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ですわでオホホなお嬢様は褒められるのがお好きなようです

 俺とイネスさんの間に流れる沈黙。さてどうしたもんかと思ってると、イネスさんから話しかけてきた。


「まったく。いつもクリスはああなんですから。……あなたも昔はさぞ振り回されたのではなくて?」

「……確かに。散々振り回されたな」


 もう随分前の事だけど。クリスがまだうちの隣に住んでた頃は、事あるごとに連れ回され振り回されてた記憶がある。


「というか、俺の事知ってるの?」

「ええ、クリスから直接聞きましたわ」


 今の名字になる前の話までしてるとは。思ってた以上に仲がいいみたいだ。


「あらあら。“驚いた”とでも言いたそうな顔ですわね。まあ、あのクリスがそんな昔の事を話すと言うのは驚くに値する事ではあると思いますけれど」

「……えっと。イネスさんとクリスって、どういう仲なんですか……?」


 気になっていた事を思い切って聞いてみることにした。……間違いなく親友、と呼べる関係ではあるんだろうけど、いったいどういう状況で知り合ったんだろう。


「どういう仲、と聞かれればそれはもちろん友人ですけれど……。あなたが聞きたいのはそう言う事ではないのでしょうね」

「まあ、そうです。あのクリスの素の性格まで知ってるなんて、どうやってそこまで仲よくなったんだろうと思って……」


 イネスさんは笑顔を引っ込めて、真面目な顔になった。……えっと、まずい事言ったのかな……


「一つだけ、忠告しておきますわ。主の過去をむやみに知ろうとするのは、褒められた事ではありませんよ。今回は相手がワタクシだったからまだよかったですが。間違っても、あなたの従者仲間などに聞いて回ったりするのはおやめなさい。従者として当然のスタンスですわよ」

「……はい。以後気を付けます」

「よろしいですわ。あなたはまだ従者としては新米なのですし、今回は大目に見ておきましょう。という訳でワタクシとクリスの馴れ初めの話はまた今度。クリスのいないところで話す事でもありませんし。……そうですね、ワタクシの自己紹介でもしましょうか。これから仲良くさせて頂くのに、ワタクシの事を何も知らないと言うのは不都合があるでしょう?」


 セリフだけ聞くとしょうがないわね、とでも言いたそうに思えるかもしれないけど、顔は完全などや顔だ。多分、最初から話したくてうずうずしてたんだろうな。まあ、俺としても知っておけるならありがたい。知らない事が原因で失礼なことをしてしまう可能性もあり得るし。


「そうですね。お願いします」

「ふふん、よろしくてよ。――では、もう一度最初から。名前はイネス・フランソワ・ラ・マリニャーヌ、フランスにて400年以上続くラ・マリニャーヌ家の末裔の一人ですわ。この日本には今後の交友関係の発展の為、3年ほど前に留学に来ましたの」


 やっぱり留学生だったのか。しかもフランス貴族の末裔とは。実際今の世界においてどれだけの影響力があるのかは分かんないけど、そこらの金持ちじゃ敵わないのは間違いない筈だ。……にしても、留学の理由がちょっと気になる。


「交友関係の発展、ですか?」

「ええ。今後は世界中にパイプがあった方が確実に有利ですから。……我が家は今まであまりそう言った事に力を入れてきておりませんでしたし。……まあ、それで日本に来たのはちょっと失敗でしたが」

「え……?」


 日本に来たのが失敗……? ひょっとして、あんまり日本の事好きじゃないのかな?


「えっと、今のは少々失言ですわね。忘れてくださいます? クリスという友人に会えたのはよかったと思っていますし」

「あ、はい。……そう言えば、日本語上手ですよね」


 あんまり深堀りされたくない話題みたいだし、適当に気になっていた事を聞いて逸らしてみる。失言にならないか心配したけど、少し暗くなってた顔が元にもどった辺り、どうやらそれで正解だったみたいだ。


「ええ、それはもちろん、こちらに来る前に猛勉強致しましたもの。せっかく知らない国へ行くのに、、言葉のせいで何もできないなんて空しいでしょう?」

「そうですね。……でもそれでここまで喋れるようになるのは、すごいと思いますよ」


 俺の褒め言葉にイネスさんは心底嬉しかったようで、オーッホッホ、とまるで漫画の中の貴族キャラのような笑い声をあげた。……勉強の資料に少女漫画でも使ったのかな?


「ええ! そうでしょう、そうでしょうとも! もっと褒めてくださってもよろしくてよ? ふふっ、アキラは物分かりがいいですね。従者として大事な事ですよ。全く、ワタクシの付き人にも見習ってほしいですわ」


 ……滅茶苦茶嬉しがってる。ちょっとすごい、って言っただけなのに。……あんまり褒められたりして来なかったのかな……? 流石にそんな事聞けないけど。


「こらイネス。あんまりナタリアさんの悪口言わないの」

「ク、クリス?! い、いったいいつから聞いていましたの……!?」

「ドアの前で聞こえてきただけだから、“付き人にも見習ってほしい”って部分だけ。まったく、二人で楽しそうにしちゃってさ。……なに話してたの?」


 クリスが部室に戻ってきた。……俺らを見て、頬を膨らませてる。俺とイネスさんが仲良くしてるのを見て、拗ねてるんだろうか。……いや、さすがにそこまで子供っぽくないか。気のせいだろう……多分。


「別になんでもないですわ。クリスには関係ないでしょう」

「えー。ちょっと晃、教えなさい。ご主人様としての命令よ」

「そ、それは卑怯でしょう!? べ、別に大した話ではありませんわ。ワタクシの身の上話を少ししただけです。……こ、これで良いでしょう?」

「へー、そっかー。イネスがそんな事話すなんて、よっぽど気に入ったのかな?」

「そう言う訳ではなくてですね。これからもお付き合いするわけですし知っている事は多い方が――ってクリス、くすぐらないでくださいっ、ちょっとっ!」


 そんな事を姦しく言い合いながら、引っ付いてじゃれ合う二人。……従者としては、止めた方がいいんだろうけど。俺にそんな事はできなかった。なにせ、久々にクリスらしい一面を見れてるんだから。


「ちょっとアキラ? 乙女の絡み合いをそうまじまじと見るものではなくてよ?」

「あれ、見てたの? もー、いつの間にそんなエッチになっちゃったのかなぁ?」

「……い、いや、その……」


 二人そろってニヒヒ、という感じの意地悪な笑みを浮かべてる。これは、いじられ路線確定かな……


 考えてみれば女二人の間に唐突に現れた男子なのだし、そういう扱いになるのも必然かもしれないけど。


 ……これから、大変そうだなぁ。


 分かってはいても、そうため息をつかずにはいられない俺だった。


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