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サプライズ計画進行中

「……なんかさ、最近イネスとほたるちゃんが冷たいんだけど」


 時は8月中旬。そろそろ夏休みの終わりが見えてくるころ。そんなある日の朝、朝食を作っていた俺の元にやってきたクリスがふとそんなことを呟いた。


「……まさか。気のせいじゃない?」

「だといいんだけどなぁ。なんか、遊びに行こうって誘っても全然いい返事くれないからさ。……私、なんか悪いことしちゃったかな」


 ……まずい、結構本気で落ち込んでいらっしゃる。これは、ちょっと対策を考えないとまずいかもしれない。


 *


「――ってな具合なんだよね。どうしよう……」

「一日二日断っただけでそこまでになるとは……。クリスの寂しがり屋っぷりを少し侮っていたかもしれませんわね」

「クリスセンパイって、案外ナイーブなんですね……。でも、だからって今さら取りやめる訳にもいかないんじゃないですかね?」


 クリスの反応を受け、その日の午前中の内にイネスさんと八橋さんを交えて電話で緊急会議。……クリスに割と寂しがりな一面があるのは知ってたけど、まさかあそこまでだとは思ってなかった。


「そうなんだよね……。でもかと言ってこのまま後三日って言うのは……」

「明日の夜には泣きながら電話してきそうですわね、このままでは」


 いや、今日の夜でも大分怪しいかな……。


「……明日の準備はお休みにして、遊びますか」

「それがいいかもしれませんわね。……クリスに悟られないようにしなければいけませんが」

「そこが一番の問題だね……」


 なにがなんでもあと三日は露呈する訳にはいかない。せっかく間宮さんや奥様にまで協力してもらってるのに、ここでバレる訳にはいかない。


「まあ、なんとかなるでしょう。クリスも別に我々がなにか企ているとは思ってないでしょうし」

「……というか、普通気づきそうなもんですけどねぇ。まさか自分の誕生日を忘れてる訳じゃないでしょうし」


 ……いま八橋さんがさらっと言ったが、なんと三日後はクリスの誕生日なのだ。せっかくなのでサプライズで盛大になにかやろう、と皆の意見が一致したので、ここ三日ほどイネスさんたちは準備でクリスと遊ぶことができなかった、という訳なのだ。


「……そう言えば、今年はまだクリスの口から“誕生日”ってワードを聞いた覚えがないな」

「え、ひょっとしてマジで忘れてるんすかクリスセンパイ」


 流石にそれはないと思いたいけど……。でも、クリスって昔からあんまり自分の誕生日に頓着してなかったしなぁ……。小学校の頃、用意したプレゼントを見て“あれ? どうしたの?”と言い放ったことがあるくらいだし。……なんか、ホントに覚えてない気がしてきた。


「……あのー、晃センパイ……?」

「あ、いやごめん八橋さん。……なんか、クリスなら有り得そうだなって」

「ええ……。サプライズパーティーでキョトンとされたら凹みますよ、アタシ」


 ……それは俺も凹むから安心して欲しい。


「とりあえず、ワタクシから明日遊びに行きますと連絡しておきますわ。……拗ねてなければいいですけど」


 ひとまずこれで会議はお開きとなった。……本当はパーティーの内容の計画会議をしたかったんだけど、仕方ない。


 *


「……ねぇ、あっくん。いま、誰と電話してたの?」

「――うわぁっ!? ……って、クリスか」


 声に驚き振り返ってみると、俺の部屋の入り口になんとも暗い顔をしたクリスが立っていた。……まずい、朝よりも落ち込み度が深刻化してる。これは、イネスさんからの遊びのお誘い電話まで保たないかもしれない……。


「なんか、ずいぶん楽しそうにしてたけど……。なに話してたの……?」


 アレ? なんかその……ヤバい雰囲気纏ってません? なんていうのか、その……病ん病んした感じのアレを。


「いや、その、そんなことないって、大丈夫! だからあんまり気にしない――」

「……いーいーなー!!! 私も楽しいことしーたーいー!! みんな遊んでくれないから退屈なのー!!」


 ……あ、全然病ん病んしてないねこれ。ただ羨ましくて拗ねてるだけだね。とりあえず良かった、と胸をなでおろす……、いやまて、別に問題が解決したわけじゃないな。


「そ、そんなになの?」

「そうだよっ! だってつい一昨日まで毎日予定があったのに途端に暇になっちゃったんだもん。このままじゃ暇で暇で死んじゃうよ!」


 んな大げさな。……でもまあ、今年の夏休みは最初の合宿からずっと濃ゆい日々だったしなぁ。急に退屈になると反動で却ってしんどいのかもしれない。


「じゃ、じゃあその、提案なんだけどさ」

「……なに?」


 まさか寂しそうにしてるクリスを放っておける訳もなく。


「……夕飯の準備まで二人でゆっくりしない? お茶でも飲みながらさ。……間宮さんには怒られるかもしれないけど」

「……する」


 まだ若干拗ねてはいるけど、とりあえず納得はしてくれたみたいだ。……というか、既に表情はいつも通りの笑顔に戻ってる。……これは、ギリギリセーフかな? まあ、とりあえず今のところは難局を切り抜けられたと思っておいて大丈夫だろう。


 ――クリスの誕生日まで、あと三日。


 果たして、クリスに悟られることなく完璧に準備できるのだろうか?


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