著者不明の手記より・第一話
・山滉穎
好奇心旺盛な性格とそこからもたらされた集中力と探究心、演算能力、身体能力によって、トイラプスの召喚者の中で成績最上位となり、アルティメットアクションと認められる。しかし、芸術へのセンスは皆無かつ感覚が人と異なる。
「速」を活かした接近戦と「力」の近接格闘、「感」の演算処理能力による相手の分析によって、近距離戦において彼の右に出る者はいない。
・玄羽=ヴァトリー
特別諸般対策考案部隊(SVMDF)の隊長で、帝国でも屈指の実力を持っている。山滉穎や数多の熟練者の師匠であり、28歳という若さで暗黒世界にまで名が知れ渡る程の功績と強さを持つ。
君は同志だろうか。まあいい。私の考えをここに綴ろう。
この物質世界に正義はない。
しかし、勘違いしてはいけない。物質世界はカオス、混沌の世界という訳ではない。
この正義という概念において、人間が軽々しく「正」を付けてはいけない、ということである。「正」論もまた然り。
人の数だけ考え方が存在するのだから、誰がその中の一つを「正」と言えるのか、いや、言えない。言ってはいけない。
その行為は傲慢と等しく、それが正当化されるのであれば、その存在は神を超えている。
しかし、精神世界にさえそんな存在はいなかった。居たのであれば、争いなど起きるはずがなかったからである。神と名乗ったその存在は、神ではなかった。一歩間違えれば、悪魔と呼ばれたであろう汎用型精霊、元物質の生物であった。
それは、本人達も理解している様である。聖戦という人間、否エレメンターの反乱を通して。そして、彼等は考え始め、一つ自分達の過ちを見つけた。それは「絶対的な正義」による戦争。
「絶対的な正義」は「悪」と同義、簡単なことに気付いた彼等から、争い、戦争の文字は消え失せた。そして、エレメンターの魔境には平和が訪れ、地球の人間は愚かにも争いを続けていた。
だが、過去が消えることはなかった。暗黒世界の襲来である。悪魔の残党が約二千五百年前に出現し、急速に力を獲得し、現在にまで及ぶ戦争が始まった。
今となっては、戦争をする意味さえも分からなくなっている者が多い。ましてや、召喚者である私達はどちらが正しいのかさえ理解できない。否、どちらが正しいなど言えるはずがなかった。
だから、我々は考え続け、それが最適解なのか問い続ける必要がある。それが、再び悪魔殲滅を使命に与えられたエレメンターに、必須な条件である。力を手に入れて、「絶対的な正義」を持ったと勘違いしてはいけない。
その瞬間、我々は悪魔よりも厄介な存在と化す。
正義は、この世になかった。
しかし、「義」や「仁」、大義名分は確かに存在した。それは私の友、いや兄と言うべきか、父か、それとももう一人の私か。その人が身を以て証明してくれた。
そして私は、僅かな感情を得た。明確な意志を持った。誰にも負けない知恵、理性を授かった。
それは時に、私を迷わせ、答えを詰まらせる。だが、もう私は正しくはなくとも、最適解を導き出せる。二年前に覚醒し、過ちを犯してから、「正」を否定し、正しさをただ追い求めて来たのだから。
最後に、同志に告ぐ。自身の考えに迷いが生じたのであれば、東の帝国へ向かい、彼の者に会うが良い。高確率で最適解を導き出せるだろう。
おそらく、同志がこれを読む時には私はこの世にいないだろうが。
暗黒世界
悪魔、鬼の加護の下に成り立つ魔王(タイプ=デビル)を中心としたエレメンター対抗勢力。人の負の感情、怒り、嫉み、妬み、怠惰、憎しみ等から悪魔のオーラによって発生(生物的な発生ではない)する魔物を扱うことが可能。属性はエレメンターと同じだが、裏属性が異なる。
・オフライン(ファウルアクション)
エレメンターのアクション、暗黒世界版。力、速に加えて、未来観測、アンデッド化の4型に分類できる。属性影響がエレメンターと比べて大きい。暗黒世界の農工商、奴隷、捕虜の管理を務めることが多い。
・ダークマター(ブラックマナ)
エレメンターのマナ、ブラックワールド版。武器も多少使用する。生、死、魔物、時間、空間といった属性を対神滅亡連合の悪魔・鬼から与えられた。