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アタシを泊めてください!

「……はぁ」


 一日の終わりにリビングでダラダラ。家族の目はちょっと鬱陶しいけど、それでもこのフカフカのソファの寝心地には代えられない。……まあ、あんまり堪能できてはないんだけど。主に頭の中でゴチャゴチャと渦を巻いている悩み事のせいで。


 ――今日も、あんまり晃センパイとお話できなかったなぁ……。


 写真部に入ってもう二ヶ月近くが経った。あの時アタシのことを助けてくれたセンパイ。その人の背中を追って、脅迫じみたことまでして入部したけれど……でも、やっぱり面と向かって会話するのはまだちょっと勇気がいる。ほかの女子のセンパイがた二人とはすっかり打ち解けれたのに、晃センパイとだけは中々関係を進展させられない。


「このままだと、やっぱりクリスセンパイとくっつくのかなぁ」


 クリスセンパイもイネスセンパイも超がつくほどに魅力的な人たちだけど、イネスセンパイには許嫁がいるらしいし。となるとやっぱり、主従関係でもあるクリスセンパイとくっつくのが自然だろう。……具体的には聞いてないけど、今ですら単なる主従って仲じゃないみたいだし。


「はぁ……。晃センパイ……」


 自分でもびっくりするくらい自然に、かつ無意識にセンパイの名前が口から出てきた。……こりゃ、かなり重症だ。そう自覚できるだけまだマシかもしれないけど、このままじゃ部室に顔を出すのさえおっくうになってしまいそうだ。


 ――このままじゃ、ダメだ。


 結局進展しないかもしれない、それどころか嫌われるかもしれない。でも、それでも何もしないのは、もっと嫌だ。……うん、そうと決めたら行動しよう。善は急げだ。


「お父さん、アタシしばらく家出するから」

「はいはい、分かった分かった……ちょっと待った、いまなんて?」

「はい言質とった。……大丈夫、来週には戻るから」

「……はぁ、まあいいか。むしろいつも通りで安心したよ、最近元気なさそうだったし。でも、ちゃんと連絡はよこせよ。あと、泊まる場所は嘘つかないように」

「はいはい、分かってる分かってる。……ありがとね」


 でもさ。もちろんすっごいありがたいけど……お父さん、それでいいの?


 *


「あ、もしもしクリスセンパイ? アタシ、ほたるです」

「ほたるちゃん? どうしたのこんな時間に」


 時刻はだいたい21時になろうかという辺り。こんな時間に電話をかけてくるなんて珍しいけど、なにかあったのかな……。


「センパイ、実はアタシちょっと家出をしまして。……センパイの家、しばらく泊めて貰えませんか?」

「うん、別に今週はお父さんもいないし、泊めるのは全然かまわないけど……。って、家出!?」

「あー、いや、別に大丈夫っすよ。なんかあったとかじゃないんで」


 いや普通、家出ってなにかあった時にするものだよね……?


「まあ、その辺の理由とかは、あとで説明するんで……。とりあえずもうお屋敷の近くまで来てるんですけど、大丈夫ですかね……。いやほんと、無理とかなら帰るんで……」


 確かに家庭内でなにかあったりしたわけじゃないみたいだけど……。となると、よほど大事な理由があるのかな。


「大丈夫だって。別に用事もないし、言った通り親は二人ともしばらくはいないし。メイドの間宮は……、まあ断りはしないでしょ。まあそんな感じだから、遠慮しないでいいよ。じゃ、晃を迎えにやるから、ちょっと待っててね」

「……あ、は、はいっ。分かり、ました」


 なんか急に声色に緊張が。……晃と会うからかな。いや、それが嫌ならうちになんて来ないか。


「あぁ……。そういうこと」


 ワンテンポ遅れて、今のほたるちゃんの反応の理由を察した。さてはほたるちゃん、晃に会いに来たな。うん、なかなかの行動力だ。これは負けてられないな。


 ――いや、なんの勝負?


 *


「っていう訳なんです……。ほんと急ですみません……」

「いやいや、別に良いって。……にしても、ほたるちゃんにそこまでの行動力があったとはねー。お姉さんちょっとびっくり」

「けっこ―自分でもびっくりしてます……。友達の家に何日も泊まったりとかはたまにしますけど、ちょっと今回はレベルが違うんで……」

「まあ、好きな男子の家に転がり込む訳だからねー。そりゃ勇気も必要だよね」


 とりあえず自室でほたるちゃんから家出の理由を聞いたけど、やっぱりさっき察した通りの理由だった。その行動力は確かにすごいけど、多分ほぼずっと私も一緒にいるのは良かったのかな……?


「いやぁ、それにしてもこのお宅すごいですね……。映画のセットか何かみたい」

「あはは、分かる……。もう慣れたけど、最初は落ち着かなくって仕方なかったよ」


 メイドはいるし、晃という従者もいるし、快適この上ないのは間違いないけど。でも、これに慣れ切ってしまうと人間としてダメになってしまう気がしてちょっと怖い。果たして今後普通の生活に戻れるんだろうか……。いや、現状戻る必要も予定もないんだけどさ。


「まあ、必要ならお手伝いとかも全然するんで、今週いっぱいくらいまでいさせてもらえると嬉しい、です」


 ペコリとお行儀よくお辞儀するほたるちゃん。べつにそんなにかしこまらなくてもいいんだけどなー。センパイとは言っても、友達なんだし。まあ、それだけ慕ってくれてるのは嬉しい。特にほたるちゃんって、嫌な相手には例えそれがセンパイだろうと辛辣な態度をとる子だし。


「大丈夫だって。うちはメイドも従者も超優秀だからね。それよりも、ちゃんと晃と仲良くなれるといいね」

「はっ、はいっ! よろしくお願いします!」


 とまあこんな感じで、ほたるちゃんがしばらくうちに泊まることになりましたとさ。


 ――晃のやつも、これでいい加減、ほたるちゃんの気持ちに気づくかな?


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