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クリスとデートⅡ ③

「あっくん、大丈夫?」

「はぁっ……。相変わらず早いね、クリスは……」


 17時。日が傾く時間もかなり早まってきたこともあって、既に辺りは暗くなり始めている。


「まあねっ。でも、あっくんもあの頃よりは早くなったんじゃない?」

「そうかな? たしかにあれから運動はするようにしてるけどさ」


 二人で足早に小高い丘を登る。まだ間宮さんが迎えに来るまで2時間くらいはあるけど、目的地から駅までの距離を考えるとあんまりのんびりもしていられないのだ。


「ふぅっ。到着っ、と」

「あぁ……、やっと着いたか……」

「ははっ、お疲れ」


 ――そして、目的地に着いた。


「……懐かしいね、ここ」

「そう、だね。……色々あったよね、ここでさ」


 クリスがしみじみと呟く。……この場所は、あの花火大会の日の夜にクリスと始めてキスをした場所。言い換えれば、クリスに告白された場所だ。


「本当、あの時はごめんね。いきなりキスして、しかも逃げ出してさ。びっくりしたでしょ?」

「まあ、ね。……でも、あのおかげで今の俺らがいるわけだし」

「そうかな?」


 実際、あの頃の俺はクリスと恋人になることはできないと思っていて、自分の気持ちを封印しようとしていた。それが必要ないことだと分かったのは恋人になった後だったし、やっぱりあの時クリスからキスされてなければ、きっと未だにただの幼馴染だっただろう。


「でもまあ、いきなりどっか行っちゃったのはびっくりしたけどね」

「あはは……、だよねぇ……」


 目に見えてがっくり肩を落とすクリス。……どうやら、あの行動はクリスの中では相当の黒歴史になっているみたいだ。


「いや、もう気にしてないからそんなに落ち込まなくてもいいのに」

「そう言ってくれるのは嬉しいけどね……。あの時あっくんを傷つけたのは間違いないしさ」

「あの後ちゃんと謝ってくれたし、もう気にしてないよ。……あのおかげで、俺も覚悟を決められた訳だしね」

「……覚悟?」


 クリスを探している最中に、八橋さんから投げ掛けられた問いを思いだす。


『センパイは、誰の味方になりたいんですか? 星之宮家ですか? それとも、クリスセンパイですか?』


 あの質問のおかげで、俺は覚悟を決められた。例えなにがあったとしても、クリスの味方でいると。……大好きな一人の女の子の、一番の味方になると。


「まあ、あの時に俺も俺で色々あったんだよ」

「ふーん。……気になるなぁ」

「内緒。恥ずかしいし」


 流石にクリス本人に面と向かって言うのは恥ずかしすぎるので、適当にはぐらかす。……いつか、胸を張ってこの覚悟をクリスに伝えられる時が来たらいいな。


 *


「そういえば、どうしてここに来たの? ……直前まで秘密にしてたし」


 ひとしきり思い出に浸った後、ふと思ったことをクリスに尋ねてみる。思い出話をすることももちろん目的の一つではあるだろうけど、それならわざわざ秘密にしたりしないだろうし。


「え、えっと、その……。渡したいものがあってさ」

「渡したいもの?」

「うん。……あっくんからは色々貰ってるのに、私からはまだほとんどプレゼントとかしてなかったからさ」

「別に気にしなくていいのに」

「気にするよ。付き合ってるんだから、こういうのは公平じゃないと。それに、あっくんになにか贈り物をしたいなー、とは前々から思ってたしね」


 いつもより心なしか真面目な表情のクリス。確かに俺からは、今クリスがつけているネックレスの他にも誕生日プレゼントなんかをあげたけど、俺だってクリスからなにも貰ってない訳じゃない。前に料理を振舞ってもらったこともあるし、何よりこうして毎日一緒にいられるし。でもだからといって、クリスからなにかプレゼントがあるのならそれを断るなんてことは有り得ない。だって嬉しいからね!


「そっか。その……ありがとね、クリス」

「ははっ、まだあげてないのに感謝されちゃった。あっくんてばちょっと気が早いんじゃない?」

「だって、その気持ちだけでもう嬉しいからさ」

「そう言ってくれるのはこっちも嬉しいけどさ、気持ちだけで満足されてもそれはそれで準備した甲斐がないんだけどなー」


 呆れたような、それでいて心底嬉しそうな笑顔を浮かべながら、鞄をゴソゴソし始めるクリス。そしてその中から取り出したのは……、


「はい、どーぞっ。……たいしたことないものだけど、気に入ってくれたら嬉しいな」

「ありがとう。これは……、手袋?」


 クリスから渡された紙袋を開けると、そこには綺麗な朱色の毛糸で編まれた手袋が入っていた。


「そうだよっ。これから寒くなるからちょうどいいかなって思って。どうかな、サイズとか大丈夫そう?」

「うん、サイズはピッタリだよ。……クリス?」


 試しに手袋を付けてみると、なぜかクリスの顔が真っ赤に染まってしまった。なんで手袋を付けただけであんなに真っ赤に……?


「いや、思いのほか恥ずかしくって。その……、私が編んだものをあっくんが付けてるってのが」

「えっ……。これ、クリスが編んだの?」

「う、うん……。どうかな?」


 どうも何も、てっきり既製品だと思ってしまったくらいには完成度の高いものでびっくりしてしまった。昔から手先は器用だったけど、それでここまでのものを作れるとは。


「すごくいいよ。流石クリスだね」

「いやいや。間宮さんに教えて貰いながらだったから凄い時間かかっちゃったし。でも……、そう言ってくれると嬉しいな。ありがとね、あっくん」


 そう言いながら、ふにゃっとした笑顔を浮かべるクリス。どうやら、今までなんだかんだで緊張してたみたいだ。まあ俺も初めてクリスにプレゼントを渡した時はかなり緊張したし、そこはおあいこだろう。


「……でもなんで、ここで渡そうと思ったの?」


 ふと気づいたことをクリスに尋ねてみる。プレゼントはとても嬉しかったけど、わざわざここで渡す必要はなかったような……?


「えっと、それはね――」


 俺の質問にニヒヒ、という悪戯っぽい笑顔を浮かべたクリスは、そう言ってから俺に急接近して――


「……んっ。……それは、これもプレゼントしたかったからだよ。なーんてねっ、ふふっ」


 ――あの時と同じくらい唐突に、俺にキスをプレゼントしてくれた。


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