テーマ決定?/満月の夜に、君と二人
「じゃあ、発表するよ」
女子三人のテーマ発表が終わって、残すところはあと俺だけ。……ある程度自身のある提案ではあるけれど、皆いい案だったし、ちょっと不安だ。
「……俺は“仲間”ってテーマにしたい、と思うんだ」
「“仲間”ですか……。アキラらしい案だとは思いますが……具体的にはどのような写真を撮るおつもりなんです?」
確かに他の皆の提案と違って写真のイメージが付きづらいテーマかもしれない。……まあ、俺だって明確なビジョンがある訳じゃないんだけど。
「……例えば、チームで部活動を頑張ってる人たちの後ろ姿とか。あとは……写真撮ってる皆の写真とか?」
「なるほどね。決まった形がないから、特に皆の個性が出そうなテーマだね」
「ですね。ま、個性だけじゃなくて実力も問われますけどね。下手なもの選ぶとどう撮影しても変なのしか出来上がらないですから」
うーん、八橋さんの言う通りかもしれないな。他のテーマと違って決まった形がほぼないから、被写体探しからかなり苦労しそうだ。
「でも、いい案だとは思いますよ、アタシも。玄人向けだとは思いますけど、メッセージ性の強い写真展になりそうです。……若干学生向きじゃなくなるかもしれないですけど」
とまあ、懸念事項がない訳ではないが、概ね高評価な結果となったのだった。
*
部員全員の案が出そろったところで、早速一つのテーマに絞ろう、と思ったのだけれど……
「しょーじき、この中から一つだけに絞れ、って無理じゃないです?」
「まあ、選びきれないのは確かですわね……」
「全部いい所あるからねぇ。でも、選ばないといつまで経っても撮影に入れないし、決めなきゃなんだけど」
とまあこんな感じで、どれも普通以上にいい案だったこともあって、選びきれない事案が発生してしまったのだ。
「……思ったんだけど、さ」
「なに、あっくん?」
「その、これ言っちゃうと色々台無しなのは分かるんだけど、別に一つに絞らなくてもいいんじゃないかな、って思って」
一人一人は今発表したテーマの写真を撮って、最終的に持ち寄って写真展にする。統一感はないかもしれないけど、部活動の一環としてならこれでもいいんじゃないかな? ……そうふと思って皆に提案してた、んだけど――
「今のまま、決められずに時間ばかり過ぎるよりはいいかもしれませんわね」
「確かにそうですね。それに、違うテーマの写真がいっぱいあれば、クリスセンパイの案の時に言ってた“印象が暗くなりそう”って問題も解決できますし」
……あれ? 割とダメもとの案だったのに中々の好印象になってしまった。そしてこうなってしまった以上、一つに絞ったり話合ったりしなくて良いこの案に皆が同調するのは自然な流れな訳で。よって最終的には――
「では、期日までに各々のテーマに沿った写真を大体5枚程度撮ってくること。……で、よろしいですかね?」
「多分大丈夫だと思いますよ。少なくともアタシは了解です」
「私も問題なしだよっ! よーっし、いっぱい撮るぞー!」
「俺も大丈夫だよ。テーマの都合上、多分皆の撮影にお邪魔することになるけど……」
と、結局俺の提案通りになってしまった。……皆納得してるっぽいけど、本当にこれで良かったのかな……。
「あら、ひょっとして雨の日にならないと撮影できないワタクシが少々不利……ですか?」
「あー、そうかもしれないっすねイネスセンパイ。……まあ、最悪誤魔化せるのでなんとかなるとは思いますけど」
秋の時期は雨も多いしなんなら台風だってまだまだ来るし、多分大丈夫じゃないかな? ……いや、多分イネスさん的に台風は撮りたいものとは違うと思うけど。ともかく、皆それぞれのテーマの写真を撮る、ということに決まった所で、今日の部活はお開きとなったのだった。
*
「ふふっ、結構いい感じかも」
「――お、早速撮ってるんだ」
この日の夜。一日の仕事を終え自室に戻ろうと廊下を歩いていると、テラスで夜空に向かってカメラを掲げているクリスに出くわした。
「まーね。なかなか綺麗な夜空だったからさ。ついカメラ持って来ちゃった」
「確かに、今日は雲もなくていい感じだね」
屋敷自体がちょっと都会から外れた所にあることもあって、普通にはお目にかかれない綺麗な夜景が見えていた。街中では見えないような等級の星までくっきりと見える程だ。
「あっくんはもうお仕事は終わり?」
「うん。今日はもう全部終わったよ」
「お、やった。こっち来て一緒に見よっ」
満面の笑みの恋人からのそんなお誘いをされて断る訳もなく。クリスに近寄り、右隣に陣取る。……黄金色の満月が、俺とクリスの正面で穏やかに輝いている。
「……ふふっ、綺麗な満月だよね。……あ、その、変な意味じゃないからね。勘違いしちゃダメだからね」
「えっと……、ああそういうことか」
ちょっと考えて、クリスの発言の意図が分かった。あの有名な「月が綺麗ですね」の意訳のことだろう。最初はそれを意識せずに言ったのか、クリスの顔は月明かりでもはっきりと分かるレベルで真っ赤に染まっていた。
「……うん、確かに綺麗な月だよね。……い、今のは、そっちの意味でも、あるよ」
思い切ってそんなことを言ってみると、クリスの顔の赤みはそれこそ火でも出るんじゃないかというレベルにまで真っ赤になってしまった。
「も、もうっ……。いきなりそんなこと言わないでよ、バカ」
「いや、いきなりではないと思うけど……。それに、ちゃんと本心だし」
いくらなんでも冗談でこんなこと言わない。……というか、恋人同士なんだし本心に決まってる。
「はぁ……。ホントさらっと凄いこと言うよね、あっくんってさ。ま、まあ、嬉しいけどね。……ありがと。わ、私も……同じ気持ちだよ、うん」
いやさ……、最後の一言は卑怯でしょ……。多分、今の俺はクリスと同じくらいかそれ以上に顔が真っ赤に染まっていることだろう。
結局、この後は特に会話もなく、静かに満月を眺めて時間が過ぎていった。……まあ、会話はなくとも幸せな時間ではあったけどね。




