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花火までのカウントダウン②

「ああもう、じれったいですわねあの二人……。ワタクシ、ちょっと行ってきますわ」

「ステイステイです、センパイ。っていうか、行ってなにするつもりですか」


 晃センパイとクリスセンパイに気付かれないようにこそこそと尾行するアタシとイネスセンパイ。……まったく、なにやってんでしょうね、アタシたち。


「にしても、ホタル? その、なんというか……動きが手馴れてませんこと?」

「ま、昔はよくやりましたから」


 まあ、センパイたちと出会うより前、新聞部として色々やってたころには散々こういうことしてたし、割と慣れっこだ。


「先程間接キスをしたときは大分いい雰囲気でしたのに……。もういつも通りに戻ってしまいましたわ」

「それだけ気楽にいれるんでしょうね、あの二人は。いやー、これはくっつくまで逆にすっごい時間がかかるパターンですかねぇ……」


 なまじ距離感が近いせいで、今以上の関係にならない、なりづらいってやつだろう。……いや、あの二人は単に互いに鈍感すぎるだけな気もするけど。


「“花火が上がるまでに告白する”と言っていたのは何だったんでしょうか、まったく」

「クリスセンパイ、そんなこと言ってたんですか?」

「ええ。昨日聞かせてくれましたわ。だから二人きりにしてあげたんですが……」


 *


 昨日の晩、星之宮家別荘、バルコニーにて――


「……その、笑わないで聞いてね?」

「なにを言ってるんですか。――親友の恋路を笑うものですか」

「そっか。……ありがと」


 まったく、ワタクシがそんな酷いことするはずないでしょうに。


「……告白、したいんだ。この合宿のうちに」

「まあ、予想通りですわね」

「え、うそ?」


 ……というか、もうそれ以外なにもすることないでしょう。既に親友以上の関係な二人ですもの、後することと言ったら告白してめでたくカップルになるくらいしか残ってないはずですわ。


「それで、いつするつもりなんですの?」

「……色々考えたけど。でも、花火大会が一番いいかなって。……花火が上がるまでに告白してさ、恋人同士として、花火をみたいの」

「なるほど。クリスが考えたにしては、中々ロマンティックですわね。……しかし、もう明日ですわよ? 大丈夫ですの?」

「……多分」


 また随分曖昧な返事ですこと。まったく、これでは結局一番大事な時に日和ってしまいそうですわね……。


「はぁ。そんな調子じゃ、なかなか大変そうですわね。……ま、二人きりにはして差し上げますわ。そこからあとは、自分で頑張りなさいな」

「うん。……やるだけやってみるよ。ありがと、イネス」


 *


「とまあ、こんな感じのやり取りを」

「……なんか、結局告白できずに終わるオチしか見えないんですけど」


 少なくとも今の調子じゃ絶対無理だと思う。だって今の二人、見るからにいつも通りだし。


「まあ、それならそれでもいいとは思いますわよ、ワタクシは。……あの二人、なんだかんだ言っても最後の最後にはくっついているでしょうし。それが早いか遅いかの話でしょう」

「ま、それは確かに。……そろそろ晃センパイも動くと思いますし」


 まあ、それは合宿が終わった後、間宮さんに「例の話」を聞いたあとだろうけど。


 例の話。アタシがクリスセンパイの家に転がり込んでいた時に、コッソリ間宮さんに教えてもらったある事実。それは――


 “実はクリスの今のお父さんは、晃センパイとクリスセンパイが付き合ったとしてもなにも言うつもりはないし、むしろ喜んで祝福する”


 そんな、言葉にしてみればとってもシンプルな事実。でも、あの二人はまだそれを知らない。晃センパイは従者という立場を大事にするあまり恋を諦めかけてるし、クリスセンパイも告白が実ったあとにはきっと大変なことになるとは思ってるらしい。……そんなこと絶対あり得ないのに。


「……ほんと、無駄なことで悩んでますよね、あのセンパイがたは」

「そうでもないと思いますわよ? ……恋をすれば、誰だって悩んで、苦しんで、眠れぬ夜を過ごすものですもの。でもきっといつかは、今のすれ違いも、勘違いも、すべて笑い話にできる日が来ますわ。ですから、無駄なことなんかじゃないのです、きっと」

「なんか、実感こもってますね、今の言葉」

「実体験ですから」

「へー。ひょっとして、許嫁の方と何かあったんですか?」

「……ノーコメントですわ」


 そう言われると気になっちゃうなぁ……。ま、無理に聞くなんて無粋なことしないけど。


「そういえばホタル、花火大会まであとどれくらいでしょうか」

「えっと、どれどれ……ありゃ、もう30分くらいしかないですよ」

「もうそんなにですか。……ワタクシたちはワタクシで、花火を見るために移動しましょうか。これ以上尾行していたら気付かれてしまいますし」


 確かに、出店の出てる通りの人も少なくなってきた。多分みんな花火大会を見る為に開けた場所に移動し始めたんだろう。これじゃ、人混みに紛れるのは難しいだろう。


「りょーかいです、センパイ。じゃ、アタシたちは写真部らしく、花火の写真でも撮りますか」

「いいですわね、それ。……綺麗に出来るでしょうか」

「夜景なんで若干コツは必要ですけど、まあ大丈夫じゃないですかね? 場所見つけたらやり方は教えますし」

「ええ、お願い致しますわ」


 さて。……花火の後に合流したとき、二人がくっついてればいいんですけど。


 ――花火が上がるまで、あと三十分。


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