクリスは、今と比べると若干暗かったですから。今の明るさになったのは、間違いなくアキラのおかげですわ」
「そうだったんですね……。もしそうだったら、正直ちょっと嬉しいですね」
本当の所はクリスに聞かない限り分からないけど、俺との再会によって昔の明るさを本当の意味で取り戻せたのだとしたら、やはり嬉しいことではある。
「ふふっ、流石にクリスのことばかり話しすぎましたわね。……なんだかんだ、前菜の準備は終わってしまいましたもの」
「ですね。……クリスと八橋さんの方は、順調に進んでるのかな?」
クリスと八橋さんはパーティー会場である広間の準備中だ。二人とも手は器用だし、事前に準備も計画をしているから心配するようなことはない筈だけど……。ついさっきまでクリスのことを話題にしてたこともあって、つい気になってしまう。
「どうでしょうねえ……。案外、こちらと同じくホタルからアキラとのことを聞かれているかもしれないですわね」
……確かに、それはあるかもしれない。もちろん、たとえそうなってたとしても準備はきっちりやってるだろうけど。
「ひょっとしたら、とんでもなく恥ずかしいことを暴露されてるかもしれませんわね?」
「有り得そうだなぁ……」
……うーん、後でこっそり覗いてこようかな?




