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始めての日の思い出

「さあ、ここが今日から私たちの住む場所よ」

「……うわ……すご……」


 これが、星之宮邸を初めて見た私の第一声だった。映画やドラマの世界ですら、ここまで豪華な家はそうそうないだろう。そんな豪邸がこれから私の住む家になるだなんて、正直まったく実感はなかった。


「こんにちは、七海さん。クリスちゃんも。――おかえりなさい」


 大きな門の前には見るからに高そうなスーツを身にまとった長身の男性と、古めかしいメイド服を着た女性が立っていた。男性の方は前に何回かあったことがある。名前は星之宮光一郎。世界的な大企業の社長であり、お母さんの再婚相手。……つまりは、私の新しいお父さんだ。


「お出迎えありがとうね、光一郎さん、間宮も。ほら、クリスも挨拶しなさいな」

「え、えっと……。こ、これから、よろしくお願い致します」


 ――それにしたって、いったいどこでこんなすごい人とお母さんが出会って、しかも結婚することになったんだろう?


 私はその辺の事情は一切聞かされてないけど、幸せそうな笑顔をしてるお母さんの顔を見て、それ以上聞こうとは思わなかった。それに、私も別に新しいお父さんのことは嫌いな訳じゃないし、むしろ好感度は高い方だ。……もっとも、父親になるという実感はなかったけど。


「ははっ、そんなに固くなる必要はないさ。なにせ、もう私たちは家族なんだからね。……まあ、そう簡単にはいかないかもしれないけどね。じゃあ二人とも、とりあえず応接間で待っていてくれるかな。すまないが、これから少しだけ仕事を片付けないといけないんだ。――間宮、二人を応接間までお連れして」

「はい、旦那様。承知いたしました。……さあ、こちらです」


 ……なんか、怖そうな人だなぁ。


 これが、私の間宮に対する第一印象だった。今以上にキツイ目つきに、必要以上の関わりを拒絶するかのような態度。……この頃はまだ知らなかったけど、間宮もこの時はまだ星之宮家に来たばかりだったんだとか。それで、仕事にもまだ慣れてなくてそんな態度になってしまったらしい。


「それでは、こちらで少々お待ちください。私はお飲み物を持って参ります」


 恭しく、でも今と比べると少し緩慢な動きでお辞儀した後、間宮は応接間を出て行った。その途端、緊張が一気に解ける。


「……ふぅ。お母さん、あの人は……?」

「この家のメイドさんよ。間宮、っていう名前なの。ちょっと怖いかもしれないけど、とても良い人よ。なにせ私の……」

「――奥様。……申し訳ございませんが、その話はご遠慮いただけると……。昔の話ですから」

「うわっ……。はやい……」


 慣れてないといえど、流石は間宮さん。この頃から既に家事のスピードは一流だった。


「そう? そういうなら無理には言わないけど。……じゃあ間宮、少しクリスの話し相手になっててくれる? 私はちょっと光一郎さんの所でお仕事のお手伝いをしてくるから」

「お、奥様? そのっ……。あぁ、行ってしまわれました」


 私からでも分かるくらい大仰にガクッと肩を落とす間宮。詳しいことは今も知らないけど、お母さんと間宮はどうやら今のお父さんと会うよりも昔からの仲で、しかも間宮はメイドであることを抜きにしてもお母さんに頭が上がらないみたい。……どういう仲なんだろう?


「……そうですね、まずは再度自己紹介をしておきましょうか。私は間宮と申します。この星之宮家にて、家事全般とその他の様々な雑用を一手に任されております。なにかあれば、私にお言いつけくださいね」

「は、はい……。えっと、不知火……いや、星之宮、クリスです。そのっ、よ、よろしくお願いしますっ」

「ええ、よろしくお願い致します。……その、私にはあまり敬語は使わないようにお願いします。年齢など関係なく、私はクリスお嬢様よりも下の立場にあたりますので。他に誰もいない状況ならまだしも、今後お嬢様は世界中の資本家や経営者とお会いする機会があります。難しいとは思いますが、そこで失敗をしない為にも少しずつでいいので慣れていってください」

「はい……。頑張ります」


 再婚前にお母さんにも言われたことをまた言われてしまった。……お母さんの幸せの為と思って、その時はあまり自信がないままで首を縦に振っちゃったけど、こうしてもう一回間宮に言われると、少し不安が出てくる。そしてそんな私の内心が顔に出ていたのか、間宮が少し慌てた様子でフォローを入れてくれる。


「そ、そんなに不安そうな顔なさらないでください。私がついていますから。しっかり、お嬢様を社交界でも通用する一流のレディにしてさし上げます」


 私がよほど不安そうな顔をしてたんだろう。慣れない様子で私を気遣おうとしてくれたのが私でも分かった。


「……ふふっ」


 そんな様子が少しおかしくって、私は少し笑ってしまった。


「も、申し訳ございません。なにかおかしかったでしょうか……?」

「い、いえっ。そういう訳ではなくって。……その、ありがとうございます。おかげで少し元気になりました」

「そ、そうですか……? それならば、よかったです」


 お互いにぎこちないやり取り。……思えば、私はこの時にはもう間宮のことをまるで歳の離れた姉のように思うようになったのかもしれない。


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