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部活動の時間です

「……退屈ですわ」

「だねー」


 今日も今日とて柔らかな春の日差しが差し込む我らが写真部の部室。そこではやんごとなき金髪少女二人組が、とてもほかの人には見せられないような姿でだらけ切っていらっしゃった。クリスは靴を脱いで見るからに高級そうなソファの上で寝っ転がってるし、イネスさんは全身の力を完全に抜いて、だら~っと背もたれにもたれかかっている。今にもズルズルー、っと床に滑り落ちていきそうなほどだ。……これが五月病というやつか。まだ四月だけど。


「二人とも、ちょっと気を抜きすぎじゃない……?」

「いいではないですか……日中はずっと気を張ってるんですもの、ここでくらい楽にさせてくださいな」

「そうそう、どっかで気を抜かないと疲れちゃうからねー」


 二人がそう言うならいいけど。……でも、一応ここは部室。つまりは部活動を行うための部屋なのであって。


「そう言えば、部活って何をする予定なの?」

「えっと、特になんも考えてないよー」

「ええ、中等部のころも特になにもしていませんし。……そもそも、ここは何部でしたっけ?」

「わー、なかなかの問題発言だよそれ」

「だって、実際何もしていませんし、気にしたこともありませんでしたから。そういうクリスは覚えてるのですか?」

「覚えてるに決まってるじゃん。えっと……そうっ、写真部!」


 確かに覚えてはいたけど……なんか回答までに変な間があったような……。ツッコまない方が賢明だろうから何も言わないけど。


「じゃあこの際何かやってみたらどうかな? 退屈だー、って言うくらいならさ」

「まあ、それは確かにそうですわね」

「確かに。せっかく機材はあるんだし、一回くらいやってみるのもありかもね」


 お、意外に乗り気だ。もっと否定的な意見が出ると思ってたけど。


「しかし、ワタクシ生まれてこのかたカメラなど使ったことも、なんなら触ったことすらないですわよ。……扱いきれるでしょうか」

「私もべつに人に教えられる程使ったことあるわけじゃないしなぁ……。晃はどう?」

「俺もクリスと同じかな。使ったことはあるけど、別に趣味ってわけではないというか」


 カメラを使った経験なんて、昔じいちゃんの持ってた古い一眼レフカメラを少し触らせてもらってくらいだ。一応スマホについてるカメラくらいなら今でもそれなりに使ってるけど……正直それではカメラの経験があるとは言えないだろう。


「……どうしよっか」

「どういたしましょうか……」


 お嬢さま二人がこっちを見てくる。……最近なんとなく分かってきたけど、その目は何かを要求するときの目ですね。これは、厄介なことになるかもしれないな……この提案はちょっと失敗だったかもしれない。もうどうしようもないけど。


「ねぇ、晃?」

「は、はい。……なんでしょうか、お嬢様」


 こっちに目線を向けるクリスのその眼付きになんとなくヤバそうな気配を感じ、つい従者モードで言葉を返してしまった。あれは間違いなく面倒事が降ってくるパターンだ。小学生のころから、クリスがあの目つきをしたときはそういう頼み事をしてくると相場が決まってる。


「あれー、そういう態度取るんだ? ……つまり、なに言ってもやってくれるってことで、いいのかな?」

「ええ、そうでしょう。自分から従者の態度を取り下手に回るなど、“ぜひこき使ってください”と言っているようなものですわ」


 どうやらとっさの従者モードは裏目に出てしまったらしい。……腹くくるしかないか。実際俺はクリスの従者なわけだし、頼み事をされて断る訳にはいかない。


「晃、カメラの使いかた、調べて教えてくれない?」

「それは名案ですわね。普段はワタクシたちが勉強を教えているんですもの、たまにはお返ししても良いのではなくて、アキラ?」


 うーん、その勉強で今は割と手一杯なんだけどなぁ……。高校生活が始まったばかりのころよりは多少マシにはなってきたけど、それでも結構ギリギリではある。なのでカメラについてのあれこれを調べる時間を取るのはかなり厳しいけど……でもまあ提案したのは自分だし、やるしかないだろう。実際、興味がない訳じゃないし。


「……分かった、やってみる。……ちゃんと教えられるようになれるかは保証できないけど」

「まあ、それはしょうがないんじゃない? 全員素人なんだし、無理なら諦めればいいだけだし」

「さらっと凄いこというなぁ……」


 まあ、今までも写真部を名乗っときながら写真に関すること何もしてなかったんだし、それでいいのかもしれないけど。でも、カメラみたいな趣味を持つのも楽しそうではあるし、やってみたいと思ってるならやった方がいい、と思う。……少なくとも俺はやってみたい。お嬢様二人はよく分からないけど……まあやりたくないんならとっくに拒否ってるだろうし、そこまで嫌ってわけじゃないはずだ。


「では、よろしくお願い致しますわ、アキラ。……言っておきますけれど、ワタクシ結構楽しみにしていますから。……この発言の意味、まさか分からないとは言いませんよね?」

「……はい」


 意外にも、クリスよりイネスさんの方が乗り気みたいだ。……これは、ダメでしたー、で済ませる訳にいかなくなったな……。クリス相手なら幼馴染の仲でそれでも許されただろうけど。


「が、頑張ります……」

「ええ、期待していますわよ?」


 そんなイネスさんの期待がたっぷり籠った目線に見つめられながら、さっそくスマホでカメラのいろはを調べ始める俺だった。


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