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クリスマスの朝

 ――クリスマスの朝。普段よりかなり遅い時間に目が覚めた俺の視界に入ってきたのは、


「なんでここにいるんだ……?」


 昨夜しっかりベッドで寝ていたはずなのに、なぜか俺が寝ていたソファに窮屈そうに丸まって寝ているクリスの姿だった。


「おーい、クリスー? もう昼前だぞー」


 いまだ起きる様子のないクリスの頬を指で突っついて起こそうとしてみたけど、起きだしてくる気配はない。……仕方ない、もう少し寝かせておいてあげよう。なんだかんだ昨夜もかなり遅くまで起きてたし。


 *


「おはよーございます、センパイ。珍しいですね、寝坊なんて」

「おはよう、八橋さん。……まあ、俺だって偶には寝坊くらいするって」


 クリスを抱えてベッドに移動させてあげてから、一階の広間に移動してきた俺。広間には既に八橋さんもイネスさんも降りてきていて、なにやら楽し気に喋っている様子だった。


「あら、クリスはまだ寝ているのですか?」

「ああ、起こしてみたんだけど全然ダメだったからさ。……あれ、イネスさんなんかあった?」


 気のせいかもだけど、イネスさんの表情がいつもより尖ってる気がする。聞いていいことかは分からなかったけど、もしなにかあったのなら友人として助けになりたいし……、と考えて聞くことにした。


「……ええ。でも気にしないでくださいな。大した問題ではありませんから。……ええ、本当に」


 とても大した問題ではないようには見えない表情で、妙に穏やかな口調でそう言うイネスさん。


 ……うん、これは触れない方がいいやつだな。……それが俺とイネスさん両方の為だろう。


 そう瞬間的に察した俺は、早々に話題転換を図ろうとしたのだけど――


「イネスセンパイってば、レオンさんがナタリアさんと実家に行っちゃったのに嫉妬してるんすよ。もー、あの二人なら変なことにならないの分かり切ってるんですし許してあげていいんじゃないですか?」


 八橋さんが全てを話してしまった。……そういえばナタリアさんとレオンさんの姿を見てなかったけど、まさかイネスさんの実家まで行っていたとは。昨日そんな話をしていた記憶はないし、唐突にどうしたんだろう?


「それは分かっていますわ、ホタル。レオン様のことですし、決してそんなこと起こるはずはないですもの。……ワタクシはただ、なぜワタクシを連れて行って下さらなかったのか気になっているだけですわ」

「まあ、それもちゃんと理由はあるっぽいんで許してあげてくださいよ」

「……ホタル、実は理由を知ってたりするのではありませんか?」


 そう言われて明らかに動揺する八橋さん。……どうやら、イネスさんも知らない理由を知っていることは間違いなさそうだ。


「はぁ。ま、いいですけどね。レオン様とナタリアのことですもの。ちゃんと理由はあるに決まってますわ」


 まだ少し拗ねてる気はするけど、そう言うイネスさんの表情はほとんどいつも通りの様子に戻っていた。まあ、あのレオンさんがイネスさんの気持ちを裏切るような真似するとは思えないし、ちゃんと理由があるのは間違いないだろう。


「それに、ワタクシが怒ってるのはそこではないですから。……本当、レオン様は口下手が過ぎますわ。朝目覚めてすぐあんな手紙を読んでしまったワタクシの身にもなって欲しいです、もうっ」


 ……とうとう怒ってるって自分から認めてしまった。レオンさん、一体どんな置き手紙を残してしまったんだろう……?


 *


「まあ、レオン様のことは置いておきまして、今日はどうしましょうか。昨日と一昨日でパリの周辺は一通り回りましたし、少し遠出でもしようかと思ってたんですけれど……」

「もうお昼ですからねー。流石にいまから遠出するのはちょっと厳しいですよね」


 話は変わって今日の予定を話す俺たち。といってもクリスはまだ起きてないけれど。


「昨日は散々遊び倒したし、ちょっとゆっくりするのもありじゃないかな」

「ま、アキラセンパイの言う通りゆっくりするのもいい気がしますね。まだしばらくフランスにいる訳ですし、ゆっくりする日があってもいいと思いますよ」

「そうですわね。クリスもまだ起きてくる気配ありませんし、そうしましょうか。……今日がクリスマス当日だっていうのが少し勿体ない気もしますけど」


 ……そうだった。昨日散々クリスマスパーティーをしたせいでちょっと忘れてたけど、昨日はクリスマスイブでクリスマスは今日、12月25日だ。


「まあ、皆さんでゆっくり過ごすクリスマスというのも中々いいものだと思いますよ。大人になってしまうと、中々そういう時間を過ごすことは難しくなりますからね……」


 俺たちの会話を聞いていたらしい間宮さんが、少し遠い目をしながらそんなことを呟く。間宮さん、クリスマスになにかそういう思い出でもあるのかな……?


「じゃあまあ、今日はゆっくりのんびり過ごすってことで。さてっ、クリスセンパイが起きてくるまでアタシも部屋でゴロゴロしてよっかなー」

「ワタクシは、少し散歩でもしてこようと思いますわ。クリスマスの雰囲気を少し味わっておきたいですし」


 八橋さんもイネスさんもこれからの行動の方針を決めたようだ。


 ……さて、俺はどうしようかな。

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