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ガールズ・トーク

 時刻は放課後。文化部棟、写真部部室――


「……ここで二人きりというのも久しぶりですわね」

「だねー。最近は晃がいたし」


 今日は晃がいない。ちょっと前まではこれが当たり前だったはずなんだけど、ちょっと寂しく感じてしまう。


「それにしても、今日アキラはどうしたんですの? 仮にもあなたの従者でしょうに。放課後あなたと一緒にいるのが彼の仕事なのではなくって?」

「あー、まあそれはそうなんだけど。今日は家の方にお客さんが来るらしくって。料理の準備のお手伝いが欲しいって間宮さんから言われてるから、そっちに手を貸してもらってるの」

「なるほど。あなたはいかなくてもいいのですか?」

「私は今日はパス。もしボロが出たら取返しが付かない相手らしいから」

「……それは……なるほど。ええ、賢明な判断ですわね」


 今の晃との関係はちょっと複雑だ。幼馴染でありながら、従者とお嬢様という主従関係でもある。……まあ、晃と一緒にいる時間のほとんどはいつもの喋り方をしてるし、幼馴染の関係の面の方が強いけど。もし晃が私たちと同じクラスに来ていたら、さぞ気苦労をかけただろう。あの普通の学校ではありえない異様な緊張感は、ついこの前まで普通に生活してきた晃には厳しい筈だ。私だって、慣れてはいてもキツイと感じているし。


「……やっぱり、止めといた方が良かったのかな」

「そんな事はないと思いますけど? ワタクシも確かに反対はしましたけど、今となってはこれで良かったと思っていますし。アキラはよくやっていますよ。もちろん、まだまだ完璧という訳ではありませんが」

「そうかな。なら、いいけど」


 晃を私の従者にする。そう決めたのは晃の境遇を知ってすぐだったけど、私は行動を起こす前にイネスに一度相談した。……今言った通り、あの時のイネスの回答は「止めといた方が彼の為ですわ」だった。でも私は結局それを押し切って晃を従者にした。後悔はしてない……つもりだったけど、最近少し悩んでしまうのだ。ほかの道に進む手助けをしてあげた方が、晃のためだったんじゃないか、と。


「アナタが決めたことでしょう? 責任は持ってあげなさいな」

「それはもちろん。でも、これが一番いい方法だったのかな、って考えると、他の道もあったんじゃないか、って思っちゃって」

「そう思う気持ちも分からなくはないですけど。でも、彼も苦労はしているでしょうが、同時に楽しんでもいるはずですわ。だから、あなたがそんな風に悩む必要はないと思いますよ」


 イネスの人を見る目は確かだ。その彼女がそう言うんなら、それで間違いないんだろう。


「……うん。そうだね。――よっし、もー吹っ切れた! この話題おーわり!」

「ええ、それでこそクリスですわ」


 *


「……そういえば、この前の土曜、どうだった?」


 話題は移り、この前のイネスについて。私はもちろんイネスの許嫁の事は知ってるし、なんなら一度会ったこともある。私たちよりも六つ上で、既に彼の一家の重要な仕事を任されているらしい。イケメンだし、人当りも良いし、しかもイネスの事をちゃんと大事に想っている、私の目から見ても超良い人だ。……イネスも彼の事は好きみたいだけど、どうにも少し距離を置いてるように見える。なにか問題でもあるのかなぁ……。私にはお似合いに見えるけど。


「どうって言われましても。一緒にお食事をして、少しお話しただけですわ」

「楽しかった?」


 イネスの目が泳ぐ。ひょっとして、あんまり楽しくなかったのかな……? そんなはずないと思うけど。


「……まあ、否定はしませんわ」

「そっかー、楽しかったかー。いいなー、青春だなー」

「青春とはかけ離れてると思うんですが……」

「そうかなぁ? 好きな人と一緒にご飯を食べる、なんてまさに青春じゃん。そりゃ、普通の高校生同士の恋愛とは違うかもだけど。でもさ、楽しいんならそれが青春だと思わない?」


 少なくとも私はそう思う。お互いの立場が普通じゃなくても、相手と年齢が離れていても、その人と一緒にいて楽しいんならそれは間違いなく青春だと思うけどな。


「それは、いささか強引すぎではなくって……? まあ、言わんとしていることは分かりますけども」

「でしょ? いいなぁ、イネスはそういう相手がいて。私は全然縁がないからさ」

「それはまあ、今みたいな生活ではしょうがないでしょう」


 私には許嫁はいないし、お父さんも普通に恋愛して相手を見つけなさい、って言ってくれてる。……でも、普段私は感情を表に出さないように生活してるから誰も近寄ってこないし、クラスの男子は皆普通の恋愛ができるような立場の人じゃないしで、恋愛とはとことん縁遠い生活だ。別に嫌じゃないけど、もし今も普通の生活をしてたら、私にも彼氏とかいたのかな、なんて偶に考えてしまうことはある。


「まあ、そうだけどね。だから諦めてはいるんだけど、たまーに羨ましくなっちゃうのさ。気にしないで」

「……それこそ、アキラとかどうなんですの?」

「いやいや。晃は私と付き合いたいなんて思ってないだろうし」


 そりゃ、晃は優しいし、気も回るし、何より昔からの幼馴染だし、付き合ったら楽しいとは思うけど。でも、晃にはその気はないだろうし……ねぇ?


「……はぁ。ほんっと、揃いも揃って……」

「なに?」

「いいえ、なんでも」

「……?」


 なんだろ。イネスにしては珍しい物言いだ。そう言えばイネスも最近は晃と二人でいる機会が多いし、何か言われたのかな……?


 *


 ほぼ同時刻。文化部棟のとある部室にて――


「にっししー。これはなかなかの特ダネ……!」


 少女が一人、そんなよく分からんことを呟いていた。


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