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助っ人は奥様

「――っていうわけだから、間宮になにかしてあげたいんだけど……。何がいいのかな?」

「そうね……。私としては、間宮ならどんなことでも喜んでくれると思うけど……。というか、何するかは皆で考えたんじゃなかったの?」


 文化祭の打ち上げの日の夜。俺とクリスは早速、俺達が知る中で間宮さんに最も近いであろう奥様の元に話を聞きに来ていた。


「まあ、それはそうなんだけどね……。やっぱり、色んな人の意見が聞きたくって」


 間宮さんの実年齢は知らないけど、俺達とはそれなりに年代が離れているのはたしかだ。そうなると当然、貰って嬉しいものとか、されて嬉しいことも俺達とは変わってくるはず。……今日の写真部の皆との相談で、イネスさんから出た言葉だ。


 そういう訳で、どうやら間宮さんとは昔からの知り合いらしい奥様の元に話を聞きに来たんだけど……。さて、どうなることやら。


「ふふっ、そういうことね。なら、私も知恵を貸してあげないとね。……私だって、間宮には感謝しっぱなしな訳だしね」

「ありがと、お母さん」


 思っていたよりもあっさりと、奥様から話を聞けるようでホッと胸をなでおろした。……まあ確かに、この星之宮家で生活している以上、間宮さんに感謝しているのは当然と言えば当然かもしれない。


「間宮は昔からなんでも自分で片付けちゃうタイプだけど……。しいて言うなら、何かをしてもらうことにはあんまり慣れてないはずよ。あの子、昔っから今と大して変わってないもの」


 なんだか懐かしいものを眺めるような目つきでそう静かに語る奥様。間宮さんと奥様が具体的にいつからの知り合いなのかは知らないけど、この様子を見るにかなりの年季の仲みたいだ。それこそ、俺とクリスのように10年単位の仲なのかもしれない。


「今とあんまり変わらない、ってことは昔からあんなに凄かったの?」

「ええ。常に仲間内みんなの事を考えてて、気配りを欠かさない人だったわよ。……まあ、今より少しだけ引っ込み思案ではあったけどね」


 引っ込み思案な間宮さん、か……。なんかちょっと想像できない。


「こうやって話を聞くと、なんか見てみたくなるなー、その頃の間宮。……でもそうなると

 サプライズパーティーみたいなのがいい、ってことになるのかな?」


 奥様は、“なにかをされることには慣れてない”と言っていた。確かにそこから考えると、サプライズパーティーのような企画が打って付けなのかもしれない。……でも、この星之宮家で間宮さんにバレずにサプライズパーティーを計画するのはそう簡単な話ではなさそうだ。


「そうね、それならきっと間宮も喜んでくれると思うわ」

「……でも正直、この家で間宮さんにバレずにそれを実行するのは――」

「まあ、晃くんの言う通り、無理でしょうねー」


 奥様からもキッパリ断言されてしまった。となると、どうしたものか……。他の場所、例えばイネスさんの家なんかでやる、っていうプランもないことはないけど、それは流石にイネスさんに悪いよな……。


「……ねえ、あっくん。準備って、一日あれば出来るかな?」

「……そうだね、ちゃんと事前に計画していれば、可能だと思う。もちろん、皆が手伝ってくれるなら、だけど」


 どのくらいの規模のパーティーにするかにも寄るけど、事前にどんなことをするのかしっかり決めておけば、買い出しから準備までを一日で済ますことはできなくはないだろう。


「そっか。……ねえお母さん、お願いが一個あるんだけど、いいかな?」

「ええ、いいわよ。ふふっ、時間稼ぎなら任せなさい」

「……お母さん、私まだ何も言ってないんだけど」

「あら、違った?」

「いや、違わないけど……。流石お母さん」


 クリスによく似た悪戯っぽい笑顔を浮かべる奥様。どうやら、自分の娘の考えることくらいはお見通しらしい。


「……えっと。じゃあ、計画は決まった、ってことでいいんですかね、奥様?」

「そうね。私がなにかしら理由を付けて間宮を連れだして、その隙にみんながパーティーの準備をする。そして準備ができたら、私が間宮を連れて帰ってくればいい、って訳ね」

「そうそうっ。よろしくね、お母さんっ」

「自分からも、よろしくお願いします。……すみません、奥様もお忙しいのに」


 奥様は、例え土日であっても旦那様の出張などについていくことがほとんどだ。当然、この計画を実行するときは旦那様の仕事にはついていけない訳なので、かなりの負担を強いてしまっていることになる。


「いいのよ、別に。さっきも言ったけど、私だって間宮には散々お世話になりっぱなしなんだしね。あの人だってそれは同じだし、この話もきっと笑って承諾してくれるはずよ」


 奥様はこう言ってくれてるけど、後で俺達からも旦那様にお願いはしとかないとな。奥様から伝わるとは思うけど、それが礼儀ってものだろう。


 ……とまあ、具体的な中身の話はまだだけれど、一応の方針は決まった。こうやって色んな人が協力してくれている訳だし、なにがなんでもよいものにしないとな。


 *


 ――同時刻。


「……これは、参りましたね……。ふふっ、聞いてないことに致しましょうか、これは」


 奥様の部屋の入り口で、そんなことを呟く人影が、一つ。


「しかし、その……。やはり嬉しいものですね、こういうことは」


 ――そしてその人影が、心底嬉しそうにそう言い、スキップをしながらその場を離れていったことを知るものは、残念なことに誰もいなかった。


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