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写真部定期撮影会①――星之宮邸にて

「いやー、いい天気だねー!」

「ええ、絶好のお散歩日和ですわね」

「一応、散歩じゃなくて部活なんだけど……。まあ、そのくらい気楽な方がいいとは思うけど」


 週末。俺たち写真部の三人はクリスの家にある広大な面積を誇る庭に集まっていた。……ただの友人の集まりとか言ってはいけない。一応、部活動の一環なのだから。


「さあアキラ。勉強の成果を見せてくださいますか?」

「そうしたいのは山々だけど……」


 結論から言うと、この数日間のカメラのお勉強で、人に何か教えられるようになったかと言うと、ノーとしか言えない。……難しすぎる。部室にあった古いビンテージもののカメラを使う事を前提にしたせいではあるけど、撮り方以前の取り扱い方法すらほとんど把握できなかった。


「ちょっと部室にあったカメラは俺たちが使うのはまだ早い、ってことが分かった」

「……それじゃ、部活できないじゃん」


 まあ、部の備品だけを使うんなら、そうなるけど。……カメラについて色々調べるうちに分かったのは、やっぱり物事には何事も順番がある、ということだ。つまり――


「まあ、確かに部室のあのカメラで部活ができるようになるのはまだ先にだと思うけど。……とりあえず、このデジカメで撮ってみない? カメラが趣味って人達も、最初は元々持ってたデジカメとか、なんならスマホのカメラから始めたって人も結構いるみたいだし。これなら多分使えるでしょ?」

「……言われてみれば、最初からあんな複雑そうなカメラ使わなくてもいいよね、確かに」

「それもそうですわね。扱いやすい物から始める、と言うのは何事においてもセオリーですし」


 お嬢様二人はあっさり納得してくれた。色々追及されるかもと思ってたので少し拍子抜けだ。ちなみに、今俺の手にあるデジカメはネットで注文してつい昨日届いたばかりの新品だ。……俺の従者としての初任給のほとんどがこれに消えたことは、二人には内緒だ。そもそも家賃も食費もかからないし、クリスのそばにいないといけない都合上休日に遊びに行ってお金を使う、なんてこともほぼ起きないので問題はない。その使う予定のなかったお金で新しく趣味を始められると思えば、まあ悪い話ではないだろうし。


「でも、カメラ一個しかないよね? どうしよっか」

「順番に交代で、と言うのが普通でしょうけれど……。それだと、かなり時間がかかってしまいますわね」


 ……言えない。その問題をついさっきまで完全に忘れていたなんて、とてもじゃないけど言えない。


「じゃあ、私とイネスが交代で撮るから、晃は撮り方とか教えてよ。それなりに勉強したんでしょ?」

「まあ、このカメラの使い方は一通り覚えたし、いい写真の撮り方のコツ、みたいなのは読んで勉強してるけど……。実践経験があるわけじゃないからあんまり期待されても……」


 このカメラだって昨日の夜の仕事終わりから寝るまでの一時間程度触ってみただけだし、まだ写真は何も撮ってない。人に教えられるほどの知識はまだないけど……。それでも良いのかな?


「別に、ワタクシもクリスも完璧に教えろ、などと言ってるわけではありませんし、その程度でも充分ではなくて? ワタクシたちはまだ何の知識もないのですし」

「そうそう。部活って言っても、しょせんは友達同士の遊びの延長だからね。間違ってても、楽しければいいの!」

「……そう言ってくれるとありがたいよ」


 やっぱり、二人はあくまでも友人として俺を扱ってくれてる。なら、俺も友人として振舞うのが正しいだろう。……多分、従者としてはそれじゃダメなんだろうけど。


 *


「……どう?」

「どうでしょうか?」

「……うーん、まあ、悪くはない、んじゃないかな?」

「えー、なにその微妙な評価」

「はっきりしない答えですわね……」


 ……そうとしか答えられない。だって、良し悪しなんてよく分からないんだから。


 あれから数時間、カメラを皆で回して色んなものを撮った。手入れの行き届いた綺麗な庭園だったり、そこを飛ぶ小鳥や蝶だったり、皆で食べた昼食だったり。……まあ、中々楽しかった。いいものが撮れてるかと言われたら正直微妙だけど。少なくとも、部活動での作品として大会とかに出せるような代物ではないのは確かだろう。


「私はこれとか結構よく撮れてると思うけどなー」

「あら、見せてくださいますか? ……あら、そうですわね」

「え、どれどれ」


 その一枚を見せてもらう。花の蜜を吸う一匹の蝶。ほかの写真がピントやらが若干おかしかったり、何を撮ろうとしたのかイマイチ分からなかったりする中、確かにこの一枚は綺麗に撮れてる。あくまで素人の評価だけど。


「これ撮ったの誰だっけ。私じゃないのは確かだけど」

「……ワタクシでもないですわ。蝶をフレームに収めた記憶はありませんもの」

「えっと、つまり、俺?」

「じゃない? 確かに何枚か花の前で写真撮ってたし」


 言われてみれば確かに、俺が撮った一枚だ。……こんなに綺麗に撮れてるとは思わなかったけど。


「意外にもそういう才能があるのかもね?」

「……意外とは失礼な」


 クリスの茶化したような言いぐさに、半ばノリでそう返す。


「実際意外ですし。……ねぇ?」

「揃いも揃って。まったくこのお嬢様たちは……」


 言ってる内容はアレだけど、皆揃って口元は笑ってる。ただの冗談の言い合いなのは全員承知なのだ。……イネスさんを交えての三人での関係はまだ二週間くらいだけど、まるで昔からこの三人で幼馴染だったような錯覚すら最近は覚えてしまう。ホント、あくまでも従者という身分である俺をここまで対等に扱ってくれてありがたい限りだ。


 ――とまあこんな感じで三人で談笑していると、間宮さんがこちらに近づいてきた。……なんか、険吞な表情をしている。なにかあったのだろうか。


「ご歓談中失礼致します。――イネス様。お呼び出しが……」

「……はぁ。もうそんな時間なのですね。分かりました、ナタリアにはすぐに行くと言っておいてください。まったく、直接電話してくればいいものを……」


 よく分かんないけど、イネスさんが帰り支度を始めた。……なにか用事があるみたいだけど、どうしたんだろう。


「あはは……。まあ、ナタリアさんもなるべくゆっくりして欲しいんじゃないかな」

「それは、分かっていますけれど。……クリス、アキラも。今日は楽しかったですわ。また月曜日、学校でお会いいたしましょう。では、ごきげんよう」

「……うん、じゃーねー!」

「えっと。じゃあ、また月曜に」


 ……あんまり行きたくないのかな。


 そんな事を思ってしまうくらいには、去り際のイネスさんはさっきまでとは打って変わった疲れた顔をしていた。


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