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私の欲しいもの②

「……え? いや、なな、なんでもない、よ?」


 俺の質問に上ずった声でそんな反応を返すクリス。いや、それ絶対なんかあるやつじゃん……。色んな人に散々察しが悪いと言われてきた俺でも、これは流石に分かる。


「いや、流石に厳しいでしょそれは……」

「うぅ……。珍しくあっくんが意地悪だ……」

「別に意地悪するつもりはないけど……。なにか言いたいことがあるなら遠慮しないでいいよ? 無理に溜め込んでもいいことないし」


 クリスもなんだかんだでまだ少し俺に遠慮してるところがある気がするし、もしそれで言えないようなことがあるのなら遠慮はしてほしくなかった。やっぱり付き合ってるんだし。


「まあ、クリスのことだから俺のことを気遣って言ってないんだとは思うけどね。でもやっぱり……、その、付き合ってるんだしさ。変な遠慮とかはして欲しくないかな」

「……もう。本当あっくんてば……」

「……?」


 なんか思ってた反応じゃない。なんというか、面食らったような反応だ。


「いや、別にあっくんはなにも悪くないんだけどね。ただその……、あまりにもあっくんが良い人すぎて、ね。こんなこと考えてる自分が情けなくなってくるというか」

「……なに考えてたんだ……」


 そんな風に言われると尚更気になる。……というか、なに考えててもクリスが情けないなんてありえないのに。


「……その、笑わない?」

「もちろん。どんなことでも、クリスの言うことで笑ったりしないって」


 どんなことだとしても、クリスなりに考えたり悩んだりしてることには間違いないのだから、笑うなんて有り得ない。


「なら、言おうかな。……あのね、私、あっくんとデートに行きたいの」

「……デート?」

「う、うん。……でも、やっぱり気軽にはできないからさ。あっくんだけじゃなくって、間宮とか、お母さんたちにも迷惑かけちゃうし。だから……」

「言わずにいた、ってこと?」


 俺の短い問いに、クリスはコクン、と小さくうなずいた。


「はぁ……」

「ごめん。やっぱり困らせちゃったね……」

「いや、そうじゃなくって。言ってくれれば、色々調整したのに」

「……え?」


 当たり前だ。クリスがデートしたい、って言うのなら、間宮さんや旦那様に掛け合って時間や場所の都合くらいいくらでも付ける。なにせ――


「……俺だって、デートはしたいからさ。いくらでも頑張るよ」


 そう、俺だって気持ちは同じなんだ。……だからこそ、言い出しにくいのも分かる。なにせ俺とクリスの関係はちょっと特殊だ。恋人同士ではあるけど、別に前からの従者とお嬢様という関係がなくなったわけでは決してないのだ。だから、その辺の街中で普通のカップルのようにデートをする訳にはいかない。なにせ仮に星之宮家を知る人間に見られたりしたら大ごとだからだ。でもそれは、“デートはできない”という意味ではない。現に夏休みに軽井沢ではしていたし。ある程度周りの目を気にしなくてもいい場所と時間を確保できれば、デートだってきっとできるはずなのだ。


「そっか。……あっくんも、デートしたかったんだ」

「そりゃあ、ね。せっかく付き合ってるんだしさ。デートくらい、したいよ」


 いくら家でかなりの時間一緒にいられるといっても、やはりデートとなると話は別だ。それくらい、二人きりでどこかに出かけるというのは、やはり特別なことだと思う。


「ははっ、じゃあ私一人で悩む必要なんてなかったんだね」

「そうだよ。そりゃ、言い出さなかった俺も悪いけどさ。もっと早くいってくれて良かったのに」

「だね。……でも、こういうのはやっぱり男の子から誘ってほしいなー、なんて思ったりするんですけど?」


 すっかりいつもの調子に戻ったクリスから冗談交じりにチクリと刺される。いやあ、そこを突っ込まれると痛いなぁ……。


「いや、その……。確かに」

「ありゃ、あっさり認めちゃった」

「まあ、その通りだとは思うし」


 恋愛に疎い俺でも、デートのお誘いは男子からなのがセオリーなことくらいはなんとなく分かる。こんなことならもっと早くに、バシッと男らしくデートに誘っておけば良かった。


「ふふっ。まあ私は別にどっちから言い出してもいいとは思うけどね。特にあっくんの場合は立場的に言い出しにくいだろうし」

「そう言ってくれるとありがたいよ……」


 一応は従者という立場なので、やはりこういう恋人としてなにかをする、みたいなことは少し言い出しにくい。いやまあ、クリスに言う分には別に気にする必要はないのかもしれないけど。


「まあ、でも……。デートしてくれる、ってことで、いいの?」

「もちろん。そりゃ間宮さんとかには色々話を通さないといけないと思うけど。でも、なんとかするよ」

「……ありがと。皆に話す時は、私も手伝うね」


 正直、皆デートすること自体はあっさりOKを出してくれるとは思う。だから後は場所とか時間とかだろう。屋敷や学校の近くだとやっぱりまずいだろうしなぁ……。


「あー良かった。やっぱり話してみるものだねー!」

「溜め込んでてもいいことないって。大抵のことは誰かに話したら意外と上手くいくものなんだと思うよ、多分」


 そりゃ、どうしようもないこともあるかもしれないけど。それでもやっぱり、悩むなら一人より二人だ。……まあ、こんなこと言ってる当人がそれを実行出来ているかと言われると微妙かもしれないけど。


「ねね、オッケーでたら行きたいとこあるんだ」

「いける場所かどうか分かんないけど……。どこどこ?」


 希望が通るかは分からないけど、それでもこうやって予定の話をするのは楽しい。


「軽井沢に行きたいなー、って。流石に今度は日帰りだろうけどさ。夏休みはあんまりデートできなかったし」

「軽井沢か……。確かにまた行きたいね」


 まあ、軽井沢なら夏休みにもデートをしてる訳だし、多分問題ないだろう。それにあの合宿の時にしたデートといえることは、お土産を買う為と言って2時間程度で抜け出しただけだ。あの時二人で行けなかった場所は山ほどあるし、デートをしても十分以上に楽しめるはずだ。


「あははっ、楽しみだね、二人っきりのデートっ」

「まだできるとは決まってないけどね」

「逆に聞くけどさ。間宮とかお父さんがダメって言うと思う?」

「……まさか」


 なんせ俺とクリスの関係を皆盛大に応援してくれているし。よほどの事情がない限りダメなんて言わないだろう。……本当、良い人たちに恵まれたものだ。


「じゃあ、さっそく間宮が迎えに来たら話してみよっか」


 いつも以上のにこにこ笑顔で俺にもたれかかってくるクリス。俺はその軽い体を肩でそっと受け止めつつ、この後迎えにきた間宮さんにこのデートの件をどう説明するか考えるのだった。


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