表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
120/128

イネスさんへネタ晴らし

「……なるほど。それでワタクシにプレゼントを買う為に皆で外出していたという訳ですか。はぁ……、ワタクシも間が悪いですわね……」


 あの後、イネスさんからの追及から逃げられないと判断した俺たちは、近くにあったカフェでお茶を飲みながら全てを白状した。それを聞いたイネスさんはなんとも苦い表情をしている。……まあ、サプライズ計画を暴いてしまった訳だし、バツが悪いと思っても仕方ないか。


「えっとその……、ごめんね、イネス。イネスがこういうの苦手なのは知ってるんだけど、やっぱりプレゼントくらいは贈りたくってさ」

「ふふっ、別に怒ってはいませんよ。皆さんの想いは純粋に嬉しいですわ。……どちらかというと、その場面に出くわしてしまった自分が悪い訳ですしね」


 そう言うイネスさんの表情は確かに嬉しそうだ。本当に祝われるのが嫌ならこんな表情はしないはずなので一先ずホッとした。これならプレゼントを渡したとしても喜んでくれるだろう。


「もうバレちゃったんで聞いちゃいますけど、イネスセンパイはプレゼントでなにを貰ったら嬉しいです?」

「そうですわね……、まあ皆さんからのプレゼントならなんでも嬉しいですけど……。強いていうなら、思い出として取っておけるようなものの方が今のワタクシとしては嬉しいですわね。……あまり言いたくはないですが、ワタクシはずっと日本で暮らせる訳ではありませんから」

「思い出として取っておけるもの、ですか……。なかなか難しいオーダーですね……」

「別に難しく考えなくても良いですわよ? 最初に言いましたけど、皆さんからのプレゼントならなんでも嬉しいですから」


 そう言ってから、イネスさんは静かに立ち上がった。対する俺たちはまだ紅茶を飲み終わってすらない。普段は俺たち以上にゆっくりと飲むことの多いイネスさんにしては珍しい。


「――では、ワタクシは一足先に屋敷に戻っていますわね」

「あれ、一緒に来ないの?」

「ワタクシとしてはそれでも良いですけど、それだと逆にプレゼントを選びずらいでしょう? ですので、ワタクシはこれで一旦退散しますわ」

「……そっか。じゃあ、皆でとびっきりのプレゼントを用意するから、楽しみにしててねっ!」

「ええ、楽しみにしてますわ。それでは、お先に失礼しますわね」


 そう言って、イネスさんは一足先に屋敷へと帰っていった。なんともイネスさんらしい気遣いだ。


「はぁ、イネスセンパイ滅茶苦茶楽しみにしてますよね……。期待が重いです……」

「ははっ、あんまり難しく考えなくてもいいんじゃない? イネスも言ってたでしょ、なんでも嬉しい、って」

「それはそうですけどー。でも、こうも言ってたじゃないですか、“思い出としてとっておけるものがいい”って」


 八橋さんはイネスさんへのプレゼントに頭を悩ませている様子だ。まあ、俺もそれは同じなんだけど……。なにせクリス以外の女の子にプレゼントを贈ったことなんてほとんどないので、どんなものが喜ばれるのかなんて全く分からない。


「あはは、二人とも悩みすぎ。難しく考えなくてもいいと思うけどなー。……そうだっ」


 悩む俺らを見かねたクリスが、なにやら思いついたことを俺らに教えてくれた。


「……そっか、そういうのでもいいんですね」

「っていうか、そのほうがイネスは喜ぶんじゃないかな?」

「確かに。……よし、決めた」


 クリスのアドバイスのおかげで、なんとかプレゼントの方針を決めることができた。これならきっと、イネスさんも喜んでくれるはずだ。


 *


「ただいま戻りましたわ」

「――あら。お帰りなさいませ、イネスさん」

「ええ、ただいまですわ、間宮さん」


 クリスたちと別れ、屋敷へと戻ったワタクシを間宮さんが出迎えてくれた。


「ふふっ。……どうやら、お嬢様たちに会ったみたいですね」

「……なぜそれを?」


 ワタクシの表情を見るや否や、先程起こったばかりのことをすぐさま見破った間宮さん。……相変わらずの観察眼ですわね。


「その表情を見れば、なんとなく察することはできますよ。今のイネスさん、出かける前より嬉しそうにしてますから」

「……そんなに顔にでていますか?」

「ええ。多分、私でなくても大抵の人は気づくでしょうね」



 ……どうやら、今のワタクシは本当に分かりやすい表情をしていたようだ。


「嬉しいのは嬉しいんですけど……。ワタクシへのプレゼントであそこまで盛り上がる必要はないと思うのですよね……」

「皆さんイネスさんのことが大好きですからね。本当に喜んで欲しいんですよ」


 友人としての“大好き”なのはもちろん分かっているけれど、その単語に思わず顔が熱くなる。……もちろん、ワタクシ自身も皆のことは友人として大好きだけど、それをこうもストレートに言われるとこんなにも恥ずかしいものだとは。


「ふふっ、青春ですねぇ……」


 ワタクシの表情を見て、遠い目をしながらそんなことを呟く間宮さん。こんなこと言うと間宮さんに怒られるだろうけど……。正直、初めて間宮さんが年齢相応の女性に見えた瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ