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ガールズ・トークⅪ

「あれ、そーいえばレオンさんは?」

「レオン様なら先程お出かけになられましたよ。なんでもパリにいるお知り合いと会うことになったとかで」


 イネスにプレゼントを渡し終え、今このイネスの部屋にいるのは私とイネスの二人だけになった。あっくんは自分の部屋に戻ってて、ほたるちゃんは間宮に用事があるとかで広間の方に行っている。


「なんか、二人きりは久しぶりな気がしますわね」

「だね。つい一年前まではこれが当たり前だったのに、今じゃなんか物足りない気がするかも。……もちろん、イネスと二人きりでも楽しいのは楽しいけどね?」

「ふふっ、もちろん分かっていますわよ。それに、ワタクシも同じことを思っていましたし」


 ――この一年、本当に色んなことがあった。あっくんがウチに来て、従者になって、ほたるちゃんという新しい友達もできた。……ついでに言えば、初めての恋人も出来た。


「ははっ、なんか湿っぽくなっちゃったね」

「もう今年も残りわずかですからね。たまにはこうして思い出を振り返るのも悪くありませんわ」


 クリスマスも終わった訳だし、もう今年も一週間を切っている。すっごい楽しい一年だった分、いつも以上にあっという間だった感じがする。……きっと、来年はもっとあっという間なんだろうな。でも、今年よりもっと楽しいはず。


「そういえばクリス、アキラにはもう言いましたの?」

「ううん、まだ。……やっぱり、ちょっと怖くって」


 フランス旅行に出発するより前に、イネスにこっそり明かした私のあっくんへの思い。あっくん本人に言う前に、イネスに相談してみた時は、


『気持ちは分かりますが、アキラにも夢や考えがあるでしょうからね。キチンと話し合いをしなさいな』


 と至極当たり前な返答だったんだけど……、未だに話を切り出すことはできてない。


「アキラなら頭から拒否したりはしないでしょうから、そんなに怖がる必要はないと思いますわよ? いえ、気持ちは分かりますけども……」

「それは分かってるんだけどね。“ごめん”って言われるのも覚悟してる。……どっちかというと、無理して“いいよ”って言いそうな気がしてさ」


 自分でこんなこと言うのもアレだけど、あっくんは本当に私のことを大好きだと思ってくれてるし、愛してくれてる。もちろんそれはすっごい幸せなことだけど……、そのせいであっくんがホントの気持ちを隠してる気もして、ちょっと不安だったりもする。


「それは……、ないとは言いきれませんわね。アキラはクリスの為ならなんでもしてしまう所がありますから」

「だよねぇ……。もちろん嬉しいけど、私の為に自分の人生まで曲げて欲しくないし……」


 そう、今回あっくんに話したい内容は今後の人生を大きく変えかねないような話なのだ。だからこそ早く話さないといけないんだけど……。やっぱり怖いものは怖い。


「でも、話さないのは違うと思いますわ。どうせ後でバレますし、そうなったらアキラはきっと悲しむと思いますわよ」

「……うん、それも分かってるつもり。だからフランスにいる間には言うよ、……多分」

「多分じゃダメでしょうに。……まあ、応援していますから頑張りなさいな」

「ありがと、イネス。……じゃ、お悩み相談はこんくらいにして、私はシャワーでも浴びてこよっかなー」


 あんまりずっと悩んでても仕方ないし、気分転換も兼ねて。もちろん、いますぐあっくんの部屋に突撃して話しちゃう方がいいんだろうけど……、残念ながらそこまでの勇気はなかった。


 *


「あ、間宮さーん。お片付け中ですか?」

「おや、八橋さん。イネスさんにはもうプレゼントを渡したのですか?」

「はいっ。正直ちょっと不安だったんですけど、喜んでもらえましたっ」


 イネスセンパイに誕生日プレゼントを渡した後、広間に戻ってきたアタシ。ちょっと間宮さんと話がしたくて戻ってきたんだけど、どうやら絶賛お仕事中みたいだ。


「よかったですね。……そういえば、私になにか御用ですか?」

「あれっ、バレてる?」

「ふふっ、その表情を見ればなんとなく分かりますよ。もう仕事も終わりますから、紅茶でも飲みながら聞きましょうか」


 ……アタシ、そんな分かりやすい表情してた? まあ、用件を伝える手間が省けたし結果オーライってことにしておこっかな。


「まあ、大した話じゃないんですけどね。……ちょっとお願いしたいことがありまして」

「お願い、ですか?」


 まあ、そのお願いもちょっとした思いつきみたいなものだけど。


「はい。その……、間宮さんに余裕ができた時でいいんですけど。今度、アタシにメイドさんの仕事を色々教えて欲しいんです」

「メイドの仕事を?」

「そうですそうです。まあ、平たく言えば家事のしかたを教えて欲しいってことなんですけど」

「なるほど。……しかし、なぜ私に教えて欲しいんですか?」


 まあ、いきなりこんなこと言われたらそう思うよね……。でも、もちろん理由はちゃんとある。


「間宮さんは知ってると思うんですけど、アタシって正直家事全般が全然ダメなんですよ」

「それで、家事を教えて欲しい、と」

「はい。……アタシお母さんいないので、そういうのを教えて貰える人が身近に中々いなくって。お父さんはその辺ずぼらですし」


 お父さんは料理はほとんどしないし、他の家事も最低限しかしない。だからアタシの教えて欲しい知識はほとんど持ってないのだ。


「しかし、そういったものを教えて貰うのならそれこそ南雲さんが適任なのではないですか? 彼も家事の腕は折り紙つきですよ?」

「それは知ってるんですけどね。……でもまあ、晃センパイのクリスセンパイとの時間を奪うのは悪いんで」


 ……あと、晃センパイと二人きりになるのはまだちょっと緊張するし、複雑な気分になっちゃうから。


「――そういうことですか。……はい、構いませんよ。私なんかでよければ」

「もちろんですよっ。よろしくお願いしますっ!」


 ……間宮さんからの返答にちょっとの間があったのは、気にしないでおこう。


「ふふっ、せっかくですしフランスから戻ったら屋敷でメイドのバイトでもしますか? 最近少し人手が欲しいと思ってた所ですし」

「えっ、そこまでして貰うつもりはなかったんですけど……、いいんですか?」

「はい。旦那様や奥様に聞く必要はありますが、多分大丈夫でしょう」


 なんか思ってたより話が大きくなっちゃったけど……、まあせっかくだし厚意は受けとっておこっかな。結構楽しそうだし。


「じゃあ、お願いしますね、間宮さんっ」


 ……実は、家事を教えて欲しい理由はまだ他にもあったりするけど……、それは間宮さんには秘密にしておこうかな。だって――


 ――いつかできるかもしれないアタシの恋人の為に、なんて言えないじゃん?

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