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ガールズ・トークⅧ

「さ、行きましょっ、間宮」

「……は、はい、奥様」


 週末。私――間宮は、朝食の準備をしているところを奥様に半ば強引に連れ出された。連れられた場所は、郊外にあるとあるショッピングモール。


「しかしどうしたのですか、急に……」

「偶にはいいじゃない、こういうのも。少しは休まないといくら間宮でも体保たないわよ?」

「まあ、それはそうかもしれませんけど……。でも、今日の仕事は……」


 今日は土曜日。南雲さんは基本的にはお休みなので、本当なら自分一人で家の仕事を片付けなければならない。


「大丈夫よ、事前に晃くんにお願いしてるから」

「それならばいいんですが……。南雲さんには悪いことをしてしまいましたね」


 ……まあ、口ではこんなことを言っている私だけれども、今回のこの唐突な外出の本当の理由は分かっている。


 先日奥様の部屋から漏れ聞こえてきたあの会話。……どうやら、お嬢様の発案で私に日頃の感謝を伝えようとパーティーを計画しているらしい。今回のこの外出も、私を屋敷から距離を置かせ、南雲さんやお嬢様が準備をするための時間稼ぎのつもりなんだろう。


 でも、わざわざそれを口に出すような真似をするつもりはない。とても嬉しいこと自体は確かだし、せっかくの皆様からの厚意を無駄にしたくはない。


「ふふっ、悪いわね、間宮。……気づいてるんでしょ?」

「……まあ、そうですね。流石に先輩には隠し事できませんね」

「間宮は隠し事が下手だもの。今だって表情でバレバレだったしね。まあ、クリスとか晃くんには気づかれてないみたいだから安心しなさい」

「ええ、それならばよかったです」


 南雲さんもお嬢様も、こういう隠し事を見抜くことは苦手なタイプの方だ。それくらい人を疑うということをしない人、という意味ではあるのだけど、やはりほんの少し心配にはなる。だからまあ、せめて屋敷で一緒に生活している間くらいは、その辺りもしっかりサポートしてあげたい。


「ほら、行きましょ。なにはともあれお休みなんだもの、楽しまないと損よ?」

「そうですね。せっかくですから、目一杯楽しませてもらいましょう」


 *


「ほら、これとかどう? 似合うと思うけど」

「そう、ですかね……? 少々、歳相応ではないような気がするのですけれど……」


 先輩から渡された服を眺める。……普通のワンピースではあるけれど、スカートの部分が私にはどうにもフリフリすぎる気がする。もちろん、とてもかわいいデザインだけど、これは私よりはお嬢様の方が似合うデザインな気が……。


「なに言ってるのよ。間宮にも似合うと思うわよ、これくらいなら。というか、ちょっとくらいはおしゃれしないとモテないわよ?」

「うっ……、そうですかね……」


 確かにもう何年も恋人なんてできてないけれど……。最近はあまり考えてなかったけど、そういうこともそろそろ考えないといけないのかもしれない。……いや、世間的にはもう遅いのかもしれないけれど。


「そこでその反応ってことは、考えてない訳じゃないのね」

「まあ、私だって人並みには考えていますよ。……最も、実現できるかといったらそれはまた別の話ですけれど……」


 今は星之宮邸に寝泊まりしてるし、メイドとしての仕事以外で外出することはほとんどない。別にこの生活に不満はないし、むしろ充実してるとすら思ってるけれど……、出会いが欲しくない訳ではない。


「間宮は綺麗なんだし、面倒見もいいし、嫁にしたい男性はいっぱいいると思うわよ? それこそ、婚活なんかしたらすぐに引く手あまたになるくらいには、ね」

「そうでしょうか……」


 正直、自分自身ではそんな風には思えないので、先輩の今の発言も半信半疑だったりする。


「ええ、私がお墨付きを出してあげるわ。……なんなら、仕事を少し余裕持たせてもいいわよ? 他のメイドを雇ってもいいわけだし。晃くんも成長してるみたいだしね」

「……まあ、考えておきます」


 考えてない訳じゃないので、そうお茶を濁しておいた。……実際、いつかお願いするかもしれないし。


「そういえば、今日のパーティーはどのようなものなのでしょうか」

「あら、それ聞いちゃう? お楽しみは取っておいた方がいいと思うわよ?」

「……それもそうですね。少し無粋なことを聞いてしまったかもしれませんね」


 せっかくお嬢様たちが準備してくださっているのだ。今は楽しみにして待っていよう。


「さ、そろそろ帰りましょうか。……どうやら、準備できたみたいだしね」


 スマホをこちらにチラつかせながら、先輩がそう言った。……どうやら、お嬢様から準備が整ったという連絡でも入ったようだ。


「ええ。……楽しみに、していますね」


 お嬢様たちがどんな催しを企画しているかは分からない。……それでも、一つ確かなのは――


 ――これから行われることは、ずっと忘れることのない思い出となるということだ。

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