ガールズ・トークⅩ
「クリス、入るわよー?」
「……あれ、お母さん? いいけど、どうしたのー?」
あっくんに旅行の準備を手伝ってもらった後、一人で持って行く服を鞄に詰めていると、不意にドア越しにお母さんから呼ばれた。……もう夜中の1時を回ろうかという時間なのに、どうしたんだろう?
「んー、別にー? ただちょっと気になったから寄ってみただけよ」
「いやいや、もう真夜中なんだけど。っていうか、何か気になることでもあったの?」
「まあねっ。――いやー、まさかこんな夜遅くに晃くんを部屋に招いてるとはねー。……何したの?」
……どうやら、あっくんが部屋を出ていくところでも見られてたみたい。まあ、別にやましいことは一切なかったんだけど……、なんとなく気恥ずかしい。それに、なんかあらぬ誤解をされてる気がするんだけど。
「いや別に、旅行の準備をちょっと手伝ってもらっただけだって。別になにも変なことは……うん、なかったよ?」
「ええー? 今の間とか絶対怪しいんだけどなー。ほらほら、隠さなくてもいいのよ? なにやっててもいいじゃない、せっかく恋人同士なんだしね」
「いや、本当になにもなかったって。……せいぜい下着見られたくらい」
正確に言えば“見せた”だけど流石にそう言うのは憚られた。あっくんてば、下着くらいであんなに恥ずかしがることないのに。……いやまあ、私だって下着姿を見られたら流石に恥ずかしいけど、下着はただの布なのに。
「あんたねぇ……。ちょっとは恥じらいを持った方がいいんじゃないの?」
「ええー。……っていうか、さっきのお母さんの台詞と矛盾してない、それ?」
「恥じらいは必要よ。……恥じらった上で、色々するのよ。その方が男はグッとくるんだから」
「……いやー、まさか実の母に恋愛指南されるとは思ってなかったなー」
しかも、その指南の内容が誘惑の方法だとは夢にも思わなかったなー。いやまあ、言ってる内容はごもっともなんだけど。
「ま、私は中々に恋多き女だったからねー。クリスがうらやましいわよ、ホント」
「お母さんだって、最後にはいい人見つけられてるじゃん」
娘の私から見ても、今のお母さんは本当に幸せそうにしてると思うし。沢山の恋をするのも、初恋の相手と一途に添い遂げるのも、どっちでも幸せならそれでいいと思う。……色んな男の人を好きになれるっていうのも、それはそれで羨ましいし。私はきっと、あっくん以外の男の人を好きになることはもう一生ないだろうから。
「まあ、それはそうなんだけどね。クリスはその幸せを私よりながーく感じられるんだもの。羨ましくもなるわよ」
「なんか、当たり前のように私とあっくんがこの先ずっと好き合ってることになってるの、ちょっと嬉しいかも」
「そりゃそうでしょ。あんたたちが別れるなんて、世界が滅亡するよりずっとありえないわよ。少なくとも、私にはそう見えるわ」
実の母にここまで言われるなんて、普段の私とあっくんてば周りにどれだけバカップルに見えてるんだろう……。いやまあ、別にバカップルなのは否定しないけど。
*
「で? 別に私とあっくんの仲をいじる為だけに来た訳じゃないでしょ? ……なんかあったりした?」
「うーん、流石私の自慢の娘ね。こうもあっさり私の思惑を見抜くとは」
「そこまで大層なことでもないと思うけど……。ほんとにそれだけが理由なら、わざわざこんな夜中に部屋に来ないだろうし、って思っただけだし」
いくらお母さんでも、ただ娘の恋愛を冷やかす為にこんな時間に部屋に来たりはしないはずだ。……しないよね? だから他になにか話したいことでもあったんだろうと思って聞いてみたんだけど……、どうやら当たりみたいだ。
「ほら、もうすぐクリスはフランスに行く訳じゃない? しばらく会いたくても会えなくなる訳だからね。今のうちに話しておこうかなー、とか思ったわけよ」
「なるほどね。……別に明日でもいいのに」
今の所は特に用事はないし、お客さんが来るのは夕方の話だ。別に昼間にゆっくり話しても良かったんじゃないかな?
「明日明後日は私の方が忙しくなりそうなのよね。年末は久々にがっつり家事をやることになったから、先生にみっちりしごいてもらわないといけないのよ」
「先生……ああ、間宮のことか」
お母さんに家事を教えられる人なんてこの屋敷には間宮くらいしかいないしね。
「正解っ。だから昼間はあんまり時間取れないのよ」
「なるほどね。で、その……、どんな話なの?」
お母さんがわざわざ時間を取って私に会いにきた訳だし、きっとなにか重要な話題があるんだろうと思ってそう聞いてみたんだけど……、
「ははっ、別に怖がらなくても大丈夫よ。クリスの話を聞きたいって思っただけだから。クリスだって、最近あんまり二人きりの時間取れてなかったし、言いたいこととかあるんじゃない?」
「まあ、なくもないけど……」
ちょっと真面目な話だし、いきなり話すとなると気が引ける。……でも、せっかくこうして時間を作ってくれたんだし、話してみようかな。
「でしょ? ほらほら、遠慮しないで言ってみなさいな」
「うん。えっと、実はね――」




