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旅行スタート!

「うわ……、この飛行機ホントに貸し切りなんですね……。なんか未だに信じられないです」

「同感だよ。まさか普通のジャンボジェットを貸し切りで使える日が来るなんて思ってなかったしね」


 俺と八橋さんが空港の出発ロビーで感嘆のため息を漏らす。その視線の先にあるのは、なにやら見慣れないマークを付けた、一機の飛行機。――そう、今から俺たちが乗り込む予定である、プライベートジェットだ。


「ほら二人とも、呆けてないでさっさと行きますわよ。プライベートジェットでもちゃんと離陸時間は決まっているのですから」

「さっきイネスに聞いたけど、中もすっごいらしいからねー。早く乗ってみよ?」


 一見冷静そうに見えるイネスさんとクリスも、その表情からは興奮が見て取れる。……どうやら、皆楽しんでいることは間違いないみたいだ。


「ええ、早く行きましょう、皆さま。乗ってからもフランスまでは長いのですし、ここではしゃいぎすぎると疲れてしまいますよ?」


 こんなことを言ってる保護者ポジションな間宮さんですら、珍しく浮足立っているのは丸わかりなくらいだ。


 ――まあ、待ちに待った旅行がついに始まる訳だし、皆のテンションが高いのは当たり前なんだけどね。


「さっ、早く行こっ、あっくんっ!」


 クリスが俺の手を引っ張りながら早歩きを始める。走りださない辺りまだ冷静さは残ってるかな……? いや、皆の目がある中で手を引き始める時点で冷静じゃないか。とにかくハイテンションかつ上機嫌なクリスに引っ張られながら、俺はプライベートジェットのもとに向かうのだった。


「……はぁ、クリスったらすっかり舞い上がってしまってますわね。気持ちは分かりますけれど」

「ははっ、アタシたちも十分舞い上がってるんで、人の事言えないですしねー。ほら、イネスセンパイも間宮さんも行きますよっ」

「ええ、行きましょう。……ふふっ」


 *


「んー、美味しいっ!」

「機内食ってことを忘れそうになる美味しさですね……。流石はお金持ちのプライベート機」


 飛行機が離陸してから約30分後。高度も安定してシートベルトを外しても良くなったタイミングで、なにやら豪華な食事が俺達のもとに運ばれてきた。……ただでフランスまで連れて行ってくれるだけでもありがたいのに、食事まで用意してくれるとは。イネスの許嫁……、恋人という人は、とても優しくて気が回る人みたいだ。


「これは中々ですね。……あとでレシピを頂きたいくらいです」

「そうですね。俺も作ってみたいな、これ……」


 と、俺と間宮さんの意見が一致した。……でも多分、レシピなんて貰わなくても間宮さんなら感覚だけで再現してしまいそうな気がする。


「あらら、センパイも間宮さんもすっかり仕事モードになっちゃってますね……」

「あれはもう病気ですわね。まあ、そこまで仕事に没頭できるのは羨ましいですけれど」

「あはは……。まあ、私からしたらいつもの二人なんだけど」


 お嬢様方からの視線に気づき、仕事トークを辞めて普通に食べ始める俺と間宮さん。せっかくの旅行だし、仕事のことは忘れて楽しむって決めてたのに……。自分ではあまり意識してなかったけど、俺は思っていた以上に従者という仕事にハマってしまっているみたいだ。


「そーいえば、フランスまであとどんくらいかかるんでしたっけ?」

「だいたい半日くらいですわ。時差ぼけしても困りますし、食事をとったら寝てしまった方がいいですわよ」

「なるほどねー。すぐ寝ちゃうのはちょっとつまんないけど、フランスに着いたらすぐ楽しみたいし、イネスの意見に従っとこうかな?」


 イネスさんはフランスと日本を何回も往復してる訳だし、経験者の意見は参考にした方がいいだろう。


 *


 皆で食事をとってから約2時間後――


「ええ、ですから今はもう皆寝ていますわ。……べっ、別にそういう訳ではありませんわっ。決してこの通話の為に皆を寝かせた訳ではないですわ。まあ、その……、まったくそのつもりがなかったわけではありませんけれども」


 ふと目が覚めた俺の耳に、イネスさんの楽しそうな声が聞こえてきた。……誰かと話しているみたいだけど、相手の声は聞こえない。電話……、は飛行機の中じゃできないはずだし、いったい誰と話しているんだろう?


「ふふっ、やっと会えますわね……。ええ、ずっとずっと楽しみにしていましたわ。……もうっ、偶にはいいではないですか、甘えてしまっても」


 何だろう、聞いてはいけないやり取りを聞いてしまっている気がする。そう瞬間的に思った俺は、すぐさま再び眠りにつこうとしたのだが……。


「アキラ? 起きているのは分かっていますわよ?」

「うわっ!」


 どうやら既にイネスさんには気づかれてしまっていたようだ。


「しっ、ですわ。皆起きてしまいますもの。……えっと、その。――聞きましたか?」

「……はい」


 否定してもバレる。直観でそう察した俺はさっさと本当のことを白状することにした。


「はぁ……、やはりそうでしたか。いえ、別に構いませんけれども。聞かれる可能性があることくらい、始めから分かっていましたもの」


 いや、とてもそうは思えないような会話の内容だったような気が……。実際、その頬は真っ赤に染まっているし。


「えっと、ひょっとしてさっきの会話って――」

「ええ。許嫁であるレオン様との通話ですわ。この飛行機なら通話も出来るというので、少しお話ししていたのです」


 本来の飛行機で通話ができない理由まではよく知らないけど、プライベートジェットであるこの飛行機はそのあたりも特別なようだ。


 ――とまあ、そんな変な感心をしたのも束の間、


「アキラ? 一応言っておきますけれど、さっきの内容は全てヒ・ミ・ツ、ですわよ? 間違ってもクリスに言ったりはしないように。――いいですわね?」


 そう言うイネスさんの迫力にすっかり気圧されてしまった俺は、無言でコクコクと頷くことしかできなかったのであった――

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