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写真展の準備~クリス編

「よーっし、到着っ! さ、撮影始めよ、あっくん!」

「……まさか山まで持ってるとは……。恐るべし星之宮……」


 陽が沈み、空に月が昇った午後7時。俺とクリスは間宮さんの運転で、家からほど近い場所にある星之宮家所有の展望台に来ていた。……本当になんでも持ってるな星之宮家。まさかこんな場所まで所有しているとは思ってなかった。


「私もほとんど来たことなかったけど、いい眺めだねー! 結構気に入ったかも」


 それほど高い展望台ではないけれど、周りに高い建物や他の山がほとんどないおかげで眺めはかなりいい。最初はわざわざ移動しなくても家のテラスからでもいいんじゃ……、とかちょっと思ってたけど、これを見たら流石に納得するしかない。


「では、私は外におりますので。お二人はどうぞごゆっくり撮影してください」


 そう言って間宮さんは展望台の外に出ていってしまった。……なんか最近の間宮さんは、俺とクリスをやたらと二人きりにしてくれる。これはもしかしなくても、俺とクリスの関係を考えてくれてる、のだろう。そんなに意識しなくてもいいのに、とは思うけれど、同時にその心遣いはありがたくもある。


「はぁ。間宮もそんなに遠慮しなくてもいいのに。ね、あっくん」

「まあ、ね。でも、間宮さんなりに俺たちのことを応援してくれてるんだと思うよ」

「それは私も分かってるけどさ。でも私,間宮とも一杯お話ししたいんだけどなぁ……」


 撮影しながらも、少しだけアンニュイな顔でそう呟くクリス。そういえば前に、間宮さんのことを歳の離れた姉のように思ってる、なんて言ってたっけ。クリスはきっと、間宮さんのことをまるで家族の一員のように思ってるんだろうな。……そして多分、間宮さんの方も同じように思っているはずだ。


「うーん。なにかいい方法ないかなぁ……」

「いい方法、って?」

「私さ、なんだかんだで間宮にお礼ってしたことないんだよね。こんなに色々して貰ってるのにさ。だから、なにかないかなー、って」

「確かに、俺も散々お世話になってるけどなにも出来てないしなぁ……。文化祭が終わったら、なにかしてあげたいな」


 ほぼなんでも一人でこなせてしまうスーパーメイドな間宮さんが喜ぶようなことなんて早々思いつかないけれど、でもやっぱりお礼はちゃんとしたい。


「じゃあ今度、あっくんも一緒に考えよっか。別々にやるより二人で一緒にしたほうがいいものになると思うし」

「うん、そうだね。……でもまあ、今は目の前の景色に集中したほうがいいんじゃないかな?」

「……あ。あはは……そうだね。せっかくここまで来たんだから、いいもの撮らないとね」


 いつの間にか完全に撮影を中断してしまってたクリス。間宮さんのことが本当に大事なのは分かるけど、今は撮影に集中しないと。じゃないとホントに締め切りに間に合わないから……。


 *


「どう、クリス?」

「まあ、結構いい感じかな。……満月じゃないのが心残りだけど」


 撮影開始から約二時間。つまりは午後九時過ぎ。流石にそろそろ引き上げないと明日に関わるので、クリスに進捗を聞いてみる。反応を見る限り、どうやら目標に達するレベルのものは撮れているみたいだ。


「まあ、満月はしょうがないんじゃないかな……。タイミングがかなり厳しいし」


 一応最初は満月の日に撮影しようとしていて、ちゃんと満月の日取りとかまで調べてたんだけど……。残念ながらその日には夜通し雨が降ってしまい、撮影はできなかったのだ。


「まあ、今日の月も綺麗だけどね」

「雲一つないし、周りに灯りもほとんどないから月明かりが綺麗だよね」


 今日の月はちょうだ左半分だけが見える形。いわゆる「下弦の月」だ。昼頃まで完全な曇りだったのがまるで嘘のように晴れ渡った夜空には、月だけでなくたくさんの星々が鮮やかに輝いている。都会では見えないような仄かな明かりの星まで見えるくらいだ。


「じゃ、そろそろ帰ろっか、あっくん。間宮も待ってるしね」

「うん。じゃあ行こっか」


 二人で持ってきたカメラの片付けをして、展望台を後にする。……本当にいい場所だったな、ここ。また来たいくらいだ。今度は写真部のみんなで天体観測するなんてのもいいかもしれないな。


「お待ちしていました。……どうでしたか?」

「お待たせ、間宮。もうすっごいの撮れたから、期待してていいよ」


 自信満々にグッと親指を上げるクリス。そしてそんなクリスにふふっと微笑みを返す間宮さん。……間宮さん、滅多なことじゃ笑わないんだけど、クリスと話してる時はいつも微笑んでいるんだよな。やっぱり、間宮さんにとってもクリスは特別な存在なんだろう。


「では、帰りましょうか。――おや、南雲さん? 行きますよ?」

「……あ、はっ、はいっ。すぐ行きます」


 間宮さんとクリスのやり取りを見ながら少し考えごとをしていたら、いつの間にか二人とも車に乗り込もうとしていた。ちょっとボーっとしてたようだ。気を取り直して車に乗り込む。


「お嬢様、明日のことについてですが――。おや?」

「……寝ちゃったみたいですね」


 昼間から張り切ってた反動なのか、車が動き出してすぐにクリスは寝てしまったみたいだ。すうすうと可愛らしい寝息を立てて、割とぐっすり寝ているご様子。そしてそんなクリスの体がゆっくり、ゆっくりと横に倒れていき――


「……おっと」


 俺の肩に倒れ掛かってきた。そっと受け止め、どうするか少し悩む。……が結局、そのまま枕として使わせてあげることにした。


「ふふっ。つくづくお似合いの二人ですね」

「……そうですかね」


 ミラー越しに俺らの姿を見た間宮さんの言葉。……俺も、少しはクリスに似合う男になれているんだろうか。


「ええ。少なくとも私は、お嬢様の隣に相応しい人は、南雲さん以外にはいないと思いますよ」

「……ありがとうございます」


 一瞬、“それは言い過ぎですよ”と言おうと思ったけれど、素直に受け止めることにした。間宮さんは嘘を吐くような人じゃないし、お世辞を言う人でもない。なら、賞賛は素直に受け止めた方がいいだろう。


「ふふっ。お嬢様を、お願いしますね」

「……はい」


 ――クリスのこと、ちゃんと、幸せにしないとな。


 間宮さんの言葉を受けて、俺はもう一度決意する。そしてその瞬間、そんな俺の決意を知ってか知らずか――


「うみゅ……。あっくん、好き……」


 クリスはそんな寝言を呟くのだった。完全な不意打ちに俺の心臓の鼓動が急速に早くなる。流石に卑怯だよ、それ……。


「ふふっ、顔が真っ赤ですよ?」

「……勘弁してください、間宮さん」


 なかなか見られない間宮さんのニヤニヤした視線に見守られながら、今日もまた夜は更けていくのだった。


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