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それぞれの写真

「さーて、いよいよ今日が締め切りですね、センパイ」

「ええ。どうですホタル? いいものは撮れましたか?」


 週が明け、いよいよ文化祭で使う写真の締め切り日になった。


「当たり前じゃないですかセンパイ。もうすっごいの撮れてますから、期待してくださいよ?」

「ふふっ、そこまで言うのなら大丈夫でしょうね。クリスとアキラはどうですの?」

「うん、私も全然オッケーだよっ! まあ、あんまり時間は取れなかったけど、でも十分いいのは撮れたかな」


 みんな凄い自信だなぁ……。自分ももちろん色々な写真を撮ったし、これを提出しようと思えるくらい良いものも撮れてはいる。でも、皆ほど自信満々な訳じゃないかもしれない。少なくとも、八橋さんみたいに“期待しててください”とかは言えない。


「アキラ? どうしたのですか、ボーっとして。……珍しいこともあるものですわね」

「あ、ああ。まあ、一応ちゃんと撮れたかな。大丈夫だと思うよ、うん」


 イネスさんに突っ込まれてしまった。……そこまでボーっとしてるつもりはなかったんだけどなぁ。


「なんていうか、晃センパイらしい返答ですね。……個人的には、そんなに謙遜しなくてもいいと思うんですけど」

「いや、別に謙遜のつもりはないけど……」


 ある程度客観的に判断しての評価、のつもりだ。もちろん完全に出来てはないと思うけど。


「なら、なおさらダメですわね。一応言っておきますけど、アキラは充分以上に素晴らしい出来の写真を撮っていると思いますわよ?」

「そうそうっ。あっくんてば自己評価低すぎだって。もっと自信満々に“どうだ、凄いだろー”って見せびらかしてもいいのに」


 ……いや、流石にそれはちょっとよろしくないんじゃないかな?


「コホン。……まあ、今のクリスの例えは言い過ぎですが。しかし、謙遜してもいいことなどないのは間違いないですわよ? そもそもここは仲間内しかいないのですから、気を遣う必要もないでしょう?」

「まあ、確かに……」


 そういうのは正直ちょっと苦手なんだけどなぁ……。でもまあ、自分の悪い所なのは薄々分かってるし、ちょっとずつでも直したほうがいいんだけど。


「ま、そこもあっくんのいいところだと思うけどね、私は。さ、早く皆の写真も見せて見せてっ」

「うーん、流石クリスセンパイ。圧倒的包容力……いや、正妻力ですかね?」

「……本当、絵に描いたようなバカップルですこと」


 そんな呟きと共に女子二人の生暖かい視線が容赦なく俺とクリスを襲う。……クリスはまったく気づいてないみたいだけど。


 *


 ともかく、気を取り直して写真の提出をすることに。皆が撮った写真の中から、それぞれ選んだお気に入りの写真をテーブルの上に並べていく。……にしても、やっぱりみんな綺麗な写真撮るなぁ。


「なんていうか、本当に皆さん今年始めたばっかりなんですかね……? アタシと比べて全く遜色ないじゃないですか」

「それはもちろん、先生の教えが良かったからですわ。ねえ、ホタル先生?」

「いやいや、センパイがたの飲み込みが良すぎるからですよ。普通ここまで早く上達できませんって」


 ……イネスさんにしては珍しい、すこしからかうような口調に、やたらと照れながら返答する八橋さん。実際俺らにカメラの基本を教えてくれたのは全部八橋さんなので、先生なのは間違いない。


「それに、そんなこと言ってるほたるちゃんのだって凄く綺麗だしねー。これとかとくに凄いよね、ほら」


 クリスはそんなことを言いながら、八橋さんの写真を一枚手に取った。その写真には夕陽によってオレンジ色に染め上げられた、誰もいない放課後の教室が写っている。どこかノスタルジックな雰囲気のある、とても綺麗な写真だ。


「まあ、それはアタシの中でも特に一押しのヤツですからね。クリスセンパイのは……お、これとかいいじゃないですか」


 八橋さんが手に取ったのは、真ん中に小さく月の写っている、夜空全体をフレームに収めたかのような一枚。気を抜くとその夜空の中に吸い込まれていきそうな感覚に陥ってしまいそうな、夜空そのものを切り取ったような印象の一枚だ。


「お、分かる? 色々撮ったけど、それが一番綺麗に撮れたんだよねー。やっぱり夜景は難しくってさ。もっと良いのいっぱい撮りたかったんだけどねー」

「いやいや、これが特に気になっただけで他のも十分綺麗だと思いますけどね。 それこそこれ以上のってなるとプロレベルになりますって」

「いやいや、それは流石に言い過ぎだって」


 ……正直、言い過ぎではないと思う。これはまあ、クリスだけじゃなくてこの場にいる全員に言えるけど。それくらい言えるくらい、皆の写真はどれも綺麗だった。


「イネスさんのだと、これが特に綺麗ですね。……ただ、これ撮るの大変じゃなかったですか?」


 言いながら俺が手に取ったのは、花々が雨と風に打たれながらも鮮やかに咲き誇っている一枚。普段太陽の下の姿ばかり注目されるだけに、雨風に打たれている姿にはいつもとは違う力強さを感じる。


「まあ、大変ではありましたわね。特にナタリアからのお説教が。まったく、この年齢にもなって風邪の心配など必要ないというのに」


 いやまあ、心配して当然かな……。だって多分、これ撮るとき傘差してなかったと思うし。雨の中、傘も差さずに写真を撮っていたら、メイドとしてはお説教せざるを得ないだろう。


「アキラのは……なるほど、皆の後ろ姿がメインですか」

「そうそう。顔を写さずにどれだけカッコよく撮れるかを突き詰めてみたんだけど……どうかな」


 俺の撮った写真部の皆の写真は、どれも顔は写ってない。それぞれがそれぞれの写真に向き合っている姿を背後から収めた形だ。個人的には綺麗に撮れたと思うけど……客観的にみてどうかまでは分からない。


「いいと思いますわよ。皆の覚悟まで伝わってくるような写真ですわ。皆が写真に真摯に向き合っていることの証明ですわね、これらは」

「……ありがとうございます」


 そこまで言ってくれるとは思ってなかった。写真部の仲間達がどれだけ本気で写真に向き合ってるかを伝えたい、と思ってはいたけれど、思ってた以上にしっかり伝わるものを撮れていたみたいだ。


「さて、写真も出そろいましたし、後は会場のこと考えるだけですね。あんまり時間ないですし、急がないと」

「だね。せっかくこんなにいい写真が揃ったんだし、とびっきり素敵な写真展にしたいよねっ」


 文化祭まではあと二週間弱。時間に余裕があるとはとても言えないけれど……。でも、クリスの言う通り、こんなに綺麗な写真ばかりなんだ、設営も手を抜く訳にはいかない。


「ええ、気合いを入れ直して頑張りますわよ」

「もちろんっ。頑張るぞー、おーーっ!」

「おーーっ! ……ははっ。なんかいいですね、こういうの。学生時代ならでは、って感じで」


 そんな気合い十分な仲間たちと共に、写真展の準備は第二ステージへと移るのだった。


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