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写真展の準備~ほたる編

「さて、じゃあ撮影始めますか。センパイ、アシスタントよろしくお願いしますね」

「いや、アシスタントではないんだけど……」


 ある金曜日の放課後。俺は人気の少なくなった校舎に八橋さんと二人で来ていた。


「ははっ、冗談ですよ、冗談。でも、アドバイスとかは貰えると嬉しいです」

「それはもちろん。まあ、八橋さんにアドバイスすることなんてないと思うけどね」

「いやいや、そんなことないですって。自分にはない視点で見てくれるって結構ありがたいですし」

「まあ、それは確かにそっか」


 わざわざ人気のない校舎に出向いてきた理由はというと、八橋さんの写真撮影の為だ。八橋さんの写真展のテーマは“学校”。必然、校舎の写真を撮ることになる、という訳だ。


 ……で、なぜ俺まで写真撮影に同行しているかと言うと――


 *


 この前日。放課後の写真部部室にて。


「あ、明日は学校の写真撮りに行くんで、部室にはあんまりいないと思います。一応よろしくお願いします」

「りょーかい。気を付けてねー」

「いや、仮にも学校の中ですし、そんなに気を付けるようなこと……、ない訳じゃないっすね」


 多分、俺と八橋さんが始めて会ったあの日を思い出しているんだろうな。あの日も八橋さんは校舎でカメラを構えてたら、あの厄介な先輩に絡まれたわけだし。


「でしょ? うーん、ちょっと心配かも。そうだ、あっくん、ほたるちゃんについていってあげてくれる?」

「……え、俺?」


 まさか自分に話が飛んでくると思ってなかったので少し面喰ってしまった。……でも確かに、あの時みたいなことがあったらと考えるとちょっと心配なのは確かだ。


「あっくんだって写真撮れるしちょうどいいんじゃないかな、って思ったんだけど……」

「だね。うん、俺も行こうかな。心配なのは確かだし、俺も自分の写真撮れるし」


 俺の写真展のテーマは“仲間”。俺にとっての仲間となると、それはもちろん写真部の皆になる訳で。つまり八橋さんの写真撮影風景はうってつけの題材になる訳だ。


「……いいんですか? その……晃センパイと二人っきりって流石にちょっと気が引けるんですけど……」

「ははっ、気にしないでいいって! 別に二人とも変な気がある訳じゃないんだしね」

「その信頼は嬉しいですけど、同時に凄い重いっすよ、クリスセンパイ……」


 ……まったくもって八橋さんに同意でしかない。もちろん誓ってそんな気はないけども。でもだからってそんな自然に信頼されると、ちょっと重い。


「ま、クリスが良いと言ってるのだから良いのではなくって? ……いえ、クリスの今の発言に問題がない訳ではないですが」


 今まで口を挟まず優雅に紅茶を飲んでいたイネスさんから一言。……まあ、恋人であり、従者として仕えるお方でもあるクリスから許可を貰えたわけだし、撮影しに行こうかな。


 *


「じゃ、まずはテキトーにぶらつきますかね。あ、なんか良さげな所見つけたら言ってくださいね」

「了解。俺も後ろから八橋さんのこと撮ったりすると思うけどあんまり気にしないでね」


 という訳で散策開始。部室の前からゆっくりと写真映えしそうな場所を探していく。……まあ、流石にお金の掛かった私立の学園なだけあって、写真でも綺麗になりそうな場所ばかりだ。


「……うーん、綺麗ではあるんですけどねぇ」

「八橋さん的には微妙?」

「まあ、そうですかね。なんというか、学校っぽくないじゃないですか」

「……それは確かにそうかも」


 今いる廊下ですらかなり豪華だけど、確かに学校っぽくはない。多くの人が学校と聞いて思い浮かべるような風景ではないのは間違いないだろう。


「センパイは“学校”って聞いて、どんな風景を想像します?」

「そうだな……。やっぱり教室の風景かな?」


 やっぱり一日で一番長くいる場所な訳だしね。


「ま、そうですよね。アタシも同意見ですし。ってなわけで、教室の方行ってみますか。そろそろ皆下校してるはずですし。……にしても」

「……? 八橋さん?」


 ふと八橋さんを見てみると、いつもと違うアンニュイな表情を浮かべていた。……どうしたんだろう?


「いや、ちょっと思い出しちゃって。……ここ、覚えてます?」

「……あ、もしかして」


 思い出したのは、今から約四か月前のこと。――そう、ここはちょうど、八橋さんと初めて出会った場所だ。


「思い出しました? ……あれから、もうだいぶ経つんですよね」

「そうだね。……あれから、色々あったなぁ」


 八橋さんが写真部に入ってからの日々を思い出す。……思えば、しっかり写真部として活動を始めたのは八橋さんが入ってからだったっけ。長いようで短い、濃密な日々だった。


「……ですね。なんか、センパイ方には迷惑かけてばっかりですけど」

「まさか。むしろ助かってるくらいだよ」


 写真撮影の基礎的な技術は全部八橋さんが教えてくれた訳だし。八橋さんがいなかったら部活として文化祭に参加するなんて到底無理だっただろう。


「そう、ですか? ……なら、良かったです」


 俺の言葉を聞いてた八橋さんは、ふふっ、と穏やかにはにかんでくれた。


「さてっ、感傷に浸るのはここまでにしましょっか! 行きましょっ、センパイ!」


 *


「ふぅ、結構張り切っちゃいましたねー」

「八橋さん、途中から無言で撮りまくってたもんね」


 教室棟にて撮影すること約二時間。そろそろ下校時間ということもあって、まだまだ撮り足りない様子の八橋さんと部室へと戻っていた。


「いやー、ついスイッチ入っちゃいました。でも、おかげでかなりいい感じの写真が撮れたと思います」

「それなら良かったよ。俺もいい写真が撮れたし」

「そーいえば、センパイはアタシの後ろ姿を撮ってたんでしたっけ。……なんか、妙に恥ずかしいっすね」


 ……まあ、誤解を恐れずに言えばその通りだけど。一応、撮影風景を撮ってた訳で。


「いや、その……」

「ふふっ、分かってますって。ほんの冗談ですよ。……さ、戻りましょっ! クリスセンパイたち待ってますし」


 とまあこんな感じで、部室に戻るまで終始上機嫌な八橋さんだった。……いい写真が撮れてご満悦なのかな?


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