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もう一つのプレゼント

「……とまあ、このようなやり取りがあったのです」

「な、なるほど……」


 えっと、手紙なんて貰ってないけど……。


「その反応からするに、どうやら手紙は貰ってないようですね……」

「まあ、そうですね……。クリスのことだから、土壇場で恥ずかしくなって渡せなかったのかな……?」


 一応昔からの幼馴染なので、クリスにそういう節があるのは分かってる。……まあ、本人が渡したいと思ったときに渡してくれるのが一番いいと思うから、クリスに手紙のことを聞いたりするつもりはないけれど。ただまあ、俺もやっぱり男なので――


「クリスが俺にどんなことを思っているのかは、ちょっと気になりますけどね」


 もちろん嫌われたりしてはないだろうし、クリスから好かれている自覚だってある。……ただ、実際言葉にした時に俺のことをどう思ってくれてるんだろう、っていうのはやっぱり気になってしまうのだ。


「まあ、それは誰しもそうですよ。……私だって、皆さんからどう思われているのか、多少は気になりますしね」

「……ちょっと意外ですね。間宮さんって、そういう他者の評価とか気にしない人だと思ってました」

「ふふっ、そんな人間そうそういませんよ」

「そんなもんなんですね……」


 自分がクリスの目を気にしすぎなんだと思っていたけど、どうやらそんな訳でもないみたいだ。


「さて、そろそろ家に帰りつきますよ」

「了解です。……じゃ、そろそろクリスを起こしますね」


 俺の肩に乗っかっているクリスの小さな頬を指で優しく突いてみる。……びっくりするほど柔らかい。なぜだろうか、起こす為に触れたのに、不思議と罪悪感に駆られてしまった。


「……ク、クリス。もう家に着くぞ」

「うーん……。ふみゅ……、もう?」


 目は開いたけど、まだ寝ぼけているご様子。朝の弱いクリスらしいけど、今は流石に起きてもらわないと困る。


「ええ、着きましたよ、お嬢様。まだお風呂にも入らなければいけませんし、起きてくださいね?」

「それに、明日はイネスさんと八橋さんがウチに来る約束だったしね。準備とかしてから寝ないと」


 明日は写真部の皆で文化祭の打ち上げだ。……といっても、やることはいつもと変わらないだろうけど。まあ、どんな時でもいつも通りのスタンスなのは、俺たち写真部のいいところ……、なのかもしれない。


「あー、そっかー。なら起きなきゃね……」


 依然として寝ぼけてる様子だけど、この調子なら自分の部屋に戻るころにはいつも通りに戻っていることだろう。なにせ、酷いときはもっと酷いからな……。


 *


「さて、じゃあまた、明日だね。おやすみ、クリス」


 家に帰りついた俺は、クリスと一緒にクリスの部屋の前に来ていた。簡単に言ってしまえば、部屋まで送りに来たわけである。


「まあ、流石にまだ寝ないけどね。お風呂にも入らなきゃだし。……あははっ、良かったら一緒に入る? ……なーんてね」

「……お嬢様。まだそれは少々早いかと」


 からかっているのは分かっているけれど、一応念の為に従者モードで窘めておく。そりゃ俺だって恋人と()()()()()()をしたくないのかと聞かれたらしたいけれど、まだちょっと時期尚早すぎるだろう。……それに、この家でそういうことしたら間宮さんに筒抜けだし。


「はーい。むぅ……、私は別にいつでもいいんだけどなぁ……」


 なにやら小声で呟いている様子だったけど、幸か不幸かよく聞き取れなかった。


「まあいいや。また明日ね、あっくん。……あ、ちょっと待っててっ」


 お休みの挨拶をするのかと思った途端、部屋に引っ込んでなにやらゴソゴソとし始めるクリス。……かなり唐突な行動だったけど、いったいなんなんだろう?


「ふぅ、あったあった……。ねぇ、あっくん。貰って欲しいものがあるんだけど……、いい、かな?」

「えっと、そりゃあもちろんいいけど……。どんなのなの……?」


 えらく緊張した様子でそう切り出して来たので、つい不安になってしまった。……でも、直後に思い返す。そういえば、クリスには俺にまだ渡していないプレゼントがあったことに。


「こ、これ。その……、誕生日の時にあっくんお手紙くれたでしょ? だからその……、返事、というか……。ま、まあそのっ、読んでっ!」


 散々言葉に詰まった挙句、最後には俺の手に強引にその手紙を押し付けてきた。


「うん、もちろん読むよ。……ありがとう、クリス」

「こ、こちらこそだよ。……その、本当は今日のデート中に渡すつもりだったんだけどね。今朝になって急に恥ずかしくなっちゃって、部屋に置いてきちゃったの」


 それでデート中には話題にすら出てこなかったのか……。まあ、俺もあの手紙を渡すときは滅茶苦茶恥ずかしかったし、緊張もしたので気持ちはよく分かるけど。


「じゃ、じゃあその。……お、おやすみっ!」


 とうとう恥ずかしさが臨界点に達してしまったようで、クリスはそう叫びながら自室へと勢いよく引っ込んでしまった。


「うん。おやすみ、クリス」


 ……さて、俺も自分の部屋に戻って、この手紙を読んでみようかな。


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