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誕生日プレゼントに思い出を

「あー楽しかったー!」

「そう言ってくれると嬉しいよ」


 誕生日パーティーの日の夜。間宮さんにお願いして少しだけ時間を作ってもらった俺は、クリスの自室にて食後のデザートを摘まみながらゆったりとした時間を過ごしていた。


「……というか、まだ甘いもの食べるんだ……」

「前にも言ったじゃん。甘いものは別腹だって」


 昼間もかなりのサイズのケーキを食べたというのに、今クリスの目の前には間宮さん特製のイチゴ味のババロアをそれはそれは美味しそうにぱくついている。……俺はというと、流石にこれ以上の甘味を食べるとちょっと胸やけ起こしそうなので、今は紅茶を飲むだけでデザートはなしだ。


「……で? わざわざ間宮にお願いしてまで時間を作ったってことは、期待していいのかな?」

「き、期待って……?」


 今さらながら少し気恥ずかしくなって、わざと話題を逸らす。もちろんクリスがなにを言いたいのかは分かってるけど、あっさり頷くのはちょっと自分には難しかった。


「プレゼントだよ、プレゼントッ! まあ、自分からおねだりするものじゃないのは分かってるけどさ。でもやっぱり……あっくんからのプレゼントは特別だからさ。期待しちゃうんだよね」

「……あんまり期待されるとハードルが高くなって困るな……」


 正直、ものとしては八橋さんやイネスさんからのプレゼントの方が豪華なだとは思う。外にでて買い物をする時間がなかった都合上、クリスの欲しそうなものを買ってくる、とかはできなかったし。


「大丈夫だよ。別に、あっくんからのプレゼントならなんでも嬉しいから」

「……そう言ってくれるのは嬉しいけど」


 ……まあ、あんまり長い時間かけてもしょうがないか。観念して俺はクリスへのプレゼントを取り出し、クリスに差し出した。


「その……ホントに大したものじゃないけど。でも、その……受け取ってくれると嬉しい、かな」

「もう。私があっくんからのプレゼントを受け取り拒否する訳ないじゃん。どんなものでも、あっくんが心を込めてくれたものに違いはないんだしね?」


 心を込めてくれたもの……か。まあ実際その通り、できる限り自分の心と想いを込めたつもりのものだけど、面と向かってクリスにそう言われると少し気恥ずかしいというか……なんか、無性にムズムズする。


 クリスが俺から受けとった封筒を慎重に開けていく。……中には、一冊のアルバムと、一通の手紙。


「これ……アルバム?」

「うん。実家から持ってきた昔のクリスが写ってる写真と、ここに来てから写真部の部活で撮った色んな写真を一つにまとめてみたんだ」

「へぇ……。わぁ、これ懐かしいなぁ」


 そう言いながらクリスが見ているのは、浴衣を着た可愛らしい金髪の女の子と、その横でなんともいけ好かない表情をした男子が写る一枚の写真だ。


「私が浴衣来てるってことは……二年生かな?」

「よく覚えてるね……」


 ちなみに俺は覚えていなかった。奥様に尋ねてようやく思い出したくらいだ。


「神社やってたお祭りに私がどーしても浴衣を着ていきたい、ってお母さんに無理言って着せてもらったんだよね。でも結局、“動きにくいしめんどくさい!”とか言ってそれからは着なかったけどね、ははっ」


 あの頃は今以上に活発な性格だったし、なんともあり得そうな話だ。


「うわぁ、どれもこれも懐かしいな……。よく残ってたね、うちなんて多分もうほぼ残ってないよ?」

「じいちゃんがこういうのマメな人だったからな。思い出は大事にしないとダメだ、っていつも言ってたし」


 じいちゃんは俺やクリスの将来の思い出のためにと事あるごとに写真を撮ってくれていた。かなりの量だったこともあり、星之宮家に全部は持ってこれなかったのが心残りだけど……、だからこそ残った写真は大事にクリスと共有したかった。


「……ありがとね。まだこのアルバム余白あるし、これからも写真を撮ってここに飾らなきゃね」

「……うん。喜んでくれたみたいでよかったよ」


 気持ちは十分以上に込めたつもりだったけど、やはり物としての豪華さはないから少し心配だったから、喜んでくれて一安心だ。


「えーっと、もう一個入ってたけどこれは……?」


 アルバムを大事にしまいこんでから、封筒に入っていたもう一つの物、つまりは一通の手紙を取り出そうとするクリス。


「――うわぁぁっ、ちょっとっ、ちょっとそれは待ってっ!」

「……へ?」


 思わず叫び声をあげてしまった。もちろんそれも俺からクリスへの贈り物だけど、俺の目の前で広げて欲しくはない。……もし広げられたら、きっと羞恥心で死んでしまう。


「いやその……。できれば、俺が部屋を出てから読んで欲しいなー、と」

「えー、そう言われると今読みたくなるなー? ……って、そんなに泣きそうな顔しなくていいじゃん」


 そう言われても……。書いた内容を思い出すだけで死にたくなってくるような代物なのだ。せめて見えないところで読んでくれないと本当に発狂してしまう。


「ふふっ、分かった分かった。そのあっくんの表情に免じて今広げるのは勘弁してあげる。……あとでじっくり読ませてもらうね」

「……うん。そうしてくれると、助かるかな」


 どうにか思いとどまってくれた。……その時、ポケットの中のスマホが震えた。あらかじめ設定してたアラームだ。


「あー、そろそろ仕事に戻らないと。大広間の掃除だけは手伝ってくれって間宮さんに言われてるんだ」

「……そっか。名残惜しいけど仕方ないね。じゃ、ゆっくりこのお手紙を読ませてもらおうかな?」

「……それは、まあ、別にかまわないけど。――とりあえず、おやすみクリス。……あと、誕生日おめでとう」


 もう今日何回か言ってるけど、なんとなくまた言いたくなったのでそう付け加えた。するとクリスは急に恥ずかしそうな表情を浮かべながら、俺に上目遣いを向けてきた。


「……ね、あっくん。その……私から一つだけ、誕生日プレゼントのリクエストしても、いいかな?」

「リクエスト? まあ準備出来るものなら全然オッケーだけど……」


 俺の返答を聞いたクリスは、微かに顔を赤く染め、一拍置いてから目を閉じ、顔を俺の眼前に差し出した。


 ――え、そ、そういうことですか?


「……ねえ、はやく。間宮まってるよ?」

「……わ、分かった……」


 クリスに急かされ、一瞬だけ唇を合わせる。……次の一瞬、目を開けた先にいたクリスは、先ほどまでとは比べものにならない程真っ赤な顔をしていた。


「……あ、ありがとっ。じゃ、じゃあっ、お、おやすみ、あっくん。お、お仕事頑張ってねー!」


 完全にテンパった声でそう言いながら、俺を部屋の外に押し出してしまった。……そんなに恥ずかしかったのか……。


「……仕事、するか」


 頬をピシャリと叩いて気持ちを整える。……まあ、まったく整わなかったけど。


 ――さて、クリスはあの手紙を読んで、どう思うかな?


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