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将来の話①

「ふわぁ……。あれ、イネスセンパイ? あけましておめでとうございますー。……珍しく早いですね」

「あけましておめでとうございます、ホタル。……にしても、もう朝なのですね」


 一月一日。そんな特別な日でもいつも通り早朝に起きだしたアタシは、広間でなにやら物憂げな表情をしているイネスセンパイを見つけた。


「どうしたんですイネスセンパイ。……なんかあったんですか?」

「いえ、そんなことは……。いや、ホタルに隠しごとをする必要はありませんわね」


 やっぱりなにか悩みごとがあるみたいだ。イネスセンパイらしくない元気のない様子を見ると、結構深刻な悩みなようだけど……。


「そうですよ。解決はできないかもですけど、相談相手くらいにはアタシでもなれますから。……ま、アタシはただの後輩ですし、頼りないかもですけど」


 アタシは他のセンパイ方と違って、お金持ちなわけでもないし、なにか人の為になるような能力があるわけでもない。でも、大好きなセンパイがなにかに悩んでいるのを黙って見過ごせるわけない。


「そんなことないですわよ。ホタルがワタクシのことを想ってくださっていることはよく知っていますもの。……もちろん、ワタクシも同じですけどね」

「あはは、レオンさんには負けますけどね。……っていうか、そのレオンさんはどうしたんですか?」


 昨夜は確かレオンさんとイネスセンパイ、あとナタリアさんの三人で出掛けてたはず。ナタリアさんはさっき厨房に入っていくのを見かけたけど、肝心のレオンさんの姿が見えない。


「レオン様はご実家に戻られましたわ。新年の行事が建て込んでるとのことで、お忙しそうでしたわ。……はぁ」

「……ひょっとして、イネスセンパイの悩みごとってレオンさん関係なんですか?」


 イネスセンパイのあからさまなため息で、アタシにも悩みの原因がちょっと分かってしまった。


「まあ、そんなところですわ。……聞いてくださいますか?」

「もちろんです。ま、助けになれるかは分かんないですけどね」

「構いませんわよ。誰かに話すだけでも、だいぶ楽になれますから。……それに、ホタルは自分で思っているよりずっと頼りになりますもの」


 なんかちょっと過大評価されてる気がするけど……、まいっか。


 *


「実は昨夜は、レオン様と一緒にレオン様のご実家に赴いていたのです」

「え、マジですか」


 アタシはてっきり他の貴族の家のパーティーかなにかに参加しに行ったのかと思ってたけど、実際はもっととんでもない所に行っていたみたいだ。


「ええ。もともと訪問する予定ではありましたし、いつも通りお互いの近況報告をするだけのつもりだったんですけれど……」

「ひょっとして、結婚の話でも出ちゃったんですか……?」


 イネスセンパイがここまで悩んじゃうような話となると、アタシにはこれくらいしか思いつかなかった。そして、そんなアタシの予想は……、


「……まあ、そんな所ですわ。留学を終えてフランスに戻ったら、すぐにでも籍を入れないか、と言われてしまいましたわ」

「それはまた、唐突な話ですね……。でも、イネスセンパイって別に結婚したくない訳じゃないですよね?」


 イネスセンパイとレオンさんの仲の良さは折り紙つきだ。アタシが二人の様子を見た限りでは、仮に今すぐ結婚したとしてもなんの問題もなさそうに見えるくらいだ。


「それはまあ、そうですけども……。結婚してしまったら、そのあとはかなり忙しくなるはずですもの。ですから、レオン様には申し訳ないですけど、その……」

「そっか、貴族同士の結婚ともなれば色々しがらみとかありそうですもんね……。大学にも行けないかもしれない、ってことですもんね」


 普通なら、高校を卒業した後は大学に行くはずだし、それは日本でもフランスでもほぼ同じはず。だからイネスセンパイも、留学から戻ったらフランスの大学に通うつもりでいたはずだろう。……でも、留学が終わってから即結婚となれば、大学に行くことも、友達と楽しい時間を過ごすことも出来なくなるかもしれない。


「もちろん、レオン様ならばある程度便宜を図ってくださるとは思いますわ。それでも、ワタクシが思い描いていたような生活は送れないでしょうね」

「だから悩んでる、ってことですか……。レオンさんのご実家の言う通り結婚するか、断って大学生活を送るかを」

「ええ。ご実家の方々も、この提案を断ったからと言って許嫁の話自体をご破算にするつもりはないようですから、断っても問題はないでしょうが……」

「まあ、そう言われても悩みますよね……」


 イネスセンパイだって、最終的にはレオンさんと結婚するつもりでいるはず。だから、悩んでるのは大学に行くことができなくなることを危惧してるんだろう。


「こんなこと聞かれてもホタルも答えられないかもしれませんが……。その、ホタルだったら、どのように返答いたしますか?」

「うーん、アタシは多分そんな状況に置かれることなんて未来永劫ないんでイマイチ想像しにくいですけど……。でも多分、アタシだったら断っちゃいますね」

「なるほど、ホタルは断るタイプなのですか……」


 もちろん、いざ実際にそんな状況に置かれたらイネスセンパイみたいに悩みまくると思うけど。……でも、最終的には、“断る”という結論にたどり着くと思う。


「そうですね。大事な恋人と結婚することはもちろんすっごい幸せなことですけど、やっぱり他のことも楽しみたいですもん。断ったせいでご破算になっちゃうなら断りませんけど、そうじゃないなら断りますね。……もちろん、ご実家の人に誠心誠意自分の思いを伝えてから、ですけどね」

「……流石ホタルですわね。……きっと、ワタクシ一人で悩んでたら断れなかったと思いますわ」

「いやいや、イネスセンパイならアタシなんかがいなくても納得のいく答えにたどり着けてますって。……っていうかつまり、イネスセンパイ的には断りたい、ってことなんですか?」


 今の物言い的に、多分そういうことなんだろう。……そりゃ、イネスセンパイだって大学生活を満喫したいだろうし、そう思うのも当たり前だろう。


「そう、ですわね。レオン様も、“イネスのしたいようにしていい”と言ってくださいましたし。ただ、それでも迷惑をかけてしまうと思うと、やはり悩まない訳にもいかず……」

「レオンさんがそう言ってるんなら、もう悩む必要なんてないじゃないですか。レオンさんはきっと、イネスセンパイに悩んで欲しくなくてそう言ったんでしょうし」


 イネスセンパイのことだから、レオンさんに迷惑を掛けないようにしたいとか考えちゃって余計に悩んでたんだろうな……。せっかくなんだから甘えられるところは甘えたらいいのに。


「――そうですわね。……今回の話は断ることに致しますわ。ありがとうございます、ホタル。あなたのおかげで、自分の思いに正直になれましたわ」

「いえいえ。イネスセンパイにお礼を言われるようなことはしてないですよ。……じゃ、悩みも解決したことですし、近場の公園にでも行きませんか? そろそろ日が昇る時間ですし」

「初日の出ですわね! ええ、是非見に行きましょう。間宮さんとナタリアも呼んできますわねっ!」


 悩みが解決したことが余程嬉しかったのか、誕生日プレゼントを渡した時以来のハイテンションになっているイネスセンパイ。……あれ、でも今、ナチュラルにクリスセンパイと晃センパイの名前を呼んでなかったような?


「えっと、クリスセンパイと晃センパイはいいんですか?」

「ああ、あの二人はもう出かけてますもの。ホタルが起きだしてくる少し前に、二人で出かけましたわ。……ふふっ、クリスったらようやく決心ができたようですわね」

「あの二人にしては随分早朝から行動してるんですね……。っていうか、クリスセンパイの決心、って?」


 イネスセンパイの言葉に疑問を覚えて、そう聞いてみると――


「ふふっ、知りたいですか? 実はですね――」


 実に楽しそうな笑顔で、クリスセンパイの最近の悩みを教えてくれた。


「……ふふっ、そんな話があったんですね。ほーんと、クリスセンパイって意外とそういう所は臆病さんですよねー」

「まったくですわね。まあ、ワタクシが言えた話じゃないですが。さて、あの二人は上手くやってるんですかね……」

「ま、大丈夫じゃないですか? あの二人ならなんとかなるでしょ」


 とまあ、非常に楽観的に会話をするアタシとイネスセンパイ。……まあ、楽観的になれるくらいにはあの二人はベッタベタに仲良しだし、大丈夫だろう。


「でも、皆将来のことを考えてるんですね……」


 アタシは、まだまだ先の話だと思って考えてなかったけどなぁ……。アタシも、そろそろ考えた方がいいのかな?

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