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新入部員は恋する少女

「――と、いう訳で、今日から我らが写真部に入部することになった、八橋ほたるちゃんでーすっ!! 二人とも、ちょーっと変わった子だけど、優しくしてあげてね」

「よ、よろしく。……っていうかセンパイ、変な子ってどういう意味ですか?」

「あははー、気にしない気にしない」


 あの手紙が届いた翌日。……どういう経緯があったかは一切知らないけど、その手紙の差出人が写真部に入ることになった。


「ほたるさん、ですわね。よろしくお願いいたします。ワタクシの名前は……」

「イネス・フランソワ・ラ・マリニャーヌさん。ですよね、センパイ? よろしくお願いしますねー」

「え、ええ。よろしくですわ」


 イネスさんもまさか自分のフルネームをまったくの初対面の人に一字一句違わず暗唱されるとは思っていなかったようで、口をポカンと開けてる。かくいう俺もちょっとびっくりした……だって、この子確か――


「それと。……お、お久しぶりです、南雲センパイ。この前は、どうも」

「うん。よろしく。……驚いたよ。えっと、その……まさか君が写真部の部長だなんて」

「おや? アキラはこの子のことを知っているのですか?」

「うん。この前、ちょっとね」


 ついこの前、ちょっとした縁で少し話した事のある子だ。……内容は話せないけど。一応、二人の秘密、ってことになってるし。あの時は名前も学年も知らない子だったけど、まさか二つも年下だったとは。


「しかし、なぜこうなったんです? 昨日二人で何か話したんでしょうが……。クリス、説明なさいな」

「えー。ひ、み、つ。誰にも、特に晃には昨日のことは絶対話さない、ってほたるちゃんと約束したもんね」


 目を合わせてなにやらニヤニヤするクリス、と顔を真っ赤にしてその目線から逃げようとする八橋さん。……いったい何があったのやら。


 *


 時は一日程巻き戻り、場所は新聞部部室にて――


「え、えっとっ、そのっ……!! ア、アタシに、南雲センパイをください!!」

「……はい?」


 そんなほたるちゃんの唐突かつあまりに予想外の答えに、私はつい声に出してそう返してしまった。


「だからっ! 南雲センパイをアタシにくださいって言ったんです!」

「いや、言ってることは分かるんだけど……。なんで晃?」


 晃の事知ってるのは、まあ分かる。同じ学校な訳だし、私の従者をやってるってことが原因で一時期話題にもなってたりしたし。そういうゴシップネタが大好きなほたるちゃんなら、知っててもおかしくはない。……でも、なんで晃を欲しがるんだろう。


「えっと、その……。な、内緒です」


 熱でもあるんじゃないかというくらいに真っ赤な顔で、普段からは想像もつかないくらいもじもじしながらそんな事を言うほたるちゃん。あー、そういうことか。


 何があったか知らないけど、どうやらほたるちゃんは晃に恋をしているみたいだ。まあ、あいつ誰にでも優しくしちゃうとこあるし、ふとした拍子に相手をそういう気にしたりしてても何にもおかしくないけど。


「おっけー。聞かないことにしとくよ。乙女の秘密だもんね。……でも、晃は別に私の所有物って訳じゃないしなぁ。くださいって言われて、はいどうぞ、とかはできないんだよね」

「そ、そうなんですか? でも、クリスセンパイの従者なんじゃ……」

「それはそうだけどね。うちで雇っているだけだから、私の物、って訳じゃないの。そもそも、人間を所有物に、なんて今の日本じゃできないし」


 雇い主だって私じゃなくてお父さんだしね。だから私に晃をどうこうする権利はないのだ。


「そっか……」

「あはは、そんなに晃のこと好きなの?」

「べっ、別に好きとかそんなんじゃないですからっ! 誓って違いますからっ!」


 うーん、やっぱりかわいー。真っ赤な顔で照れながらも必死に「違いますっ!」って連呼してる。別に晃のことが好きならそう言ってくれていいのに。協力するんだけどなー。


 ……ん?


 そんなことを思った瞬間、心の中にちくちくした痛みが走った気がした。……なんだろ、今の?


「どうしよ……南雲センパイを手に入れることはできないっぽいし、かといってクリスセンパイの秘密を暴露しちゃうのも……」


 いつもの尊大な態度はどこへやら。いまここにいるのは、どうやって好きなセンパイとお近づきになれるかを考えている、恋する一人の少女だった。この子もなんだかんだ言って普通の年頃の女の子なんだなぁ……。


 うん。年上のお姉さんとして、ここは一肌脱いじゃおっかな。


 相変わらずちくちくし続けてる心をあえて無視して、私はそうすることに決めた。だって、悩める後輩をほっとくなんてできないもんね。


「ね、ほたるちゃん。なら、私達の部活に入るのはどうかな?」

「写真部に、ですか……?」

「うんっ! そうすれば自然と晃と一緒にいれる時間も増えるし。それに、ほたるちゃんってカメラ使えるでしょ? 私たちに教えて欲しいなー、って」


 まんざらでもない表情でわざとらしくうんうん唸ってるほたるちゃん。そんなバレバレの見栄はらなくていいのに。


「ふふっ。そうですね、アタシの物にできないと言うのなら、それで妥協するしかないですね。いいですよ、その提案を呑みましょう。秘密を暴露するのは止めてあげます。まあ、カメラの使いかたくらい、テキトーに教えてあげますよ」


 *


「ってわけなの」

「ふーん。そうですのね。しかし……良いのですか、クリス?」


 この日の夜。ほたるちゃんの恋にも協力して欲しいし、イネスには説明しとこうと電話をかけてみた。もっと驚くと思ったけど、意外にすんなり納得してくれた。……にしても、良いのですか? ってどういうことだろ?


「えっと、なにが?」

「……はぁ。いえ、気づいてないならいいのです。まあ、あとで後悔しても知りませんよ、とだけ言っておきますが」

「……?」


 ほたるちゃんを部活に入れて後悔するなんて、ありえないと思うけどなぁ……。どういう意味なんだろ。


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