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写真部定期撮影会③――軽井沢にて

 合宿6日目。明日は午前中の内に引き上げる予定になってるので、実質今日が合宿の最終日だ。という訳で今日は、写真部らしく観光地を巡っての撮影大会の予定だ。


「センパイ、ここですここ! 凄いですよ!」

「これは、確かに……なかなかの物ですわね」

「ですよねっ!」


 今俺らがいるのは軽井沢でもトップクラスの観光名所である、旧三笠ホテルという場所だ。その名の通り、元々は明治時代にホテルとして建てられたもので、今では国の重要文化財となっているらしい。


「ねぇ、あっくん。あの二人ってばさ、いつの間にあんなに仲良くなったんだろうね?」

「え?……イネスさんと八橋さんって、元から普通に仲良かったよね?」

「まーそうだけど。でも、今の二人はそれ以上というか。……なんか、姉妹みたい」


 クリスの発言を聞いて、少し注意してイネスさんと八橋さんの様子を見てみる。


「センパイセンパイ。……ここ、幽霊が出るウワサがあるらしいですよ」

「ゆっ、幽霊、ですか……? あの、それは本当なのです……?」

「真偽は別にして、そーいう噂があるのは本当ですよ。なんならここの説明の看板に書いてますし」

「……そっ、それはそのっ、どの辺りなのです? ひょっとして、ここも……?」

「えー、センパイひょっとして怖いんですかぁ? クリスセンパイに朝同じこと話したら、見たい見たい、って食いついてましたよ?」

「そ、そうですか。……な、なら大丈夫です、怖くなどありませんわ。クリスが平気なのです、ワタクシが耐えられない訳ないでしょう、ええ、ええ」

「……怖いんですね」


 へぇ、イネスさん、幽霊とか苦手なのか……。少し意外だな……。


 っと、それは一旦置いといて。……確かに、一学期に部室でワイワイやってた頃より一層仲良くなってるように見える。明確な根拠はないけど。


「どう思う? あっくん」

「確かに、仲良くなってる気がする」

「でしょ? なにがあったんだろう……?」


 俺とクリスがごたごたしてる時に、なにかあったのかな……?


「クリス、アキラ? ぼさっとしてると置いていきますわよ?」

「そーですよっ! 今日は他の所も見に行くんですから、ぼーっとしてる暇はないですよ!」


 二人が声を揃えて俺らを急かす。……やっぱり、前に比べて格段に仲良くなってる気がする。


「はいはいっ。……ところで、二人はいつのまにそんな仲良くなったの? 今の二人、まるで姉妹みたいだよ?」

「おぉ……。ストレートに聞くなぁ……」


 クリスらしいとは思うけど。しかし、イネスさんと八橋さんもどうやら仲良くなったという自覚はあるみたいで――


「それは、秘密ですわ」

「はいっ、アタシたち二人だけの秘密ですっ」


 と、はぐらかすのだった。……なにがあったんだろう?


 *


 ホテル内を心ゆくまで散策し、写真撮影を行った俺ら。今はそこから場所を移して、旧軽井沢銀座と呼ばれる商店街に足を運んでいる。


「んー、美味しいですー!」

「ねぇねぇほたるちゃん、それ一口もらえるかな? お返しに私のも一口上げるからさ!」

「もちろんですよセンパイッ! そうだっ、この際みんなのアイス一口ずつ交換しましょうよっ」

「……ワタクシもですか? いえ、構いませんが……」


 喫茶店のテラススペースで、女子三人が仲良くソフトクリームを食べ合いっこしてる。……さすがにこれには割り込めないなぁ。という訳で、そんな様子を一枚パシャリ。――うん、これは中々いい画が撮れたかな?


「……クリスセンパイ。センパイの彼氏さんがなんかアタシたちを盗撮してるんですけど」

「あはは……。こらあっくん? 女子の食事シーンを勝手に撮るんじゃありません!」

「えっ……。あぁ、ごめんごめん。……皆いい表情してたから、つい」


 確かにちょっと無遠慮すぎたかも。……次からはちゃんと承諾を取ってからにしよう。


「ワタクシは別にいいですけども。そもそも写真撮影をすることが目的なのですし」

「おぉ。イネスセンパイってばすごい自信ですね……」

「もちろんですわ。淑女たるもの、いついかなる時でも自分の姿には絶対の自信を持ってなければなりませんもの」


 フフン、と優雅に髪を手で払うイネスさん。最近はあまり気にしてなかったけど、イネスさんはフランスの由緒ある家に生まれた、立派な貴族なんだよな……。そりゃ、自分の容姿や所作に絶対の自信があって当然か。


「――さて、食べ終わったことだし、皆でお土産でも買いに行きますか! 」

「そうですね。アタシもお父さんになにか買ってあげなきゃ。……なにがいいんだろう?」

「ワタクシも、フランスの実家になにか送ってみようかしら……」


 お土産、か……。俺もなにか買った方がいいんだろうけど、俺の所持金で旦那様が喜ぶような物なんて買えるかな……?


「あっくん、行こっ。私、前から目を付けてたとこがあるんだ! という訳で、私たちはちょっと別行動してもいいかな?」

「ええ、いいですわよ。……存分にデートしてきなさいな」

「デ、デートじゃないもん。ただのお土産選びだもん」


 イネスさんに突っ込まれ、途端にアタフタするクリス。……分かりやい、あまりに分かりやすすぎる。


「ははっ、そういうことにしといてあげましょ、イネスセンパイ。じゃ、二時間後くらいにまた落ち合うってことで」

「りょーかいっ! またあとでねー!」


 ニヤニヤと生暖かい表情をしながら商店街の奥へと消えていくイネスさんと八橋さん。とそんな二人を若干引き攣った笑顔で見送るクリス。その表情はつまり、図星ということか……。


「……じゃ、じゃあ、行こっか?」

「うん。……ちなみに、どこに行く予定なの?」

「えっと……その……。い、行きたい美術館があって」


 当たり前だが、美術館はお土産目的で行く場所ではない。つまり、それって――


「……完全にデートする気じゃん」

「いっ、いいじゃんっ別に! だって明日には家に戻るんだよ? 家だと二人っきりには中々なれないもん。だから、今日のうちに……デートとか、しときたい、な……?」


 ……そんなに真っ赤な顔で見つめられると反論できない。……というか、別に反論しなくていいか。だって……俺だってデートしたいし。


「わ、分かった。……でも、ちゃんとお土産も買わないとな。……じゃないと八橋さんたちに怪しまれる」

「はは……買っても買わなくても既にじゅーぶん怪しんでると思うけどね……。まいいや、行こっ、あっくん!」


 まだ少し赤みの残った顔で、控え目に俺の方へ右手を差し出すクリス。……それは、手を繋ぎたい、ってことでいいのかな? そう解釈した俺は、ゆっくりとその手を握る。少しひんやりした感触が俺の手を包む。……これが、クリスの手、なのか。当たり前と言えば当たり前だけど、男の俺と比べると、小さくて、柔らかい。


「ふふっ。……結構恥ずかしいね、これ」

「……だね」


 歩幅を合わせ、ゆっくりと歩き始める。小学生の頃なんかは、手を繋いで歩くなんてよくやってたはずなのに、その頃とは全然ちがう感覚で少し戸惑う。


 ……でもこれが、恋人になった、ってことなんだろうな。


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