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クリスマスプレゼント ―イネスとレオンの場合―

 

「おかえりなさい、レオン様。……どうでしたか、アキラと話してみて」

「ただいま、イネス。ああ、とても楽しく話せたよ。本当に、イネスはいい友人を持ったな」


 アキラと話す為に広間にいたレオン様が戻ってきた。二人がどんな話をしたのかは分からないけれど、レオン様の表情は満足気だ。少なくとも、楽しい会話であったことは間違いないだろう。


「……ええ、本当に。皆さん、ワタクシにはもったいないくらい素晴らしい方たちですわ」


 クリス、ホタル、アキラ。……ワタクシのかけがえのない友人。ワタクシの生涯で、これ以上の良い出会いはないだろうと思ってしまうくらいには、皆素晴らしい人たちばかりだ。


「きっと、あの子たちもイネスのことを同じように言うんだろうな。……本当に、いい仲間たちだね、キミたちは」


 レオン様が優しく微笑む。……でも、その笑顔が少しだけぎこちなく見えたのは、きっと気のせいではないのだろう。


「レオン様も、ワタクシにとってかけがえのない方ですわ。……ですから、無理はなさらないでください」

「……ははっ。やはりイネスには敵わないな。こうもあっさり見抜かれてしまうとは」


 そう言って笑うレオン様の表情は、やはり少し無理をしているように見える。


「ふふっ。ワタクシに隠し事をしようとしたって無駄ですわよ? レオン様の嫉妬心くらいお見通しですわ。……でも、そんな嫉妬心ですら嬉しいですわ。だって、嫉妬してしまう程にワタクシのことを愛してくださっているということですもの」


 レオン様の表情に隠された嫉妬心。でも、自分以外の人と仲が良さそうにしている姿を見て嫉妬してしまうのは、恋人としては当然だとワタクシは思う。……だって、ワタクシもレオン様が他の方と楽しそうに会話をしていたら嫉妬してしまいますもの。


「……そう言ってくれると嬉しいよ。――さて、そろそろ本題に移ろうかな」


 レオン様の表情からぎこちなさが消える。本題と言うのは、きっとクリスマスに不可欠なアレ……、プレゼントのことだろう。なにせ、以前にお互いに渡し合おうと約束しているくらいなのだし。


「ふふっ、ワタクシも楽しみにしておりましたわ」

「僕もだよ。イネスがどんなものをプレゼントしてくれるのかずっと考えてしまっていたくらいだよ。……でも、まずは僕から渡そうかな」


 そう言って、持っていた鞄から小さな箱を取り出し始めるレオン様。箱の形状から、プレゼントの内容が丸わかりだ。間違いなく、指輪の類だろう。


「……あらあら。レオン様ったら、嬉しいものをくださるのですね」

「さすがに分かってしまうか。……色々考えたんだが、こういう時はストレートなものがいいかなと思ってね」


 そう言うレオン様の顔は、恥ずかしそうにほんのり赤く染まっている。おそらく、ワタクシにくらいしか見せないだろうその表情に、ワタクシもつられて頬が熱くなってしまう。


「では、どうぞ。――メリークリスマス、イネス。近いうちに、結婚指輪を渡すことにはなるだろうけど、それまではこれを身に着けていて欲しい。……さあ、手を出して」


 レオン様が箱を開ける。……そこに入っていたのは、小さなダイヤモンドがあしらわれたシンプルな作りの指輪。


「え、ええ……。ありがとうございます、レオン様。例え結婚指輪を貰っても、二つとも一生大事にいたしますわ」


 予想通りの代物ではあったけど、それでも嬉しさで視界が滲んでしまう。きっと、このプレゼントもたくさんの時間をかけて選んでくれたのだろう。そう思うと、自然と涙があふれてしまう。


「ははっ。……涙を流す程に喜んでくれるとは思ってなかったな。そこまで喜んでくれたのなら、僕も嬉しいよ。……それに、自分も同じデザインの指輪を買ったんだ。だから、その……」

「ペアリング、ということですか?」


 ワタクシの言葉に、恥ずかそうに小さく頷くレオン様。妙に可愛らしいそのしぐさに、思わず小さく吹き出してしまった。


「あ、ああ。……だから、その指輪を見たら僕のことを思い出してくれると、う、嬉しいかな。……中々恥ずかしいね、これは」

「確かに恥ずかしいですけど……、それ以上に嬉しいですわよ、ワタクシは。……だって、レオン様もこの指輪を見てワタクシのことを想ってくれるということでしょう?」


 そう言ったワタクシ自身も、恥ずかしさで顔が熱い。……付き合い始めてそれなりに時間も経っているのに、こういうやりとりはやはりまだまだ気恥ずかしさが勝ってしまう。


「ああ、そうだね。……まだしばらくは中々会えない日々になるだろうけど、これで大丈夫かな」

「会えないのはもちろん寂しいですが……。でも、この指輪があれば幾分かはその寂しさも和らぐと思いますわ。――本当にありがとうございます、レオン様」


 ワタクシの手のひらで輝く指輪を眺めつつ、ワタクシもレオン様へのプレゼントを取り出す。果たして、レオン様は喜んでくださるでしょうか……。


「では、ワタクシからはこれを。その、先程の指輪と比べると見劣りしてしまうかもしれませんが……。でも、想いはしっかりと込めておりますわ」


 言いながらレオン様に差し出したのは、サッカーボールくらいの大きさの紙袋。可愛らしくピンクのリボンでラッピングされたその中身は……、


「そんなことないさ。想いさえ込められているのなら、どんなものでも僕は嬉しいよ。おや、これは……」


 袋の中に入っていたのは、クッキーやチョコレート、マドレーヌなどの様々なお菓子の詰め合わせだ。……どれもこれも店で購入したものではあるけれど、ワタクシのお気に入りばかりをの選りすぐりの詰め合わせだ。


「レオン様は昔から甘いものお好きでしたから。どれもこれも絶品ですわよ」

「ああ、本当に嬉しいよ、ありがとう。……しかしこれだけあると、どれから食べるか悩んでしまうな」


 袋から色々なお菓子を取り出しながら幸せそうな笑顔で悩むレオン様。……良かった。少し不安だったけど、ちゃんと喜んでくれたみたいだ。


「レ、レオン様。……その、提案があるのですが」

「提案、かい? ふふっ、なんだろうな」


 その笑顔からして、もう提案の内容は気づかれているだろう。この状況でワタクシからする提案、それは――


「もう、夜も遅い時間ではありますが……。今から、二人で一緒に食べませんか? 美味しい紅茶と一緒に、ゆっくり味わいながらお話ししましょう?」

「ああ、もちろんさ。……まだまだ、夜は長いからね。ゆっくり、二人きりの時間を楽しまないとね」


 クリスマスの夜はまだ長い。……それなのに、とても駆け足で時間が進んでいるように感じてしまうほど、楽しくて幸せなひと時だった。

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