二人の本音/間宮ってどんな人?
「ふわぁ……。ねみゅ……」
あれ、もう朝、かな……? 寝ぼけ眼のまま、私は枕元に置いてあるスマホを見る。さて、いま何時くらいかな?
――5時45分
「……まだまだじゃん」
はぁ、なんでまたこんな時間に目が覚めちゃったのかなぁ……? 二度寝してもいいけど、ちょっと中途半端な時間だし、どうしようかな。
「起きよ」
まあ、合宿最終日くらい早起きした方がいっか。後片付けとかあるし。まだまだボーッとしてる頭でなんとなくそんなことを考えながら、階段を下りダイニングに向かう。
「――あれ、クリス? はやいね、おはよう」
ダイニングのテーブルで、あっくんがコーヒーを飲んでいた。その姿を見た途端、虚ろだった思考が一気に覚醒する。……我ながら単純だ。
「おはよ、あっくん。なんか目が覚めちゃって。二度寝しても良かったんだけどね」
「まだ、あと2時間くらいは寝れるよ?」
「はは、流石にもう寝ないって。……あっくんの顔見たら、眠気なんて全部吹っ飛んじゃったしね?」
わざと挑発的な笑顔を浮かべて、あっくんの反応を伺ってみる。あははっ、顔真っ赤にしてる。可愛いなぁもう。……あっくんは多分、可愛いって言われたら落ち込んじゃうと思うし、口にはださないけどね。
「そういえば、他のみんなはもう起きてる?」
「うん、イネスさんも八橋さんも起きてるよ。今は二人で朝ごはんの買い出しに行ってくれてる」
「そっか。ねね、隣、いいかな?」
断る訳ないのは分かってるし、聞く必要すらなかったかもしれないけど、それでも聞いてみる。――理由は、とっても簡単。
「う、うん。どうぞ」
「ありがと。じゃ、座るね」
このやり取りを、したかったから。ただ、それだけ。だって、こんなどうでもいいようなやり取りでさえ、今の私にはかけがえのないものだから。
*
「この合宿も、色々あったね」
「ありすぎて疲れたよ」
「まあ、それは私も同感かな。……でも、楽しかったし、嬉しかった」
本当に、色々あった。……特に二日目の花火大会で、ね。
――この際だし、本音を言っておこうかな。
ふとそう思った私は、ずっと思ってた、でもずっと言ってなかった私の本音を、あっくんにぶつけてみることにした。
「今だから言えるけど。……私、あっくんに振られるって思ってたんだ、ずっと」
「……え?」
まさか、と言いたげな表情で見つめ返してくれる。……でも、今の私の言葉は、間違いなく本当。
「だって、あっくんモテるからさ。ほたるちゃんにも告白されてたし。だから、私じゃ釣り合わない、って思ってたの」
これが私の本音“だった”。私より、良い人はいっぱいいる。それなのに、あっくんがわざわざ私を選ぶ訳ない、って。……あっくんが私にずっと好意を向けてくれてたことになんて、気づきもしてなかった。
「そんな訳ないよ。むしろ……」
「むしろ……?」
一拍おいて、真っ赤な顔で、でも真剣な表情であっくんは言葉を続ける。
「むしろ、俺の方がクリスには釣り合わない、って思ってた。だって、今の俺は従者で、クリスはお嬢様だから。……これって、身分違いの恋だからさ」
「そんなの、なんの関係もないよ。いつだって私は私だし、あっくんはあっくん。……でしょ?」
まあ、普通はそんな単純な話にはならないのかもしれないけど。でも私たちはそれで大丈夫なんだから、それでいいんだ。
「ふふっ。私たち、似た者同士だね」
「……そうかもね」
お互いに、ずっと同じような想いを抱きながら、それに気付かずにすれ違ってた。……本当に、似た者同士だ。
「まあ、色々あったけどさ。……これからもよろしくね、クリス。できれば、……ずっと、いつまでも」
「……そういうこと言うの、反則」
こんな風に、あっくんは偶にとんでもないことを言って私を戸惑わせる。……しかも、大抵は無自覚に。そんな爽やかな笑顔で、一ミリの躊躇いもなく言い切るなんて、本当に反則だ。
「えっと……なんで……?」
「そういう無自覚なとこが反則なの。……自分がどんだけすごいこと言ってるか、自覚したほうがいいよ?」
そこでキョトンとする辺りがもう本当に反則……いやもはや犯罪だ。
*
「ふぅ、落ち着くー」
「相変わらずではあるけど、よくそれで落ち着けるよね……」
私の特製コーヒーを若干引き攣った表情で見ているあっくん。……いやいや、そんな顔する程酷い味はしないけどなぁ。私からすれば、苦い苦いコーヒーをそのまま飲む方がよっぽど落ち着けなさそうだ。
「そういえば、10時に間宮がくるんだよね」
「そうそう。昨日の夜に確認の連絡があったから間違いないはず」
間宮、私とあっくんの仲をなんて言うかなぁ……。お母さんは、“絶対祝福してくれるに決まってるじゃない”って自信満々に言ってたけど、果たしてどんな反応をするやら。
「その連絡の時は、間宮はなにか言ってなかった?」
「いや、特には……。大丈夫なのかな」
「大丈夫だと思うよ。……多分ね」
祝福してくれるとは私も思うけど。でも、どんな反応かまでは分からない。いつも通り淡々としてるかもしれないし、意外にも泣いて喜ぶかもしれない。
「間宮って、偶になに考えてるか分かんないからさ。どんな反応かなんて分かんないや。まあ、ダメだって言って来たりはしないと思うけどね」
「クリスでも、分かんない時もあるんだ?」
「うん、私でもまだまだだよ。まだお母さんの方がよく分かってるかも」
口調に反してとても親身になってくれるし、初めてづくしだった私をそれとなくサポートしたりしてくれたし、私自身は、少し不器用なお姉ちゃん、って感じに思ってるけど。でも、果たして間宮は私をどう思ってるんだろう……?
「……クリスが家に来たばっかりの頃の間宮さんって、どんな感じだったの?」
「気になる? ……じゃ、ちょっと昔話でもしよっか。えっとね――」
そんな訳で、イネスたちが戻るまでちょっとだけ昔話。
話は約三年半前。それは。まだ私が星之宮家に来たばかりの頃――




