論証の迷宮(3)・第五話
・イヴァン=J=グランドウォーカー
成績優秀で、虎武龍麒、山滉穎と肩を並べる。芸術の能力は非常に高く、絶対音感を持つ。滉穎と比較され、「才能の天才」と呼ばれる。イケメンで、スタイルも良いが、体力と運動センスが絶望的である。滉穎とは犬猿の仲であり、会う度に喧嘩を繰り広げるが、戦闘においては滉穎に絶対勝てないと分かっているため、口喧嘩にとどまっている。
傲慢で強欲だが、正義感は強く、絶対主義者でもある。アメリカとロシアのハーフだが、日本出身の男。
神格武器に選ばれるという、非常に稀な出来事を通して、ソナチネ(剣)と契約した。
論証の迷宮の攻略を進める山滉穎は、松尾冬輝と川相希望の翻訳によって順調に試練をクリアしていた。
「ねぇ、翻訳に私少しも役立っていない気がするんですけど」
希望が不満そうに呟き、同時に落胆した態度を見せる。
「まあ、仕方がないな。松尾は読み書き専門で、しかも感で覚えが早くできるしな。川相は会話中心に習ったんだろ」
「まあ、そうだけど」
「おっと、もう次の試練だ」
「でも山。もうこれさ、試練じゃなくてただの数学の問題だろ。しかも論証問題の」
「言うなよ、木村」
滉穎は苦笑いで応え、冬輝に翻訳を頼む。数分が経過した後、
「よし、大体分かった。《List up》」
「はやっ! 私まだ半分もできていないのに」
希望が驚きを露わにし、読みに悪戦苦闘している間に、冬輝によって問題の内容は滉穎達に伝えられた。
「はい、解けた。先に進むぞ」
「そっちも、はやっ!!」
再び驚嘆の声を挙げた希望を他所に、開いた扉の先へと進む。
扉の先には地球の体育館より少し広いが何もない暗い空間が広がり、存在を主張するかの様に宝箱が置かれていた。
「怪しいけど、おそらくこれで終わりか。小栗、そこの大きな石を拾ってくれないか」
「分かった」
滉穎は、臥龍から石を受け取ると、
「覚えたてだけど、技の付与魔法使ってみるか」
その発言に、五人は「えっ!!」と声を漏らした。
「いつの間に覚えたんだよ」
「稲垣が付与魔法教わる時に俺も参加させてもらった。まあ、今は複雑なことはできないし、集中しないと自由には使えないけど」
そう言うと、直径10㎝の石に情報を帯びた魔力を流し、質量を増加させる。
「《mass conversion》」
質量を増加させた後、その石を宝箱に投げつける。鈍い音が響き、静寂が訪れる。数十秒経過し、その静寂を滉穎が破る。
「問題なさそうだな。周囲を警戒しながら、付いて来てくれ」
トラップの存在がないことを確認した彼等は、部屋の奥へと進む。
「ところで山?」
「ん? 何だ?」
「何で石の質量増加させたんだ?」
「今までの罠、というか迷宮の仕組みが土属性の特徴だったからね。人を検知するなら重力、つまり質量を使うと思っただけさ」
すなわち、加圧センサーのことである。
「なるほど」
慎重に足を運ばせた七人は、宝箱の前で止まる。
「何と言うか、イージーモード過ぎだな。ここから何もなければ良いけど」
「捷、それはフラグだ」
「残念だったね。もう回収されたみたいだ」
滉穎は宝箱から紙を出すと、そのまま臥龍に手渡した。
「どういうことだ?」
臥龍は、渡された紙を開くが、ラテン語で書かれていたため、読めなかった。
「すまない山。これ、読めない」
「ああ、すまない。ラテン語は俺だけだったっけ? そこには、この中に一人偽物がいるって書いてある。そいつを見つけ出したら攻略成功。しかし、十五分以内にできなかった場合、強制転移で入り口へ」
「「はっ? 偽物?」」
見事に全員の言葉が重なり、部屋の中で木霊した。
「いつ入れ替わったんだ?」
「おそらく、あの扉からここに来るまでの間だろうな。全体が分かるぐらいの明るさだし、光の強さも弱くなったり強くなったりで一定じゃなかった。おそらく弱い時にすりかわったんだろ」
「ん?」
「どうした? 小栗」
「あっ、いや何でもない」
「そうか。まあ一応、見分ける方法は思い付いたぞ」
「本当か!? どうするんだ」
「神格武器だよ」
・聖句
神格武器の能力の一部を解放させるコマンド。
・ソナチネー光、音
所有者 イヴァン=J=グランドウォーカー
《呈示》《展開》《再現》と呼ばれる三つの能力を基本とした少し特殊な神格武器。聖句は先の三つに加え、《魔弾の射手》があり、重ね掛けできない。英霊は、地球の音楽家複数人であると言われている。
一時的解放では、4つの能力の内どれか、または全てを完全開放する。二つなら「デュエット(二重奏)」、三つなら「トリオ(三重奏)」、四つなら「カルテット(四重奏)」である。伝説に「クィンテット(五重奏)」もあると言われる。