文化祭の打ち上げ→惚気話
「それじゃ、かんぱーいっ!」
クリスの元気な掛け声が広間いっぱいに響き渡る。昨日軽井沢で散々遊び倒したっていうのに、流石の体力だ。
「ふふっ、いつもながらどれもこれも素晴らしい美味しさですわね。流石は間宮さんですわ」
「ホント、いくらでも食べれちゃいそうですよねー。ま、まあ、その分食べ過ぎが怖いんですけどね、アハハ……」
間宮さんお手製の料理の数々を、心底幸せそうな表情で頬張る皆。……まあ、八橋さんは若干微妙な表情をしているけど……。正直、太ることを心配する必要は全くなさそうなスタイルをしているように見えるんだけど。どうやら当人の認識ではそうではないみたいだ。
「そういえばクリスセンパイ、晃センパイ。昨日はどうでしたかー?」
八橋さんからの質問に、俺とクリスは思わず顔を見合わせる。確かに昨日俺とクリスがデートをすることは八橋さんにも言っていたけど、まさかここまでストレートに質問してくるとは思ってなかった。
「ま、まあその……。楽しかった、よ? ね、ねえあっくん?」
「う、うん。家の外で二人っきりなのは久々だったし。楽しかった、よ?」
「……なんで二人して疑問形なんです? まあ、楽しんでたみたいで良かったですけどね」
そんな返答をした八橋さんは、やけにニヤニヤしていた。どうやら、完全に野次馬モードに入っているらしい。まあ、気になるのは分かるけどね……。
「ふふっ、ワタクシには昨晩に散々デート中の写真を送ってきたというのに。ホタルには送らなかったのですの?」
「あ、あはは……。イネスに送った後、なんか急に恥ずかしくなっちゃって……。それでほたるちゃんには送らなかったんだよね……」
「いや、その……。イネスさんには送ったんだ、写真……」
まあ、イネスさん相手なら別にいいけど。でもせっかくなら、イネスさんに送るまえに恥ずかくなって欲しかったなぁ……。
「あー、その……。ごめんね、あっくん。せっかくいっぱい写真撮ったからさ、つい自慢したくなっちゃって」
「まあ、イネスさんならいいけどさ。ただその……、流出とかしないように気を付けてね」
恥ずかしいとか以前に、冗談じゃなくゴシップネタになっちゃうからね……。
「それは大丈夫だって! イネスとほたるちゃん以外に見せる気ないからねー」
「逆に言うとその二人には見せる気でいた、ってことだよね……」
自慢したい気持ちは分かるし、なんだかんだイネスさんも八橋さんも気になってたみたいだから全然かまわないけど。……正直、俺だってちょっと自慢したいし。自慢できる相手いないけど。
「センパイ、せっかくですし見せてくださいよー」
「ふふっ、オッケーオッケー! 色々撮ってるから、いっぱい見せてあげるねっ」
……という訳で、この文化祭の打ち上げは、早速クリスによる昨日のデートの惚気話大会と化したのであった。
*
「ふぅ、色んな意味でお腹いっぱいですわ……」
「同感です、イネスセンパイ……。まあ、聞きたがったのはアタシですし、楽しかったですけど。でも、もうちょっと容赦というかなんというか……。独り身のアタシにはキツイですよ、もう……」
とか何とか言ってるけど、二人とも表情は笑顔だ。……まあ、苦笑ではあるんだけど。
「独り身って、中学生が言う台詞ではない気がするんだけど……」
「そう言っても、この中で恋人いないのアタシだけですし」
「まあ、それはそう、なのかなぁ……?」
あんまりこの話題には深く突っ込めないので、微妙な表情で俯くしかない俺だった。……なにせ八橋さんに恋人いないのは、間違いなく俺が一因だし。
「まあ、この話は一旦置いといて、っと。イネスとほたるちゃんにちょっと手伝って欲しいことがあるんだけど、聞いてくれる?」
今までのおちゃらけた雰囲気をすっと収めて、真面目な表情になるクリス。一応、俺は事前に今からの話を聞いている。二人とも何も言わずに協力してくれると思うしからそんなに深刻そうな顔しなくてもいいと思うんだけど。まあ、クリスにとっては超大事な話なのもよく分かるけど。
「実はさ、間宮に何か日頃のお礼をしたいなー、ってずっと思っててさ。なにかいいプランないか聞きたいな、って思って。……どうかな?」
クリスからのお願いが二人には余程意外だったようで、イネスさんと八橋さんは息ピッタリに顔を見合わせて……、小さく吹き出した。
「ふふっ。まったく、何を言い出すのかと思ったら。……プランを聞くだけでいいんですの? 計画から実行まで、全部喜んでお手伝いいたしますわよ?」
「そうですよ。アタシたちも間宮さんには散々お世話になってますし。むしろお手伝いさせて欲しいくらいですっ」
うん、思ってた通りの返答だ。この二人なら、きっとこんな返答をしてくれると思ってたけど、本当にその通りになった。
――間宮さんに感謝の気持ちを伝えたい。
元々は俺とクリスの二人で山の展望台に写真撮影に行った時に話に出たことだし、あれからも二人でちょっとずつ案を考えてはいた。でもやはり二人の頭だけじゃ考えることに限界があるし、そもそも間宮さんも同じ家にずっといるから勘付かれてしまうかもしれないしで、正直あまり話が進んでいなかったのだ。
「え、いいの……?」
「もちろんですわ。というか、そんなこと考えていたのならさっさと教えてくれればよかったのですわ。協力しない訳ないでしょうに、まったく」
「はは、そっか……。ありがと、イネス、ほたるちゃん」
思わず、といった様子で涙ぐむクリス。クリスにとって間宮さんは姉のような存在だし、感謝の気持ちはきっと俺達の想像以上のものなんだろう。……もちろん、俺だって間宮さんにはとても感謝している。なにせ、間宮さんのおかげで従者としての仕事ができるようになった訳だから。
「じゃあ、間宮に喜んでもらえるようなすっごいものを皆で考えよう!」
目元の涙を拭いそう元気に声を上げたクリスの表情は、いつも通りの、いやそれ以上の清々しい笑顔をしていた。




