デートの後に/間宮さんからのとあるタレコミ
「どうでしたか、今日は」
「……楽しかったですよ。いい休日になりました。ありがとうございます、間宮さん」
夜20時。俺とクリスは迎えに来てくれた間宮さんの運転する車に揺られながら家路についていた。なおクリスはよほど疲れたのか、俺の肩にもたれかかりながら可愛らしい寝息を立てている。……前にも同じようなことはあったけど、ここまでの至近距離で無防備な姿を見せられるとやはりどうしてもドキドキしてしまう。
「ふふっ、であれば良かったです。なにせ今朝の南雲さんはどうにも緊張されているようでしたしね」
「まあ、確かに緊張してましたね……。でも間宮さんのあの言葉のおかげで、いつも通り楽しく過ごせました」
朝、間宮さんが去り際に俺に言ってくれた言葉を思い出す。
『……もう少し、肩の力を抜いたほうがいいですよ。あまり楽しませようとは思い過ぎず、お嬢様と一緒に楽しんでください』
朝の俺は、“頑張ってクリスに楽しんでもらわないと”という想いでいっぱいだった。……そのせいで、自分自身が楽しむことすらできないくらいに。まあ、今思えば考えすぎで肩に力入りすぎな考え方だったけど。
「……いえいえ。私は、ほんの少し手助けしただけにすぎませんよ」
そう謙遜しつつ、間宮さんはいつも通りのクールな表情を崩さない。……けれど、一瞬だけその口元が緩んだのが、ミラー越しに見えた。――やっぱり、俺たちの関係は色んな人たちが応援してくれるからこそのものなんだ。間宮さんの笑顔を見て、俺は改めてそう思わずにはいられなかった。
「……そういえば、お嬢様からプレゼントは貰いましたか?」
「はい。……あの手袋、間宮さんも手伝ってくださったんですよね。ありがとうございます」
「私はお嬢様に少しお手本を見せて差し上げただけですよ。あの手袋そのものには私の手は一切入ってないですから」
また謙遜する間宮さん。間宮さんはこう言っているけれど、やっぱり俺もクリスも間宮さんの助力には何度も助けてもらっている訳で。前にもクリスと話したけど、近いうちに間宮さんにどうにかして恩返ししないとな……。
「……貰われたのは、手袋だけですか?」
「えっと……。はい、そうですけど……?」
俺の返答を聞いた間宮さんが、唐突にため息をついた。……間宮さんにしては珍しい行動だ。
「はぁ……。まあ、ある意味お嬢様らしいとは思いますけれども」
「……えっと、なにがどういう……?」
話の展開が見えてこないので思い切って聞いてみる。
「そうですね……、私の口から言っていいものかどうかは微妙なところですが。まあ、お嬢様もしばらくは目を覚ましそうにないですし、お話しましょうか」
そう前置きしてから、間宮さんはクリスに手袋の編み方を教えていた時のことを語り始めた――
*
――あれは、一昨日の夜、南雲さんが夕食の片付けをしていた時のことでした。
「ふふっ、流石はお嬢様ですね。……ええ、あとは先程言った通りに進めていけば完成ですね」
「ふぅ……、なんとか形にはなりそう、かな? ありがとね、間宮。おかげであっくんにちゃんとプレゼント渡せそうだよ」
そう言いながら、心底嬉しそうな笑みを浮かべていらっしゃるお嬢様。間違いなく、一週間前から少しずつ進めていた手袋の作成がようやく形となったことがこの笑顔の一番の理由でしょう。
「お嬢様の手作りともなれば、南雲さんも必ずや喜んでくださることでしょうね」
「えへへ、そうだと嬉しいなー。せっかく頑張って準備した訳だし。あでも、“あっち”の準備もしとかないとな……」
「……なにか、他にもプレゼントするものがあるのですか?」
……私のこの質問を聞いた途端、お嬢様は顔を紅潮させ始めました。それで、私も気づいてしまったのです。……どうやら、手袋の比ではない程に恥ずかしい代物をプレゼントするつもりなのだ、と。
「う、うん。その……、手紙をね、書こうと思うんだ。誕生日にあっくんから手紙貰ったのに返事書けてなかったから、この機会に私も書いてみようかな、って」
「……それは、いい案ですね。きっと南雲さんも喜んでくださるでしょう」
「そう、かな? でも私、手紙とか書いたことないし……」
「ふふっ。南雲さんなら、どんな内容の手紙でも喜びますよ、間違いなく」
――なにせ、骨の髄までお嬢様に惚れていますからね。
いままでの人生でも様々なカップルを見てきたけれど、これほどに愚直に恋をしている人は私はいままでに見たことがない。……まあ、おそらく本人たちにとってはごく当たり前のことのつもりなのでしょうけれど。
「そっか。……まあ、間宮がそう言ってくれるなら安心かな?」
それまでどこか不安そうな声色だったお嬢様でしたが、最後にはいつも通りの声色に戻られました。
さて、お嬢様はいったいどのような手紙を南雲さんに贈るのでしょうか――




