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合宿スタート!

「さてっ、とうちゃーくっ!」

「うわ……すごいですね……」

「写真で見たよりずっとでかいな……」


 あれから数日。俺たち写真部は約束通り、長野県軽井沢にある星之宮家の別荘に来ていた。


「イネス以外は初めてだもんね。前に二人で来たのは……中二の時だっけ?」

「ええ、そうですわ。あの時は確か、花火大会を見に来たのでしたわね。……雨で中止になりましたが」

「あー、そうだったね……。まあ、今年は大丈夫そうだし、リベンジしよっ」

「花火大会ですか。いいですね、風情もありますし」


 聞けばその花火大会は明日の夜にあるらしい。天気予報を見る限り、確かに雨は降りそうにない。


「ま、予定とかはとりあえず中に入って荷物置いてからにしよっか。まみやー、荷物おねがーい」

「はい、承知いたしました、お嬢様。すみません、南雲さんもお手伝い頂いてもよろしいでしょうか」

「あ、はい。もちろんです」

「すみません、せっかくのお休みですのに」

「まあ、このくらいは大したことないですし」


 ちなみに、この別荘に滞在する一週間は俺の従者としての仕事も夏休みとなっている。……まあ、特になにか変わるわけではないけど。強いて言えば、早起きして朝ごはんを作ったりしなくても良くなったことくらいだろうか。


「ま、多少は気楽にいれそう、かな?」


 *


 荷物を別荘に運び入れた直後、何やら申し訳なさそうな顔をした間宮さんが話しかけてきた。


「……すみません、南雲さん」

「いえ、事情が事情ですし仕方ないですよ。というか、俺も戻った方がいいんじゃ……」

「さすがにそこまでして頂くわけにはいきません。というか、そんなことしたらお嬢様になんと言われるか」


 今聞いた話を簡単にまとめると、“屋敷に急にお客さんが来るという連絡がきたので、急遽戻らなければならなくなった”とのこと。まあ、それ自体は偶にあるし納得はできるけど、なんともタイミングが悪いなぁ……。


「それに、皆さまのお食事を作る人がいなくなってしまいますし。……その、せっかくのお休みに申し訳ないのですが――」

「いや、大丈夫ですよ。なんとかします」


 聞けば食料はそれなりには用意してあるらしいし、一応スーパーも近くにはあるようだ。まあ、何とかなるだろう。……皆の舌に合うものを作れるかどうかは分からないけど。


「もちろん、最後の日にはお迎えに上がりますので。それまでは、すみませんがよろしくお願いいたします」

「はい、任されました」


 *


「ってわけだから、これから一週間は俺らだけで生活することになった」

「まあ、しかたないですわね、そういう事情なら」

「ですね。クリスセンパイのご両親に迷惑かける訳にはいかないですし」

「だね。もうっ、お父さんも急なんだから」


 とりあえず事情説明。……なんかクリスの反応に若干の違和感が。演技っぽいというかなんというか、まるでこうなることが最初から分かっていたみたいな……。いや、まさかね。


「……まさかとは思いますが」

「どしたの、イネス?」

「……いえ、なんでも」

「へ、変なの」


 どうやらイネスさんも同じようなことを思ったみたいだ。……やっぱり最初からこうなるの分かってたんじゃ。


「でも、そうなると料理とかどうしましょうか。まさか全部晃センパイに任せる訳にもいかないですし」

「え」


 いや、最初っからそのつもりだったんだけど。


「だね。……持ち回りでやろっか?」

「それがいいですわね。でもクリス、あなた料理できますの? 確か昔調理実習でそれはそれは……」

「そっ、その話はダメっ! ……大丈夫、今は晃から教えて貰ったりして少しは出来るようになったから」


 まあ、あの八橋さんを交えたお料理教室のあとも何回か教えたりしたし、多少はできるようになった。……多少は。


「ならいいですけど。アキラはそれでいいです?」

「まあ、皆がそれでいいのなら。元々は俺が全部やっちゃうつもりだったけど」

「それは流石に悪いですわ。特にこの合宿中はクリスの従者もお休みなのでしょう?」

「そーですよ、センパイばっかりに働いてもらう訳にはいきませんって。それに、部員皆でお料理、ってのも中々楽しそうでいいじゃないですか。……まあ、出来はヤバいかもしれないですけど」


 ……まあ、俺が見とけばどうにか食べれるものにはできるだろう、多分。


「じゃ、さっそく今日の夜ご飯は私が作るね。……とりあえず、カレーでも作ってみようかな?」

「……がんばれよ」


 カレーくらいならクリス一人でも何とかなるかな? ルーの裏にあるレシピ通りに作ればとりあえず失敗はないと思うし。


 *


 約3時間後。時刻は夕方の6時。


「……どう?」


 クリスが差し出してきた鍋の中には、もちろんカレー、……カレー? いや、カレーのはずだ。と、頭の中にそんな疑問符がいくつも浮かんでしまうビジュアルのものが入っていた。……これ、食って大丈夫な奴か? まあ、一応味見はしてみよう。ひょっとしたら奇跡的に美味しいかもしれない。


「……これは」

「これは……?」


 うん。なにこれ。形容しがたいというか、名伏しがたいというか……。とりあえず、カレーではないのは間違いない。


「……悪いことはいわない、今日は出前でもとろう。多分ピザくらいあるだろ、イネスさんが納得するかは微妙だけど」


 本日の教訓。……まだクリスに一人で料理をさせてはいけない。


 *


 就寝前に、バルコニーでイネスと二人きり。晃はお風呂で、ほたるちゃんはもう寝てしまった。……イネス、夕食のこと怒ってないかな?


「いやー、ごめんねイネス。結局宅配ピザになっちゃって」

「まあ、あれはあれで中々できる経験じゃありませんし、悪くありませんでしたわ。思ってたよりは美味しかったですし。……少々油が濃すぎるとは思いますが」

「それがいいんじゃん、あれは」


 すっごい久しぶりにあの手のジャンクフード食べたけど、やっぱり美味しいんだよねぇ。普段は絶対食べれないけど。


「さて。……いったい、どこまでが計画の内なんですの?」


 イネスの目がちょっと怖い。というかさては、それを聞くために二人になったな? やっぱり、イネスは察しがいい。


「あー、やっぱバレてる?」

「ええ、ホタルも気づいてますわよ。というか、流石に間宮さんを帰したりしたら気づきますわ」


 って、ほたるちゃんも気づいてるのかぁ。……嫌な気持ちにさせてないかな。目の前で他の女が好きな男子にアタックしてるわけだし。


「その顔。ホタルに悪いとでも思ってるんです? それなら別に気にしなくて大丈夫ですわ。あの子、ワタクシたちよりよっぽど強いですから」

「……あー、なんかわかるかも」


 ほたるちゃん、晃に振られてからまだあんまり日が経ってないのにもう普通に話せてるし。私だったら絶対まだ引きずってるもん。


「というわけですから、なにか考えているのなら全部話しなさいな。……協力しますわよ」


 そう言うイネスの目は本気だ。……どうしようかな。普段の私なら、断ってるだろうけど。でも、もうなりふりなんて構ってられない。もう、絶対に諦めたくないんだもん。


「……その、笑わないで聞いてね?」

「なにを言ってるんです。――親友の恋路を笑うものですか」

「そっか。……ありがと」


 上手くいくかなんて分からない。というか、どれだけ上手くいったとしても結局は晃の気持ち次第だし。……でもだからこそ、せめて悔いだけは残らないようにしたい。


 ――よし、頑張ろう。頑張って、しっかりと気持ちを伝えよう。


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