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早起きは三文の徳

 八橋さんがここ星之宮邸に来て二日ほど経った。


「おはようございます、晃センパイ」

「おはよう、八橋さん。……早いね」


 やっぱり一般家庭とはとても思えない巨大な廊下の真ん中で八橋さんと挨拶。時刻はまだ5時。俺もまだ起きたばっかりなんだけど……八橋さんは、朝が得意なのかな。俺もまだ少し頭がぼーっとしてるのに、見た感じいつも通りだし。


「いつもこの時間に起きてるんです。……その分早く眠くなっちゃいますけどね」

「その方が健康的だし、いいことじゃない? 俺はまだちょっと苦手だけど」


 俺もこの生活になってからの方が元気な気はするし。でも、やっぱり眠いもんは眠いんだよなぁ……。


「じゃあ、俺は皆の朝ごはん作らないといけないから、またね」


 最近は料理の腕も認められてきて、旦那様がいない時の朝食作りは任せて貰えている。この調子で旦那様にも出せるようにならないとな……。とかなんとか思っていると、八橋さんがなにやら言いたそうにしていた。なんかしちゃったかな……とか思ってると、おっかなびっくりといった感じで口を開いた。そんなに緊張するようなことなのかな……?


「セ、センパイ。……その、料理作ってる所、見ててもいいですか? その、料理ってちょっと苦手で。上手い人を見て勉強したいなー、って。ダメ、ですかね……」

「いや、別にいいけど……。そんなに参考になるかな」


 聞いてしまえばたいしたことではなかった。でも、前にクリスにも突っ込まれたが料理に関しては感覚でやってる節があるからなぁ。あんまり人の参考になるようなことはできないと思う。まあ、邪魔になることはないだろうし、厨房に間宮さんが来ることもないはずだから、断る理由はないんだけど。


「ありがとうございますっ! じゃあさっそく行きましょう、センパイッ」


 今日の八橋さん、なんかいつも以上に元気に見えるな……。朝の方がテンション高いタイプなのかな?


 *


「ま、こんなもんかな」


 とりあえず完成。間宮さんがいつも作ってるもの程手の込んだ物は作ってないけど……、まあ、合格点ギリギリくらいではあるかな。


「おぉ……。昨日もいただきましたけど、ほんとに美味しそうですね」

「そうかな? ちょっと失敗したくらいだけど」


 具体的にはオムレツを少し焼き過ぎた。焦げ目がついてるわけじゃないから許容したけど、間宮さんなら多分作りなおしてる。俺もスキルアップすることを考えたらそうした方がいいんだろうけど、どうにも時間の余裕がない。なにせ、今日も普通に学校だし。


「これで失敗扱いですか……。アタシにはこれすらとても作れないんで、よく分かんない世界です……」

「まあ、何度も作ってればその内できるようになると思うよ。俺もそうだったし」


 じいちゃんや間宮さんといった優れたお手本が近くにあった、というのもあるだろうけど。でも、やっぱり一番大事なのは繰り返しやることだ。


「そんなもんですか……。頑張ってみようかな」

「そんなもんだよ。カメラだって、何回も繰り返して覚えるのが一番いい練習方でしょ?」


 これは実際に八橋さんに言われたことだ。何度も撮っていればその内自然に綺麗な写真の撮り方が分かってくる、と。実際その通りだと最近実感してきたので、やっぱり何事も努力が大事なんだろう。


「なるほど……。じゃ、じゃあその、一つ、お願いしても良いですか?」

「なにかな?」

「えっと、明日の朝、アタシに料理を教えて欲しいんです。……ダメですかね?」


 料理を教えるとなると、今日みたいに見てるだけじゃなく、実際に一緒に作るということだろう。うーん、俺自身としては良いけど、間宮さんが許すかなぁ……。


「おや、八橋様。おはようございます。お早いですね」

「あ、おはようございます、間宮さん。すみません、お邪魔でしたか?」


 厨房に間宮さんが入ってきた。おそらく広間の掃除が終わったんだろう。ついさっき初めたばかりに見えたのにもう終わらせているのは、やはり本職のメイドということだろう。


「あの、間宮さん。八橋さんが明日の朝に自分から料理を教わりたいと言っているんですが……。構いませんか?」

「ええ、構いませんよ。もっとも、あまり汚さないことが条件ですが」

「まあ、そこは自分がついてるので。大丈夫なはずです」


 逡巡する様子も一切なく、あっさり承諾を得られた。一応、それなりに信頼は得られているのかな? だとしたら嬉しい限りだ。


「だってさ。じゃあ、明日のこのくらいの時間にやることにしよっか」

「はい! ありがとうございます、間宮さん」

「いえ、せっかく来られているのですから」


 とまあトントン拍子で明日のお料理教室の開催が決定された。……明日、土曜日なんだけどなぁ。本音を言うとゆっくり惰眠を貪りたかったが、可愛い後輩の頼みを断る訳にも行かないし。それに、別に嫌って訳でもないしね。まあ、明日の日中に眠くなるのは確定だろうけど……。


「あーきーらー。ご飯まだー?」

「……クリス。起きてたのか」

「起きてたのか。はひどくない? もうすぐ7時だし、さすがに起きるって」

「げっ、マジだ。……悪い」


 厨房の入り口からひょこっとクリスが顔を出して可愛いらしく頬を膨らませていた。時刻は確かにそろそろ7時になろうとしている。……八橋さんが見ていることもあって、ちょっとゆっくり作ったのが原因かな。


「まあいいけど。……その代わりに、明日のお料理教室、私も参加させてもらおうかな?」

「良いけど、早いぞ。間宮さんに迷惑かけないようにと思ったら、最低でも6時起きだ」

「そんくらい大丈夫! 最近早起きの特訓してるからね!」


 いや、そんな様子は微塵も見受けられないけど……。まあ、そこまでいうんならいっか。人数多い方がにぎやかで楽しいだろうし。


「クリスセンパイも来るんですか?」

「うんっ。……ひょっとして、私がいたらお邪魔かな?」

「いっ、いえっ。全然そんなことないです、はい」


 なーんか妙なやりとりが女子二人で行われているけど……、よく分かんないや。


「南雲さん。……頑張ってくださいね」


 その女子二人を見て、なんとも微妙な表情になった間宮さんがため息交じりにそう言いに来てくれた。……なにかまずいことでもあったのかな?


「ええ、もちろん頑張りますけど……?」

「……なるほど、そういう反応ですか……。これは厄介ですね……」


 よく聞き取れないくらいの小声で、ブツブツとなにか言ってる。珍しい、というか初めて見る様子だけど……やっぱりなにか問題あるのかな?


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