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ガールズ・トークⅦ

 時間は、少し遡る――


「ふふっ、クリスたち中々頑張ってたわね。……正直、あんなにのめり込んでるとは思わなかったわ」

「私も同意見です。部活として頑張っておられるのは知っていましたが、あんなにも熱意を持っていらっしゃったとは」


 星之宮家に戻る道中、奥様は心底あのお嬢様方の文化祭の催しに感嘆されているご様子でした。……かくいう私自身も、感心しきりだったのですが。熱意を持って取り組んでいらっしゃる様子は以前から知っていましたが、それであれ程の写真を撮れるようになるとは。


「皆さん、写真というものが性に合っていらしたんでしょうね。それでなければ、この短期間であれほどの物を撮れるようにはなりませんから」

「そうねー。流石私の娘、ってとこかしらね?」

「……まあ、多少なりとも遺伝はしているのかもしれませんね、“先輩”」


 私と奥様――先輩――は、大学時代同じゼミに所属していたが、じつはサークルも同じものに所属していた。……そのサークルというのは、何を隠そう“写真サークル”だったのだ。まあ、私は趣味レベルのスキルしか身に着けられなかったが、先輩はそれはもう素晴らしいレベルの実力を持っていた。それこそ、大きなコンクールで入賞し、プロの写真家になることを期待されるくらいには。


「ふふっ、でしょ? ま、それでもちゃんとそれを好きになれて、そして努力出来るってのはクリス自身の才能だと思うけどね。……にしても、他の子たちも中々レベル高かったわねー。いい先生がついてるのかしら?」

「おそらくそうでしょうね。本格的に始めてからまだ日が浅いにしては、皆さま揃ってかなりのレベルでしたから。見よう見まねだけ、というわけではなさそうです」


 私自身、今でも趣味として写真を鑑賞する側として楽しむ身なので、写真部の皆さまの実力がそれなり以上のものなことは分かる。それこそ、ある程度の規模のコンクールに出しても、上位の成績を期待出来るくらいのものだろう。


「ひょっとしたら、いつかクリスに“プロの写真家になる”とか言われるのかしら」

「……どうでしょう。皆さま本気になれば目指せるとは思えますが……」


 だからといってお嬢様が写真家を目指すかというとそれはまた別だろう。


「まあ、私もクリスがそんなこと言い出すと思ってる訳じゃないんだけどね。まあ有り得るのかな? ってくらいで。……でもまあ、気になるのよねぇ。クリスの“将来の夢”って何なのかしら、ってね」

「……お嬢様の将来の夢、ですか」


 ……確かに、気になる。今までお嬢様からそういった未来の話を聞いたことはなかったけれど、果たしてどんな未来を夢見ているんだろうか……。


「そうそう。クリスってあんまり自分からそういう話はしてくれないからさー。まあ、子供の頃から苦労掛けさせっぱなしだったから、あんまりそういう先のことを考える機会も余裕もなかったんだろうけどね。……でも、最近はかなり落ち着いてきたからね」


 お嬢様は、ちゃんと将来のことを考えているのだろうか。……まあ、まだ高校生なのだから、時間なんていっぱいあるけれど。私だって、この職に就きたいという明確な夢を持ったのは、なんの夢も願いも持たず、適当に入社した会社に5年以上勤めてからのことだし。


「そういえば、小さな頃のお嬢様はなにか将来の夢を語ったりしていなかったのですか?」


 誰しも、幼稚園から小学校低学年の頃に一度は親や教師に将来の夢を語るものだ。もちろんそこで語られる内容は、例えばテレビの中の正義の味方のような、夢でしかないようなものばかりだけれど。


「あー、あったわねぇ。小学校2年生くらいまではしきりに“あっくんのお嫁さんになる!”って言ってたっけねぇ、ふふっ。まあ結局本人に言うのは恥ずかしかったみたいで、言えずじまいだったみたいだけど」

「ふふっ、お嬢様は幸せですね。……なにせ、その夢が叶いつつあるのですから」

「ほんとよねぇ。……ま、クリス自身はそんなこと言ったことなんて忘れてるんでしょうけど」


 ふふっ、と二人して笑い合う。もし今のお嬢様に、“昔こんなことを言っていましたよ”と言えば、きっと恥ずかしさに悶えるのだろう。


「……まあでも、どんな夢だとしても私は応援するけどね。というか、ちゃんとクリスの夢を応援出来ることも、星之宮に嫁ぐ理由だったし」

「先輩らしいですね。もちろん私も、どんなものであろうとお手伝い差し上げるつもりですけれど」

「ふふ、間宮がそう言ってくれると心強いわね。やっぱり私やあの人だけじゃ限界があるからね」


 先輩も旦那様もお仕事で世界中を飛び回っているし、やはりどうしても限界はあるだろう。正直、私で代わりになるとは到底思えないけれど、それでも精一杯努めようとは思っている。……お嬢様のおかげで、今の私があるのだから。メイドとして新米だったあの頃の私を、お嬢様は姉のように慕ってくださった。あれがなければ、私はどこかで心が折れてしまっていただろう。


「ま、クリスにとって一番の支えになるのは、晃くんだろうけどね」

「……ふふっ、確かにそうですね」


 それこそ、私なんかの出番なんてないかもしれないというくらいには、彼はきっとお嬢様の支えになってくれるだろう。


「それこそ、晃くんのお嫁さんになりますって言ってくるかもね?」


 先輩が悪戯っぽい笑顔を浮かべる。……実際、そう遠くない先にそういうことがあってもなんらおかしくはないだろう。


「まあ、それはそれで祝福しますし、応援しますよ、私は」

「ふふっ、私もよ」


 きっといつの日か、お嬢様も、南雲さんも、夢を持ち、その実現に向けて進み始めるだろう。――願わくば、どうかその支えとなれますように。


 ……きっと、先輩も同じことを思っているのだろう。


「……さあ、そろそろ家に着きますよ、"奥様"」

「ええ。さてっ、お仕事がんばりますか!」

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