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朝の日差しの下で

 翌日。朝5時半。


「……目が覚めてしまった」


 今日は朝食はイネスさんの担当になってる。だから別にこんな早い時間に起きる必要は全くないんだけど……日頃の習慣と言うのは恐ろしいものだ。


「あ、おはよーございます、センパイ」

「おはよう、八橋さん。……早いね」


 二階の寝室から一階のリビングに降りると、八橋さんが窓の外を眺めていた。前に家に来た時にも言ってたけど、本当に早起きが習慣になってるみたいだ。……って、それは俺もか。


「ま、アタシはいつもこうですから。にしても、ここやっぱり凄いですよね。ほら」


 八橋さんに促されて俺も窓の外に目を向けてみる。


「……確かにね」

「ですよね! こんなに綺麗な景色、中々見れたものじゃないですよっ」


 窓の外には綺麗な湖が一面に広がっていた。朝の陽の光が湖面で反射して、キラキラと輝いている。確かに、普段の日常生活ではなかなかお目にかかれない光景だ。


「ちなみにイネスさんもさっき起きてきましたよ。今はキッチンで食材とにらめっこしてます」

「聞いてなかったけど、イネスさんって料理できるのかな……?」


 イネスさんは生粋のお嬢さまだ。メイドやお手伝いさんに家事は任せっきりの生活をしてきているだろうし、果たしてできるんだろうか。


「大丈夫じゃないですか? じゃなきゃ昨日あんな風にクリスセンパイを煽ったりしてないでしょうし」

「まあ、それはそう、かな?」


 コーヒーでも淹れに行って、様子みてこようかな?


 *


「あら、おはようございます、アキラ。申し訳ないですが、朝食の完成にはまだしばらくかかりますわよ?」

「おはようございます、イネスさん。ちょっとコーヒーを淹れにきただけですから、ゆっくり作っていいですよ」


 八橋さんの言ってた通り、キッチンではイネスさんが何やら冷蔵庫の前で唸っていた。朝食のメニューを決めかねているんだろうか。


「しかし、いざ料理を作ると思うと、これはなかなか難しいものですね」

「……もしよければ、代わりましょうか?」

「別に、料理ができない訳ではないのです。……ただ、見慣れない食材が多いもので」

「ああ、なるほど」


 確かに昨日冷蔵庫を見た感じ、和食に使うような食材が多く入っていたはずだ。フランス育ちで、今もフランスから一緒に来たメイドさんと生活しているイネスさんには少々馴染みの薄いものかもしれない。


「まあ、分かるものだけで簡単に済ませることにしましょうか。……クリスのような失敗はしたくありませんし」

「それがいいと思いますよ」


 流石に朝から出前なんて取りたくないし。


「そう言えば、クリスはまだ起きてないんですの?」

「そのはずです。リビングには八橋さんしかいなかったですし」

「はぁ……まったく、本当にクリスは朝が弱いんですから」


 多分早くて7時前くらいにしか起きてこないだろう。今までの経験上俺はそう思っている。


「ま、クリスが起きる前に出来上がってもしょうがないですし、ゆっくり作らせてもらいますわ。せっかくですし、散歩にでも行って来たらどうです? 一度きただけですが、確かになかなか良いところですよ、この辺りは」

「確かに、それもいいかもしれないですね」


 *


「で、アタシを誘って散歩してるってわけですね」

「そういうこと。ごめんね、付き合わせちゃって」

「いえ、アタシも後で散歩しようと思ってましたし」


 イネスさんの提案どおり、湖畔の遊歩道を散歩することにしてみた。コーヒーをタンブラー入れ、八橋さんと二人きり。ちょっと気まずい……気にしてるのは俺だけみたいだけど。


「いいところですね、ほんと」

「だね。涼しくて気持ちいい」


 流石、避暑地と名高いだけ軽井沢なだけあって、夏真っ盛りなこの時期でも結構涼しい。まあ、朝早い時間だってのも大きいだろうけど。


「そーいえば。……聞きましたか、あの話?」

「あの話?」

「あの晩に話したじゃないですか。あれですよ」


 あの晩。……ぼかした言い方だけど、おそらく八橋さんが俺に告白したあの夜のことだろう。


「ああ。……まだ、聞いてないな」

「そんなとこだろうとは思いましたけどね。まったく、センパイだって思春期の男子なんですから、少しくらい欲望に正直でもいいと思いますけどねー」

「そういう訳にはいかないって」


 それで自分以外に被害が出なければそうするけど。でも、絶対になにかマズいことになっちゃうだろうし。そう都合よくはいかない……はずだ。


「ま、いいですけど。……そういえば、合宿ってなにするんでしょうね。一応部活の合宿って名目ですけど」

「えっと、この辺を散策して写真を撮ったり、皆で学校の宿題を片付けたりするつもり、って言ってたかな」


 まあ、クリスの本音は目一杯遊びたい! だろうけどね。


「あー、宿題ですかぁ……」

「ひょっとして、全然手を付けてないとか?」


 ……ちなみに俺は全然手を付けてない、というか付けられない。宿題にしてはちょっとレベル高すぎませんあの問題集?


「いや、そうじゃなくって。……全部終わっちゃってるんです、もう」

「……マジで?」


 どの学年でも同じくらいの物量が出されるって聞いたけどな……。


「ひょっとして、八橋さんって頭いい?」

「ひょっとして、って失礼しちゃいますね。いちおう、成績優秀で学費を免除してもらってるくらいにはできますよ、勉強は」

「……御見それしました」

「いやいや、それほどでも」


 どうやらホントにとんでもないレベルの天才だったみたいだ。……今度、勉強のコツとか聞いてみようかな。


「まあ、とりあえず今日は夜の花火大会を楽しみましょうっ! そうだ、クリスセンパイと二人で出店巡りでもしてみたらどうです?」

「俺はそうできたら嬉しいけど……。でも多分、クリスは皆で楽しみたいんじゃないかな?」


 俺の返答に、八橋さんははぁ、とため息を吐きながら半ば呆れたような表情になった。……クリスの性格的に、皆でワイワイやりたい、って言いだすと思うんだけどな。


「分かってないですね、センパイは。ま、多分そろそろ気づくと思いますし、黙っときますけど」

「……?」


 ……なんで皆、一番肝心なところは教えてくれないんだろう?


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